私たちが目指す権利法の法律案

医療記録法要綱案

1999年11月21日採択

1.目 的

本法は、医療記録の作成、保管および開示手続などを定め、医療情報の正確な記録と適切な管理、患者個人の医療情報の保護と患者との共有化をはかり、もって患者の医療への主体的参加と医療の透明性を確保し、医療の質の向上に寄与するものとする。(注1)

2.医療記録の作成

  1. 法令により診療記録などの作成義務を負う者は、患者に対する診察、検査、治療、看護などが行なわれた場合には、法令の定めるところに従い、直ちにその内容・経過等につき正確かつ完全な記録を作成しなければならない。(注2)
  2. 医療記録は原則として日本語で、かつ患者が理解しやすいように記載し、記録者が記載の都度、その最終行に署名するものとする。
  3. 医療記録は、原則として後日の加除修正などは行わないものとする。但し、必要事項の記載もれや明らかな誤記などが判明し、その補充や訂正をする必要が発生した場合には、補充あるいは訂正部分を特定し、補充・訂正した日時と記載者の署名を付記した上で行うものとする。(注3)

3.医療記録の保管

  1. 医療記録は、患者の同意あるいは法令の定めなど正当な事由なく第三者に開示してはならない。
  2. 法令により医療記録の保管義務を有する者(以下「医療記録保管者」という)は、医療記録あるいは医療記録に記載された情報が、故なく第三者により使用されたり、第三者に対し漏洩されることのないよう適切に管理しなければならない。
  3. 医療記録は、種類内容にかかわりなく同一患者のものは可能な限り一体として保管するものとする。
  4. 医療記録の保存期間は、当該医療機関における最終診療日から10年とする。

4.医療記録の開示

  1. <閲覧謄写(開示)請求権>
     患者は、何時でも、医療機関が有している自己の医療記録の全部又は一部を閲覧し、あるいはその写しの交付を求めることができる。但し、第三者の個人情報に該当する部分は除かれるものとする。(注4)
  2. <開示請求の対象となる医療記録>
     診療録、検査記録、看護記録、X線フイルム、その他診療過程において作成入手された紹介状、診断書等の書類、写真、画像、電子情報等一切の医療記録(診療報酬に関する記録を含む)を対象とする。
  3. <開示請求資格を有する者の範囲>
    1. (1) 患者本人(15歳以上の未成年者を含む)、患者の代理人、意思能力を欠く患者につき法律上の保護義務を有する者
    2. (2) 患者が18歳未満の未成年者の場合はその親権又は監護権を有するもの(以下単に「保護者」という)。但し、保護者は、患者が15歳以上の場合は患者本人の同意を明らかにした上で請求するものとし、患者が15歳未満の場合にあっても患者が幼小である場合を除き、原則として事前に患者本人の意見を聞き、その納得を得た上で請求するものとする。(注5)
    3. (3) 患者が死亡している場合には、死亡した患者の相続人、遺産管理人、その他法令の定めにより患者の死亡に関し法律上の利害関係を有すると認められる者。但し、患者が生前反対の意思を表明し、その旨が付記されている部分を除く。(注6)
  4. <開示請求手続>
     医療記録保管者は、病院又は医院の施設内に、医療記録の開示請求を受け付ける窓口を設置しなければならない。
  5. <開示の時期と方法など>
    1. (1) 医療記録保管者は、患者等から医療記録の開示請求がなされた場合には、開示請求者の資格を確認した上で、医療記録の中に含まれる第三者に関する個人情報を記録した部分を除き、速やかに閲覧を認め、要求があればコピーを交付するものとする。
       なお当該医療機関との診療関係終了後における開示請求の場合には、遅くとも一週間以内に開示するものとする。
    2. (2) 開示請求に基づきなされる医療記録の閲覧は無料、コピーは有料(実費)とする。
    3. (3) 開示請求者は、医療記録保管者等に対し閲覧した記録の内容等に関する口頭の説明を求めることができる。

5.不服申立と審査機関

  1. 訂正請求権
     患者本人又は前記第四の(三)の(2)の規定にもとづいて開示請求権を有するものは、患者の医療記録に誤った記載があると思う場合は何時でも、その訂正を請求することが出来る。
     但し、医療機関において訂正に応じられない場合には訂正要求があった旨を付記するものとする。
  2. 医療記録開示手続等審議会(注7)
    1. (1) 地方自治体は、政令に定めるところにより医療記録開示手続等審議会(以下、単に「審議会」という)を設置する。
    2. (2) 請求資格、開示の時期と方法、非開示情報(第三者に関する個人情報)の存否などについて、医療記録保管者の判断に対し不服のある開示請求者は、審議会に対して不服の申立をすることができる。
    3. (3) 審議会は必要があると認める場合は、当該医療記録等の提出を求めた上で審査し、具体的に採るべき措置につき勧告することができる。

6.付則(注8)

  1. この法律は公布の日から六ヶ月後に施行する。
  2. 本法第四に定める医療記録開示手続に基づく開示請求の対象となる医療記録は、当該記録が作成された時期に関わらず、法律施行日において当該医療機関が現に保存している一切の医療記録とする。

解説

注1(目的)
立法趣旨を明確にするとともに「目的」の中に「医療の透明性の確保」を付加することにより遺族らの開示請求権に明確な根拠を与えることとした。
注2(医療記録の作成)
現行法では看護記録について明確な作成義務が規定されていないが、この機会に保助看法の改正がなされるべきである。また、医療記録の記載内容の特定や、医療的な視点からの記載方法等についても、現段階においては十分な議論がなされていないので、医療法など他の法令にゆだね、本要綱案における具体的な記述はしないこととした。
注3(医療記録の作成)
医療記録の改ざん防止等の観点から、記録内容に関する後日の修正は原則として禁止し、必要な補充や訂正を行う場合には、その箇所の特定と日時・署名を付記することを条件とした。
注4(医療記録の開示)
患者の権利法要綱案における開示請求権の本則的規定(「患者の権利各則」の(f)項)をここに援用して導入するとともに、例外的扱いがなされる情報を「第三者の個人情報」のみに限定した。
注5(未成年者等の取扱い)
患者が未成年者である場合の開示請求権者に関し、既に国内法的にも効力を有している「児童の権利に関する条約」(平成6年5月22日発効)が18歳未満を児童(子供)としていること、および、「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響をおよぼす全ての事項について自由に自己の意見を表明する権利」を有し、その意見は「その児童の年令および成熟度に従って相応に尊重される」ものとしていること、我が国の民法は15歳以上の未成年者に養子縁組の同意能力を認めていること等、他の諸法令との整合性をはかるため、18歳以上は全て成人とみなし(親も本人の依頼がなければ開示請求はできない)、18歳未満の児童の場合においては、(1)15歳以上については児童本人自身に開示請求権を認めるとともに、親が親権の行使として開示請求をする場合においても児童の同意を要するものとし、(2)14歳以下の場合において親権者として親が開示請求をなす場合においても、児童が幼小である場合を除き、親権者として児童本人の意見を聞き納得を得た上で行うこととした。
注6
また患者死亡の場合、生前の明示の反対意思がある場合を除くことにより死者のプライバシーに配慮しつつ、立法趣旨に適合する範囲で遺族等の開示請求権を広く認めることとし、相続人、遺産管理人に加えて、患者の死亡に関し法律上の利害関係を有するものを加えた。
注7(医療記録開示手続等審議会)
患者の権利法要綱案における「患者の権利審査会」は郡または市の段階および都道府県に設置することとされているので、それに準じて設置されることを前提としている。但し「患者の権利審査会」とは異なり、申立権者は医療記録保管者の判断に対し不服のある開示請求者とした。
注8(付則)
法律の施行と開示対象となる医療記録の範囲を明記し、施行日に保存されている医療記録は全て対象にすることとした。医療記録の作成日等を基準とした場合には、継続診療中の医療記録にあっても、開示されるものと開示されないものが発生することになり、患者に対する医療情報の提供としてはかえって不都合が発生することを防止するとともに、医療の透明性を高めるという観点からも、現に保存されている医療記録の一部を開示対象から除去する理由は存しないと思われる。

本要綱案を採択するにあたっては、特に「2.医療記録の作成」の章に関し、「現段階でこのような作成方法を義務付けることは、『診療記録開示法制化にはこのような作成を可能にするための条件整備が必要』という条件整備先行論に口実を与えることにならないか」との慎重論も出された。

私たちの主張は診療記録開示の早急な法制化である。それは、まず現在あるがままの診療記録の開示を法制化すべきであるとの趣旨であって、この要綱案の内容に沿って作成された診療記録を開示すべきであるとの趣旨ではない。

すなわち、本要綱案は、必ずしも私たちが現段階で主張している法制化の内容そのものではない。作成方法、保存期間等、開示法制化後に議論されるべき将来的な課題も含めて、診療記録のあるべき姿を示すものとして、確認され、採択されたものである。