私たちが目指す権利法の法律案

医療事故被害防止・補償法要綱案の骨子

2001年9月30日
患者の権利法をつくる会

一、目的

この法律は、

  1. (1) 医療被害の報告制度、原因分析と再発防止制度及び被害補償制度を確立し、
  2. (2) もって、医療被害の防止と迅速・公正な補償を図ることによって
  3. (3) 患者の安全な医療を受ける権利を確保し
  4. (4) 医療の質の向上と国民の健康の保持に資する

ことを目的とする。

二、医療被害の定義

  1. この法律で「医療被害」とは、医療に起因して、患者註1に生じた生命・健康に関わる被害(疾病・障害・死亡等)をいう。
  2. 医療被害は医療提供者側の帰責原因の有無を問わない。
  3. 医療の過程に起因する被害には次の場合を含むものとする註2
    1. 医薬品(ヒト組織に由来する医療品・医療用具を含む)の有害作用(治験中に生じたものを含む)
    2. 医療用具の誤作動を原因とする疾病の悪化
    3. 検査、処置、手術等の医療行為を原因とする予想外の副損傷、合併症
    4. 医療施設内における転倒、転落、院内感染事故
    5. 患者の疾病の悪化で、障害又は死亡の回避について医療提供者側に帰責原因のある場合
    6. 医療提供者側に帰責原因のある、患者の適正な同意に基づかない医療行為や虐待等による被害
    7. その他誤診・誤治療によって生じた被害

三、医療被害防止補償機構(医薬品機構を参考に)

  1. 設立、管理、監督
    1. (1) 医薬品機構に準じた特殊法人とする註3
    2. (2) 設立、出資は政府(厚生労働省)が行う。
    3. (3) 監督責任は厚生労働大臣とし、オンブズマン監査制註4を導入する。
    4. (4) 役員には、患者・医療消費者・被害者代表を入れる。
    5. (5) 全国各都道府県に各1以上の支部を設置する。
    6. (6) 医薬品副作用被害救済事業及び予防接種被害救済制度も本機構に統合する。
  2. 業務
    1. (1) 拠出金の確保
      補償金や業務遂行経費の財源は、1. 政府の補助金、2. 医療産業(製薬企業、医療機器企業等)からの拠出金、3. 医療機関からの拠出金、4. その他の寄付金、によって確保する註5
    2. (2) 医療被害例の集積、調査、分析と防止提言
      1. 患者、医療機関、医療産業等から報告をうける註6
      2. 補償金請求例も含め調査、分析を行う。なお、担当職員に調査権限を付与する。
      3. 医療被害防止のための勧告や提言を行う。
    3. (3) 被害補償金の支払
      1. 補償の水準は当面現行の医薬品副作用被害救済基金に準じるも、更に検討する。
      2. 請求、審査、支払、不服申立手続註7は医薬品副作用被害救済基金に準じる。
        但し、請求手続は簡略化し、決定までの期間を定める。
      3. 審査は、「疑わしきは被害者の利益」を基準に判断する。
      4. 医療過誤責任、製造物責任がある場合でも補償するが、加害者に対する損害賠償請求権は失わない。本機構には加害者に対する支払後の求償権を認める。
      5. 相談業務の重要性を位置づける。
    4. (4) 被害情報の公表、公開制度註8

四、厚生労働大臣及び自治体の責務

  1. 機構からの提言等に基づき、診療体制の改善等の医療被害防止政策を立案する。
  2. 死亡事案について死因解明のための解剖制度を確立する。
  3. 都道府県知事は苦情相談解決窓口を設置する。
  4. 厚生労働大臣は医療被害者の後遺症に対する治療体制を整備する。
  5. 厚生労働大臣は補償金支払制度について3年ごとに再検討して改善を図る。

五、医療産業の責務

  1. 医薬品、医療用具等にかかる医療被害例等の機構への報告義務註9
  2. 医療被害防止義務註10
  3. 製造物責任保険への加入義務

六、医療機関の責務

  1. 医療被害例の原因究明(死因検討会を含む)と再発防止義務
  2. 医療被害者への医療記録の開示義務、報告と説明義務
  3. 医療被害例の機構への報告と調査協力義務
  4. 苦情対応窓口の設置
  5. 事故防止体制の確立
    1. (1) 専任リスクマネージャーの配置
    2. (2) 偶発事象等(インシデント)の集積と分析
    3. (3) インフォームド・コンセントの徹底
    4. (4) 事故防止マニュアルの作成
    5. (5) カルテ監査
    6. (6) 安全教育の実施
    7. (7) 医療の標準化の推進その他診療の質の向上のための研鑽
  6. 補償金支払請求手続への協力義務
  7. 賠償責任保険への加入義務

七、損害保険会社の責務

個人情報の保護を前提に、医療被害に関する賠償責任保険についての、保険金支払事例を機構に報告する。

註1
患者とは、現に疾病を有するか否かを問わず、医療サービスの利用者をいう。
註2
あくまで例示である。
註3
補償金支払については、特殊法人基金方式、保険方式、政府事業方式等がありうるが、その他の事業を合わせて行うためには特殊法人が適当と考えた。
註4
オンブズマンの任命にあたっては公募方式の採用を検討する。
註5
患者の医療費支払の際に負担金徴収を徴収することを検討すべきという意見がある。
註6
医薬品、医療用具について厚生労働省医薬局が行っている安全性情報に関する業務は本機構に移管する。
註7
審査や不服申立手続に対する市民参加を検討する。
註8
被害発生医療機関名公表の是非や公表要件について検討する必要がある。
註9
薬事法上の報告義務を機構への報告義務に改正する(薬事法77条4の2、同77条4の3参照)。
註10
情報提供義務(薬事法77条の3)その他薬事法参照