権利法資料集

オランダ 医療契約法

(1994年11月17日)
オランダの医療契約法は、民法の契約法の一部をなすもので、該当部分が1994年11月に改訂され、1995年から施行されています。これは第四回海外視察報告集のために仮訳したものです。

446
  1. 医療行為に関する契約(以下「医療契約」と呼ぶ)は、自然人もしくは法人、ケア供給者が、他の者に関して、医療事業において、その者もしくは特定の第三者に直接に影響を及ぼす医療行為を引き受けるものである。これによって直接影響を受ける者を以下の条文では患者と呼ぶ。
  2. 医療行為とは次のように理解されるべきである。
    1. a. 直接ある者に影響を及ぼし、疾病を治癒し、その発生を予防し、ある者の健康状態を評価し、或いは産科的援助を引き受けることを目的とした、検査及び助言の提供を含むあらゆる手続
    2. 2. (a)に述べたほか、医師や歯科医師によりその能力に基づいてなされるある者に直接影響を及ぼす行為
  3. 付添看護、患者の看護、その他直接患者の利益のためになされるあらゆる処置の物的な環境の提供も1項の行為に含まれる。
  4. 医薬品法の規定する薬剤師による医薬品に関する処置は1項の行為に含まれない。
  5. ある者の健康状態を評価したり医学的に管理する行為は、それが教育目的、保険加入、就職等の目的でなされる場合は、医療契約とならない。
447
  1. 16歳に達している未成年者は、自ら医療契約を締結したり、同意する関係において、法律行為能力がある。
  2. 未成年者は、自分の行為から生じた結果について責任を負うべきである。但しケア及び教育の費用を支払う義務は両親にある。
448
  1. ケア供給者は、患者に対し、要求があれば書面によって、行おうとしている検査及びその検査に関連した処置とその予後、なそうとする処置、患者の健康状態について、明確に情報を提供しなければならない。12歳未満の患者に対しては、彼が理解しうる方法で情報を提供しなければならない。
  2. 前項に定める義務を遂行するにあたり、ケア供給者は、患者は以下の事項を知らされるべきであることを配慮すべきである。
    1. a. ケア供給者が必要であると考えている検査や処置ならびに行おうとしている手続の性質と目的
    2. 2. 患者の健康に対するリスクとその結果
    3. 3. 他の適切な検査や処置の方法
    4. 4. 検査や処置に関係する患者の健康状態や予後
  3. ケア供給者はその情報の提供が後に患者に対して深刻な危害をもたらすことが明らかである場合にのみ、情報の提供を差し控えることができる。患者の利益のために必要な場合には、ケア提供者は、情報を患者以外の者に提供しなければならない。その場合は上記の危害を生じるおそれがなくなった時点で、情報が患者に提供されるべきである。ケア提供者は、この問題について他のケア供給者と相談した上でなければ第一文の権限を行使してはならない。
449
 患者が情報の提供を拒絶する意思を明らかにした場合は、情報は提供されない。但し、そのことによって生じる自傷他害のおそれが患者の利益を上回る場合は別である。
450
  1. 医療契約の履行の目的でなされる手続は、患者の同意を必要とする。
  2. 患者が12歳以上16歳未満の未成年者の場合は、その親権者もしくは後見人の同意が必要である。これがない場合でも、患者に対する深刻な危難を回避するために必要なことが明らかな場合、あるいは患者が注意深く考慮した上で、法定代理人の不同意にかかわらず、なお処置を望む場合には、処置はなされるべきである。
  3. 16歳以上の患者であっても、問題について自分の利益を合理的に評価することができないと判断される場合には、ケア供給者及び465条2項ないし3項に言及されている者は、その患者が自分の利益について合理的な評価ができた時点で1項に規定した同意の拒絶を書面によって表明した事実がある場合には、この意思に従わなければならない。
451
 ケア供給者は、患者の要求があれば、いかなる場合でも、患者が同意を与えた基本的な処置について書面でくわしく説明しなければならない。
452
 患者は、ケア供給者に対して、ケア供給者が契約を履行するため合理的に必要な情報を自分の知る限り提供し、ケア供給者に協力すべきである。
453
 ケア供給者は、その義務を遂行するにあたり、ケア供給者として要求されるケアの水準を顧慮しなければならず、ケア供給者に要求されるプロフェッショナルケアスタンダードから生じる責任に従って行為しなければならない。
 
1653h
 1653条に規定されている行為は特定の者によって遂行されなければならない。
454
  1. ケア供給者は、患者の処置に関係する記録を保存しなければならない。彼は、その記録に患者の健康に関するデータ及び患者に対してなされた処置について記載すべきである。ケア供給者は適切な水準のケアを患者に提供するに必要な情報等の資料も当該記録に保管すべきである。
  2. ケア供給者は、記録の記載事項に関して、患者が述べた意見を、要求があれば、記録につけ加えなければならない。
  3. 455条の規定の場合を除き、ケア供給者は、1、2項に規定した記録をそれが記録されたときから10年間もしくはその期間経過後も適切な水準のケアを提供するために合理的に必要とされる限り保存しなければならない。
455
  1. ケア供給者は、自分が保存している454条に規定された記録を、患者から破棄して欲しいと要求された場合には、その要求から3カ月以内に破棄しなければならない。
  2. 前項の規定は、その保存がその患者よりもそれ以外の者に重要であることが合理的に確認できる場合には適用されない。また、その破棄が議会法に定められた、もしくはそれに準じた規定に反する場合にも適用されない。
456
 ケア供給者は、要求があれば、患者に対し454条に規定した記録の閲覧を認めそのコピーを提供しなければならない。記録の閲覧及び謄写は、それが患者以外の人のプライバシーを損なう場合は認められない。
457
  1. 448条3項第2文の例外を除き、ケア供給者は、患者の同意なくして、患者以外の者にその患者に関する情報や454条に定める記録の閲覧謄写を認めてはならない。記録に関する情報を提供したりその閲覧謄写を認めることはは、それにより他の者のプライバシーが侵害されることのない場合にのみ許される。記録に関する情報提供、閲覧、謄写は、前文に定めた制限にかかわらず、議会法の定めたもしくはこれに準じた規定の要求がある場合には、許される。
  2. 医療契約の遂行に直接携わる者や、ケア提供者の代診として行動する者が、その業務の遂行のため、情報の提供、記録の閲覧及び謄写を必要とする場合は、前項の適用を受けない。
  3. 450条及び465条により医療行為を行うにあたってはその同意が必要とされている者については1項は適用されない。これらの者に対する情報提供、記録の閲覧及び謄写の許可は、それがケア供給者としての義務に反する場合には、許されない。
458
  1. 457条1項の規定にかかわらず、患者に関する情報もしくは454条に規定された記録へのアクセスは、以下の場合には、要求があれば、統計学的な目的もしくは公衆衛生領域での科学的な研究の目的の場合には、患者の同意なくして、第三者に提供することができる。
    1. a. 同意が要求されることに合理性が認められず、患者のプライバシーが研究行為によって無節制に侵害されることのないことが保証されている場合
    2. 2. 同意が要求されていることに合理性が認められず、研究の性質と目的が明らかにされ、データの供給は特定の個人を探り当てることの出来ない方法でなされることがケア供給者により保証される場合。
  2. 情報は、次の場合にのみ第1項に基づいて提供される。
    1. a. 公的利益のための研究
    2. 2. 当該情報なくしては成り立たない研究
    3. 3. 当該患者が当該情報が提供されることを明確に拒絶してはいない場合
  3. 情報が1項に基づいて提供されたことは、患者記録に記録されるべきである。
459
  1. 医療契約においてケア供給者よりなされる処置は、患者が許可を与えない限り、患者以外の者に観察されることはない。
  2. 前項の患者以外の者には、当該処置に必要な専門的処置をする者は含まれない。
  3. 450条及び465条が処置にあたり許可を求めている者も除外される。しかし、処置の観察を認めると、ケア供給者がなすべき処置を十分に出来ない場合には、観察を許さないことが出来る。
460
ケア供給者は、納得しうる十分な理由がない限り、医療契約を終了させることは出来ない。
461
患者は、ケア供給者が議会法の規定に基づいて給与を得ている場合や契約による特別の約束がないかぎり、ケア供給者に料金を支払うべきである。
462
  1. 医療契約の実現に当たり、処置が契約当事者でない病院においてなされる場合には、その病院は契約当事者であると同様に、医療契約の履行に伴うあらゆるミスについて連帯責任を負う。
  2. 1項に規定された病院は、病院、ナーシングホームとして認識されもしくはそう呼ばれている施設や部署、健康保険法又は例外的な医療費用に関する法律の目的による精神科施設、教育機関である病院、中絶法の意味の範囲内の中絶クリニック、または歯科診療所法に基づく歯科診療所を意味するものである。
463
ケア供給者の責任、もしくは462条に規定された病院の責任については、なんの例外も付し得ない。
464
  1. 医療事務の遂行において、医療行為が医療契約によらずになされる場合には、この部分と第二章の405、404条2項及び1部の406条は変更をくわえて適用される。
  2. 問題となっている行為が446条5項において特定されている場合
    1. a. 454条に規定されている記録はその破棄が議会法によるまたはこれによる供給と矛盾する場合でない限り、検査の目的との関係で必要な場合のみ保存されなければならない。
    2. 2. リサーチが関係するものは、リサーチの結果と結論についての情報提供を望むかどうか、仮に望むとすれば最初に情報を与えられ、したがって他の者に情報を提供の是非を決定できるかについて意見を述べる機会を与えられるべきである。
465
  1. 患者が12歳に達していない場合には、ケア供給者は、その患者の親権者もしくは後見人に対する義務を履行しなければならない。
  2. 患者が12歳に達していてもその問題について自分の利益を合理的に評価できないと判断される場合には、患者が成人し後見に服している場合(その場合は義務は後見人に対して履行される)でない限り、前項と同じである。
  3. 成人であるが問題について自分の利益を合理的に評価できないと判断される患者が後見に服していない場合、ケア供給者は患者に対する義務を、書面によって患者を代理する権限を与えられた者に対して履行しなければならない。そのような者がいない場合には、義務は患者の配偶者その他のパートナーに対して(パートナーが拒絶しない限り)、そのような者がいない場合には患者の親、子ども、兄弟に対して履行されなければならない。
  4. ケア供給者は患者の法定代理人もしくは3項に規定した者に対して、そのことがケア供給者のなすべきことと矛盾するのでない限り、1項、2項に規定した義務を、履行しなければならない。
  5. 2、3項によりケア供給者が義務を負う相手である者は善管注意義務を負う。この者は、その義務を遂行するに当たり、可能な限り患者と連絡を持つべきである。
  6. 患者が2、3項に規定した者が許可を与えたラディカルな処置に反対する場合には、その処置はその患者の健康に対する深刻な危害を回避するために必要なことが明白である場合にのみ実施することができる。
466
  1. 465条に従って、処置の実行がその患者ではなくそこに規定されている者の許可のみを必要とする場合には、その処置は、緊急になすことがその患者に対する深刻な危害を回避するために必要であることが明白であるために、それを求める時間的余裕が全くない場合には、その許可を待たずに実施することができる。
  2. 450条及び465条により要求されている許可は、その処置がラディカルな性質のものでない場合には推定される。
467
  1. 人体から採取された誰のものか明らかにされない組織は、それを採取した患者がそれに反対せず、かつそのリサーチが十分な注意をもってなされる場合には、医療統計学その他の医療科学的なリサーチに用いることができる。
  2. 誰のものか明らかにされていない組織や臓器を用いたリサーチは、そのリサーチ目的で使用された人体標本及びそれから得られたデータが、それが由来する個人にさかのぼることができないことが保証されている場合にはリサーチとして定義される。