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258号 医療基本法の制定にむけた議員連盟設立総会報告

「医療基本法の制定にむけた議員連盟」設立総会の報告

川崎市 小林展大(弁護士)

1 設立総会の開催

 二〇一九年二月六日、衆議院第一議員会館一階の多目的ホールにおいて、「医療基本法の制定にむけた議員連盟」設立総会が開催されました。

 同設立総会の内容は、世話人代表挨拶、主旨説明、会長選任、患者会からの発言、医療界からの発言、意見交換、となっていました。

 


2 世話人代表挨拶

  尾辻秀久参議院議員から、医療基本法は、日本の医療を考える上で画期的なものとなる、前の国会では生育基本法、循環器基本法が成立したので、医療基本法も仕上げていきたいとの発言がありました。

3 会長選任・趣旨説明

  まず、会長には尾辻秀久参議院議員が選任されました。

  そして、医療基本法については、医療を受ける側、医療提供者側の議論が約一〇年続いている、医療基本法を制定しようという点では、患者側も医療側も一致している、国民目線の医療を作っていくためにも医療基本法を制定したいという発言がありました。

  また、一〇年前にハンセン病の検証で、医療全体を俯瞰する法律が必要ではないかという発想から、医療基本法が必要ではないかという議論になったとの発言もありました。

4 患者会の発言

⑴ 長谷川三枝子さん(患者の声協議会、日本リウマチ友の会会長)

   長谷川さんからは、患者の声を医療政策に反映させたいこと、会を立ち上げる経緯等について発言がありました。

⑵ 藤崎陸安さん(全国ハンセン病療養所入所者協議会事務局長)

   藤崎さんからは、らい予防法に基づく政策は、患者を強制隔離して、人間としての尊厳を害するものであった、医療基本法の制定にむけた議員連盟が発足して心強く思っている、二度と同じ間違いを繰り返さないでほしいという思いで運動をしている等の発言がありました。

⑶ 田中秀一さん(東京大学公共政策大学院医療政策実践コミュニティー)

   田中さんからは、医療は患者と医療者の信頼関係に根ざすものであること、旧優生保護法の問題、HIV差別、精神疾患患者への身体拘束等の問題があって、このような問題を防ぐためにも患者の権利の明記が必要であること、医療者が良い環境で働けることも必要であること等の発言がありました。

⑷ 伊藤たておさん(日本難病・疾病団体協議会)

   伊藤さんからは、医療基本法には障害者基本法のような性格も持たせてほしい、ゲノム編集は障害者に対する新たな差別になる危険をはらんでいる等の発言がありました。

 ⑸ 桐原尚之さん(全国「精神病」者集団)

   桐原さんからは、自身が小学生のときに統合失調症と診断されて大学進学がかなわなかったこと、患者の権利を明記して、医療者との信頼関係を取り戻すため、医療基本法を制定してほしいこと等について発言がありました。

 ⑹ 小沢木理さん(患者なっとくの会 INCA)

   小沢さんからは、患者が納得できる医療が重要であること、基本的な患者の権利の明記が必要であること、患者と医療者との信頼関係は、共通の認識であること等の発言がありました。

 ⑺ 漆畑眞人さん(日本医療社会福祉協会)

   漆畑さんからは、患者を人格と個性をもった個人としてみてほしい、医療基本法でソーシャルウェルビーイングを明確にしてほしい、病気や怪我をしても生活が壊れないように医療基本法を制定してほしい等の発言がありました。

 ⑻ 洗成子さん(日本精神保健福祉士協会)

   洗さんからは、ハンセン病と同じく精神医療も社会的入院・隔離が残存している、精神医療に関わっていると、医療者が患者の権利を奪ってしまう現実に直面する、医療基本法の制定が精神医療の課題の抜本的解決につながることを期待している等の発言がありました。

5 医療界の発言

 ⑴ 横倉義武さん(日本医師会会長)

   横倉さんからは、日本医師会では昭和四〇年代から医療基本法の検討をしてきたが、当時は法律として成立するには至らなかったこと、医療者と患者の法的関係を医事法制委員会で議論したこと、議論の過程で患者の思いの強さ・問題の所在等を教えてもらったこと、医療者と患者が手を組んで法律の制定を目指したいこと等の発言がありました。

 ⑵ 平川俊夫さん(日本医師会常任理事)

   平川さんからは、配布資料に沿って発言がありました。「医療基本法」が必要とされる背景、日本医師会における「医療基本法」の検討、日本医師会が考える「医療基本法」の位置づけのイメージ、医療提供者の権利と義務、患者の権利と義務、国・地方公共団体等の責務等についての発言がありました。

6 意見交換

意見交換の時間においては、次のような意見が述べられました。

 ・医療ビッグデータを適切に使いたい。

 ・医療基本法に予防医療の観点を入れるべきではないか。

 ・医師と患者の意識改革につながると思う。

 ・国民皆保険を守る規定を定めてほしい。

 ・個別法の総点検をしてほしい。

 ・国民皆保険は重要。

・患者の権利法をつくる会のパンフレットについては、患者参画をもっと具体的に記載してほしい。

・患者の権利法をつくる会のパンフレットの「与えられる医療から参加する医療へ」という標語はとても良い。

・医療基本法には、日本でなければ書けないようなアピールポイントがほしい。

・医療基本法には理念をしっかり書き込んでほしい。

・国民皆保険の維持、財源の問題も重要。

・法制度としては、医療法や医師法等との違いを説明できるようにしておくことは重要

7 最後に

  意見交換の後、羽生田俊参議院議員が事務局長を務め、役員は会長に一任することとされ、尾辻秀久参議院議員の閉会の挨拶をもって、医療基本法の制定にむけた議員連盟」設立総会は閉会となりました。

  医療基本法制定にむけた議員連盟が発足した現在、法制定の機運はますます高まっています。今後も法制定にむけた市民運動に関わっていきます。

ハンセン病家族訴訟間もなく判決言渡

 

福岡市 久保井摂

 

来る五月三一日午後二時、熊本地方裁判所において、ハンセン病病歴者の「家族」五六一名が国を訴えた裁判の判決が言い渡されます。

ハンセン病問題は、二〇〇一年に熊本地裁判決が画期的な国の控訴断念により確定して以来、基本合意に基づいて今日まで継続的に行われている国(厚労省)との協議や、ハンセン病基本法の制定、検証会議による医療基本法の提言など、患者の権利を考える上で常に重要な位置を占めてきました。そもそも、入所者のみなさんが提訴に至ったきっかけが、らい予防法の廃止を目前に控えて、人権の砦を担うべき法曹界は何をしてきたのかとその責任を問う、当時鹿児島の星塚敬愛園におられた島比呂志さんの本誌への投稿「法曹の責任」だったこともあって、折に触れて本誌でも紹介してきました。

疾病や障害を理由とする差別が許されないことは、私達の提案する医療基本法案にも明記していますが、あれほどの国民の支持を集めたハンセン病問題に関してさえ、未だに社会的差別を完全に払拭することはできていません。

この家族の裁判は、病歴者本人ではなく、その家族もまた、国の誤った強制隔離政策のために、ターゲットとされ、社会的差別を受ける地位におかれ、家族関係の形成を阻害されたとして、家族に対する国の責任を問うものです。

家族の多くは、病歴者とも切り離され、家族の発病ゆえに偏見差別にさらされてきたことを誰にも打ち明けることができませんでした。胸の奥深くに秘密を抱え、社会内で孤立し、どんな被害が生じているのかも社会の人に知られてきませんでした。

その家族たち固有の被害に光が当てられたのは、ある非入所者の子が、たったひとり国等を訴えて鳥取地裁に起こした裁判で、裁判所が、家族もまた強制隔離政策の被害者であることに言及したことに端を発しています。その裁判を応援していた当事者の中から、自分たちの被害についても国の責任を明らかにしたい、真摯に謝罪してほしいとの声があがり、全国に呼びかけたところ、五六〇名を超える家族からの問い合わせが殺到したのです。

裁判では、全原告の被害を明らかにする陳述書を提出したほか、原告の代表二九名の尋問を実施しました。どの原告も、深刻な被害を受けていること、その状態は今も改善されておらず、日々社会からの偏見差別の眼差しにおびえながら生活していることが明らかになりました。特徴的な被害としては、家族に病歴者がいることが明らかになったために破談になったり離婚を迫られたりしたという経験を持つ人がとても多いことがあげられます。

結婚差別は、社会的差別の存在を示す典型的な差別です。衝撃的だったのは、今回の訴訟に加わったことを後に配偶者に知られてしまい、離婚に至った年若い原告の存在でした。

このような理不尽な差別を、どうしたらこの社会からなくすことができるのでしょうか。

きたるべき熊本地裁判決を、その解決のための足がかりとしたいと思います。判決前夜の五月三〇日夕方、森都心プラザホールで前夜集会が開かれます。この集会と判決期日にぜひ多くの方々のご参加をお願いします。

保険料納付は大切な権利

 

滋賀県  葉山 聡

 

【編集部より】

今回葉山さんから久しぶりに投稿いただいた本記事をそのまま掲載するか悩みました。

障害を持ち、思うような人生を歩んでくることのできなかった葉山さんが、最近ようやく遡って障害認定を受け、とぼしい年金を受給できるようになったと喜んでいた矢先、保険料免除についての通知が届いたというものです。

葉山さんのお母さんは、経済的に苦しい中、将来のことを思って、葉山さんの国民年金や国民年金基金の保険料を払い続けてこられたそうです。そのおかげで、葉山さんも、六五歳を超えれば、月額十一万円の老齢年金を受給できるはずでした。

ところが、障害年金を受給していると老齢年金は受給できないことから、三十年以上支払い続けた保険料が遡って免除されたことになり、強制的に払い戻されてしまうのです。このままでは、せっかくのお母さんの思いと努力が台無しになってしまいます。

精神障害などの場合、将来的に症状が改善して障害年金が支給されなくなることもあり得ますし、高齢になれば支給額がより低額である障害年金を断り、老齢年金のみの受給を希望する人も多いはずで、改めて保険料を支払って老齢年金受給資格を温存しておきたい場合には、希望により、保険料を追加納付する手続をとることができます。しかしながら、この制度を利用すると、保険料が加算される上、追納しても、本来なら将来的に受給できた額の老齢保険のレベルの年金を受給することはできないしくみになっているのです。

障害があることをもって、障害のない人と同じような年金保険料の納付が許されなくなる、そんなことがあってよいのか。重大な権利侵害ではないか、差別ではないか、そのような問題提起なのですが、何しろ内容的に難しく、すっと頭に入ってこない難しい問題でもあります。編集者も決して正確に理解できているとは言えません。

しかし、たいへん深刻な、そして大事な問題提起ですから、そのまま掲載することにいたしました。

 

 【消える年金】

記録喪失に見られるように年金実務には杜撰な面もある。国民年金加入者が障害基礎年金を受給すると、法定免除に該当する期間に支払った国民年金保険料の全額を強制的に還付される。国民年金保険料が還付されると国民年金基金も同様に全額強制還付となる。二十歳から途切れずに収めていると六十五歳以降国民年金・国民年金基金合わせて月に十一万円受給できる。これが例えば二十歳前障害という事で五十歳から障害基礎年金を受給し、法的免除に登録して還付を受けるケースを考えると、その後追納しても六十五歳以降月に合わせて三万円から四万円程度の受給額になる。過去の分の追納は十年しか認められず、当時の額ではなく、加算額が上乗せされた額になる。

一肢切断のような固定のものではなく、毎年診断書の提出を求められる、すなわち障害認定の匙加減のわずかな変化次第で打ち切られる可能性がある障害も多い。障害基礎年金受給を六十五歳まで続けられる可能性が低い人が多いのである。こうした場合でも第百二条の時効規定により五年までのみ認められる遡及請求をしていなければ、初診日の設定を新しいものにすることも可能かも知れず、法定免除の範囲が数十年に及ぶのを回避できる場合もあるかも知れない。しかし請求時にそうした知識のある人は少なく、受領した障害基礎年金の返還を希望しても、一旦認められた請求は取り消して返還することも出来ず、ピットフォール化している。勿論障害年金受給申請をしない人からは、同等の障害があっても徴収された保険料は還されない。昭和の保険料は月数千円から始まり、それを全部合計して返金されても貨幣の価値を十分の一に減じて戻されることになる。あくまで法的免除に登録しないまま六十歳になった人はそれまで四十年支払った全額を還付され、老齢基礎年金は支給されない。

障害基礎年金受給者は還付を受けるとその期間については、そうではない人の二分の一(平成二十一年四月以降)、三分の一(平成二十一年三月以前)の月数とみなして老齢基礎年金を計算される。それは障害年金で既に受け取っているからという理由なのだが、歳をとって受給を始めた人の場合、殆ど受給していない人もいる。減額は障害基礎年金を受給した期間に限定すべきではないだろうか。六十五歳以降同時に二つを受け取る事が出来るわけでもないのに、そもそも障害基礎年金を受給していたという理由で、老齢基礎年金を減額するようなトレードオフの発想で実務が行われるのは、国民年金は国民のためのものと言うより、最初から国の財源と見做されているからだろう。

【国民年金法と社保庁の通知】

関係する国民年金法第八九条の記述を引くと、

被保険者が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、その該当するに至つた日の属する月の前月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間に係る保険料は、既に納付されたものを除き、納付することを要しない。

一 障害基礎年金又は厚生年金保険法に基づく障害を支給事由とする年金たる給付その他の障害を支給事由とする給付であつて政令で定めるものの受給権者

二 生活保護法による生活扶助その他の援助であつて厚生労働省令で定めるものを受けるとき。

三 厚生労働省令で定める施設に入所しているとき。

第二項 前項の規定により納付することを要しないものとされた保険料について、被保険者又は被保険者であつた者から当該保険料に係る期間の各月につき、保険料を納付する旨の申出があつたときは、当該申出のあつた期間に係る保険料に限り、同項の規定は適用しない。(引用終わり)

この条文は元来障害者の経済的負担の軽減を目的としたもので、障害者から老齢基礎年金の受給権を奪う事を目的としてはいない。納付する義務は否定されても納付する権利は残っている。その上既に納付されたものを除きと明記されており、既に納付した障害基礎年金は還付の対象外となるはずである。

然るにこのような還付が強制されている原因は、旧社会保険庁からの通知にある。それは平成十八年九月二十九日庁保険発第零九二九零零二号でありそのまま引用すると、

「国民年金保険料の還付に係る事務の取扱いについて(照会)」(平成十八年九月二十六日三局文発第一二八二号)について、下記のとおり回答する。

国民年金保険料については、国民年金法第八十九条の規定により障害基礎年金の受給権者となるなど定められた要件に該当するに至ったときは、その該当するに至った日の属する月の前月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間に係る保険料について、既に納付されたもの及び同法第九十三条第一項の規定により前納されたものを除き、納付することを要しないものとされている(法定免除)。

これは、障害基礎年金の受給権発生日等の属する月の前月分以降の保険料については、同日前に納付のあったものを除いて納付義務自体が生じないためであり、その結果、同日以降において納付されていた保険料は、還付することとなるものである。

このため、障害基礎年金が裁定され、その受給権が遡って発生した場合には、当該受給権発生日以降に納付されていた保険料(同日の属する月の前月以降の保険料に限る。)は還付することとなるが、障害の程度が軽快した場合にあっては、保険料の還付を受けることが将来老齢基礎年金を受ける上での不利益な取扱いにつながる恐れがあることから、障害の程度が軽快する可能性のある被保険者については、保険料を還付するに際し、その旨を説明すること。

なお、説明した結果、被保険者が還付対象となる保険料に係る期間を保険料納付済期間とすることを希望する場合には、追納制度を活用することにより対応すること。」

(引用終わり)

官公庁の通知が行政の実務を規定することが許されるのは、あくまでその条文の議論にならない程度に明瞭で常識的な内容について、その実行の仔細を指示する程度に限定される。本来条文を吟味する経緯を持たない通達が、その条文の本質を変質させ、かえってその否定を実行させる結果となる例と云えよう。

【実務と法解釈】

逆に当座の生活の困窮から還付されないことに苦しむ障害者もいる。障害認定日が初回保険料納付日に先行する場合は、障害認定日の前月以降の分は全額還付され、逆に初回保険料納付日が障害認定日に先行した場合は一切還付されない。何故このようなことが起こるのだろう。年金機構の法解釈に於ける「既に納付されたもの」の「既に」はどのような時に対する過去なのか。それは法定免除の決定日ではなく、障害認定日である。しかし便宜上言葉を略せば「被保険者が障害基礎年金受給権者に該当するに至つたとき、 保険料は、既に納付されたものを除き」と続く条文の「とき」は法定免除の決定日を指示している以上、「既に納付されたもの」は当然法定免除の決定日以前の納付保険料と理解されるべきである。

そして「納付されたもの」という文言はどのように受容されているのか。「もの」を「物」ではなく「者」と誤解しているのでなければ、法定免除なく支払われた保険金は、その後納付された一切の保険金の性質をそれと同様の属性に決定づけると見做している、と云える。法定免除対象者の場合、一人前のライフヒストリーを備えた尊重すべき人としての重さを持たず、単に処理すべき個々の事案と感じられており、障害認定日以前に納付がある場合は、既に納付された事案として決済が完結するのだろうか。このようにして、法定免除対象者の立場に立った一般的な法理解とは、百八十度食い違った行政が決行される。加えて還付を受ける権利は二年で時効によって消滅するにも拘わらず、数十年も遡って法的な典拠のない還付が行われている点も問題である。

【苦情への行政の対応】

苦情も多く寄せられているが行政の見解はどのようなものなのか。東京都行政評価事務所に相談のあった「二十歳前からの精神疾患で娘が平成二十六年に平成九年を認定日とする障害基礎年金裁定を受けた。国民年金保険料十七年分は返還される。裁定月前の十年分のみを加算額付きで追納できる。という説明を受けたが老齢基礎年金をできるだけ多く受給させてやりたいし、返還されたうえ、十年のみの追納に加算額では納得がいかない。」という事案の場合、「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」(年金機能強化法)施行日の平成二十六年四月一日以降の保険料については、本人希望により保険料納付機関として取り扱えるようになっている。

追納期間が十年迄であることについては、追納金額の高額化、年金記録の煩雑化を避ける目的で、追納加算額については一般納付者との均衡、年金積立金として運用されなかった機会損失を理由にそれぞれ設定したと厚生労働省年金局年金課は回答しており、また、保険料納付済みの者に限り年金機能強化法附則第九条を適用しない、即ち、年金機能強化法の施行前である平成二十六年四月前の期間に係る保険料についても、年金機能強化法による改正後の国民年金法第 八十九 条(新設された第二項)の規定を適用することは、一 年金制度は社会保険の仕組みであり、支給事由が生じた当時の法律の規定を基に給付を行うことが原則であること、二 法改正による効果は、将来に向かってのみその効力が生じることとなるものであることから、困難であると回答している。細部に於いて平等性の確保を心掛ける努力自体が他の不平等を生み出し、全体的には支離滅裂に近く、抜本的な改革の必要性を感じさせる。

【今後の展望】

個々の障害者の受ける損失の程度には個人差があり、六十五歳を待たずに他界する方にとっては還付はむしろ有難い事であり、逆に長寿障害者は大損である。それだけでなく、他の要素として二十歳前或は少なくとも同様に二十歳頃に初診日がある。障害基礎年金の受給開始は遅い。障害基礎年金が打ち切られる可能性がかなり高い。国民年金、国民年金基金を未納期間なく収めている。厚生年金他の救済手段がない。これらの要素がそろっているほど、受給者の受ける打撃は深刻である。年金制度は硬質で一律だが、障害や障害者の人生は多様であり、多様性に沿った柔軟性の獲得が課題である。

国民年金保険料納付という行為は国民の生存権に基づいており、納付義務は生存権に基ずく納付行為に先行しないため、納付義務のないことをもって納付された保険料を無効化する権利はないと言うべきである。結果的に障害基礎年金を受給するものは、老齢基礎年金に関する権利を大幅に制限され、その救済ネットワークから追放される。還付の強制は問題であり、現状では法定免除はあくまで被保険者自身に選択権があるとするか、障害年金を受給した期間に限定するのも一案だろう。

 

☆参考URL☆

https://www.nenkinbox.com/archives/6153

http://www.soumu.go.jp/main_content/000331312.pdf