権利法NEWS

250号 26回総会シンポジウム報告

第二六回総会のご報告

事務局長 小林洋二

11月5日、明治大学駿河台キャンパス研究棟四階第二会議室で、第二六回総会が開催されました。

総会では、小林から、議案書に沿ってこの一年間の患者の権利に関する動きを報告した後、現段階の情勢及び今後の方針に関する討議に入りました。

議案書記載のとおり、二〇〇九年以来、当会は医療基本法による患者の権利法制化を中心的な課題として取り組んできました。一方、日本医師会は、来年の通常国会に、日本医師会草案を基本とする医療基本法案が上程されることを目指してロビー活動を行っており、来年はこの運動が大きな節目を迎える可能性があります。

日本医師会草案は、患者の権利に関する一章を含むものであり、そのこと自体が、これまでの患者の権利法運動の成果ではあります。しかし、「最善・安全な医療を平等に受ける権利」という憲法一三条、二五条に基づく国民の基本的人権が明確化されていない点、また、患者、市民の医療政策決定への参加が含まれない点等において、わたしたちの求める「患者の権利擁護を中心とした医療基本法」とはかなりの距離があるものといわざるを得ません。国会に上程される医療基本法に、わたしたちの求める内容をどこまで盛り込むことができるかが大きな課題となります。

そのため、今年の活動は、患者の権利擁護を中心とする医療基本法制定を求める声を患者団体、市民団体に拡げ、連携を深めることに重点を置きました。全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)及びハンセン病違憲国家賠償全国原告団協議会(全原協)に呼び掛けて、従来の三団体共同骨子六項目に「病気又は障がいによる差別の禁止」を加えた五団体共同骨子七項目を発表、患者団体、市民団体、医療関係団体に広く共同提案または賛同を呼びかけました。その結果として、六月一六日のハンセン病問題対策協議会では、厚生労働副大臣に対し、共同提案団体一六、賛同団体一八の名簿とともに、医療基本法共同骨子七項目を提出、総会後の二五周年記念シンポジウムでは、十九の共同提案団体及び賛同団体によるリレートークを行いました。このシンポジウムの内容については、本号に小沢世話人及びHーPACの前田哲兵さんによる報告を掲載しておりますので併せてお読みください。

しかし、総会では、他の団体との共同歩調を重視するがゆえに、私たち、「患者の権利法をつくる会」の独自性が失われているのではないかという指摘もなされました。確かに、共同提案団体や賛同団体に提示するのは、あくまでも、五団体共同骨子七項目であって、わたしたちの医療基本法要綱案ではありません。もちろん、その解説パンフや市民向けパンフも患者団体、市民団体に届けてはいますが、それによる合意形成を図っているわけではありません。来年の世話人会では、この点をどのように整理していくのかについても議論を深めていく必要がありそうです。

また、今年は結成二五年の節目でしたが、他の団体との連携を重視し、当会の二五年の歩みといった記念企画は行いませんでした。しかし、やはり二五年間の活動の総括はしておく必要があるとの指摘がなされました。

別冊として添付する『患者の権利法をつくる会〜二五年の軌跡』は、そのような経緯で作成されたものです。

今期最初の世話人会は、二月四日(土)一三時、東京都内で開催予定です。引き続き、一五時からは三団体協議会も予定されています。

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医療基本法制定を目指すシンポジウムが開催されました

 

医療政策実践コミュニティー(H-PAC)

医療基本法制定チーム 前田哲兵

 

一 医療基本法制定に向けたこれまでの歩み

 去る平成二八年一一月五日(土)、明治大学駿河台キャンパス・リバティータワー一〇〇一教室において、患者の権利法をつくる会・患者の声協議会・医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チームの三団体主催で、医療基本法実現に向けたシンポジウム「みんなで動こう医療基本法Ⅱ」が開催されました。

 そこでまずは、これまでに、わが国で医療基本法制定に向けてどのような歩みがあったのか、その点から概観してみたいと思います。

⑴ 一九七〇年前後

わが国における医療基本法制定に向けた動きは、古くは一九七〇年前後に遡ることができます。まず、一九六八年、日本医師会が「医療基本法第一草案」を発表しました。その後、一九七二年には政府案が、一九七三年には野党三党案がそれぞれ通常国会に提出されましたが、いずれも廃案になりました。

⑵ 一九八〇年代以降

 その後、一九八四年に、患者の権利宣言全国起草委員会が「患者の権利宣言(案)」を発表し、患者の権利運動が活発になりました。

一九九一年には、患者の権利法をつくる会が「患者の諸権利を定める法律要綱案」を発表しました。同要綱案は、内容面において、患者と医療者の信頼関係の重要性を説き、加えて、医療保障制度の充実を盛り込んでいるなど、現在の医療基本法構想と概ね一致した方向性を有しているものでした。

なお、この時代の動向については、故池永満弁護士の著書『新・患者の権利』第一章に詳しいので、是非一度、お手に取られてみて下さい。

⑶ 二〇〇九年以降

 その後、医療基本法制定の機運が高まることはなかなかありませんでしたが、二〇〇九年に事態が大きく動きました。同年、「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会」が、報告書において「医療の基本法」の法制化を提言したのです。かかる提言をきっかけとして、医療基本法制定に向けた機運が一気に高まりをみせました。

 すなわち、日本医師会や患者の権利法をつくる会をはじめ、患者の声協議会、日本病院会、全日本病院協会、全国自治体病院開設者協議会、日本歯科医師会、神奈川県保険医協会、医療政策の研究チーム(HSPやH-PAC)など、非常に多くの団体が医療基本法に関する提言を行うようになりました。同法制定の機運がこれほど高まったことは、過去に例がないのではないかと思います。

そのような流れの中、今回のシンポジウムの主催三団体である患者の権利法をつくる会、患者の声協議会、東京大学医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チームは、二〇一二年に医療基本法の骨子となるべき六項目をまとめた「三団体共同骨子」を発表しました。そして、今年二〇一六年に、全国ハンセン病療養所入所者協議会、ハンセン病違憲国家賠償訴訟原告団協議会を加えた五団体で、新たに「病気又は障がいによる差別の禁止」条項を設け、全七項目の「医療基本法共同骨子」を策定しました。

二 今回のシンポジウム開催の趣旨

 さて、今回のシンポジウムは、上記「医療基本法共同骨子」をもとに、医療基本法制定に向けた活動の幅をさらに広げるべく開催されたものです。「医療基本法」とは、医療政策の今後の大きな方向性を定めるものであり、「医療の憲法」ともいうべき法律です。そのような法律である以上、その議論は、患者団体や医療者団体をはじめ、全国民的になされなければならないと考えたためです。

そのため、主催三団体は、今回のシンポジウムに先立って、「医療基本法共同骨子」への賛同を広く募りました。その結果、共同提案団体は二〇、賛同団体は二五となり、多方面からの賛同を得ることができました。今回のシンポジウムは、これらの団体が初めて一堂に会したシンポジウムです。

 前置きが長くなりましたが、以下、今回のシンポジウムの内容をご紹介させていただきます。

三 シンポジウムの内容

⑴ 基調講演

 まず、NPO法人繊維筋痛症友の会・理事長の橋本裕子さんと、患者の声協議会・副代表世話人の伊藤雅治さんが基調講演を行いました。

 橋本裕子さんは、維筋痛症は罹患してもその痛みを医療者にもなかなか分かってもらえないこと、患者は医療費や間接費用(病気に罹患しなければ不要であった費用。例えばタクシー代)など多くの費用がかかるために経済的にも困窮していくこと、しかしながら、障害者基本法が制定された現在においても難病に対する公的支援は極めて不十分であることを述べました。その上で、難病支援の在り方として、病名によって支援の対象を絞り込む医学モデルではなく、患者それぞれの生活上の困難などに着目した社会モデルの政策に切り替えるべきであると提案しました。そして、全ての患者・国民が健康に生きる権利を保障するものとして、医療基本法があるべきだと訴えました。

 次に、伊藤雅治さんは、現在は時の政権が変わることによって医療政策の基軸も変わってしまっているが、それは好ましい状態ではなく、医療政策が政争の具にされないためにも、医療基本法が必要である旨を述べました。その上で、現行の医療法には医療政策の理念ともいえる規定がいくつか見受けられるが、医療法はあくまで個別法であるため、それらの理念は医療政策全体に共通するものとして医療基本法において規定すべきであると述べました。特に、伊藤雅治さんは、「政策決定過程への患者・国民参画」の重要性を強く訴えました。例えば、がん対策基本法、肝炎対策基本法及びアレルギー疾患対策基本法には患者参画の規定があるが、そこには共通の理念が定められていないことや、医療費の負担の問題にしても、それは本来は国が一方的に決めるべき事柄ではなく国民が決めるべき事柄であることなどを論拠として、「政策決定過程への患者・国民参画」を定めた医療基本法が必要であると訴えました。

⑵ リレートーク

 基調講演の後に、参加団体によるリレートークが行われました。リレートークには、①社会福祉法人復生あせび会、②NPO法人腎臓サポート協会、③公益社団法人日本リウマチ友の会、④全国ハンセン病療養所入所者協議会、⑤医療過誤原告の会、⑥医療の良心を守る市民の会、⑦患者なっとくの会INCA、⑧公益社団法人日本社会福祉士会、⑨公益社団法人日本医療社会福祉協会、⑩公益社団法人日本精神保健福祉士協会、⑪医療事故防止・安全学会、⑫NPO法人患者の権利オンブズマン、⑬患者の権利オンブズマン東京、⑭薬害オンブズパースン会議、⑮医療問題弁護団、⑯医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チーム、⑰一般社団法人日本ALS協会、⑱患者の声協議会、⑲患者の権利法をつくる会が参加し、それぞれの立場から医療基本法制定の必要性を訴えました。また、会場発言でも、国会議員、医療者、保険者など、様々な立場の方々が発言しました。

多くの方々が、それぞれの「立場の垣根」を越えて医療基本法制定の必要性を訴えるにつれ、会場は強い連帯感で結ばれていったように思えました。

⑶ シンポジウムのまとめ

 最後に、今回のシンポジウムのまとめとして、患者の権利法をつくる会の鈴木利廣さんが講演しました。

鈴木利廣さんは、医療政策は「公共性」の観点に基づくことが重要であるとし、その観点(公的コントロール)を守るには、「政策決定過程への患者・国民参画」を定めることと、「関係者の役割・責務」を明確にすることが重要であると述べました。そして、後者の「関係者の役割・責務」については、患者と医療者を対立構造で捉えるのではなく、共に医療政策を前進させていく協働者として捉えるべき旨を強調しました。

さらに、わが国では患者の権利保障を求める長年の活動があったこと、そこには主に三つのグループとして、①一二〇年前に始まった医療被害者の告発運動、②戦後に始まった難病患者の医療獲得運動、③一九八〇年代に始まった医療消費者運動があったこと、これら三つの運動が今回のシンポジウムによって実質的に一つになったと位置づけ、「今日は輝かしいスタートの日である」と述べました。

その上で、近く、医療基本法の具体的な法案化の動きがあると考えられることに触れつつ、医療基本法は特定の政党のみで議論されるべき事柄ではなく超党派での議論が望まれるため、関係諸団体の力を結集して議論を国会の場に広げていきたいとして、広く活動の連帯を呼びかけ、シンポジウムは盛会のうちに幕を閉じました。

四 おわりに

 シンポジウム終了後、ある参加者は、「今日が医療基本法制定活動の本当の意味での発足式だ」とおっしゃっていました。また、先ほどご紹介したように、患者の権利法をつくる会の鈴木利廣さんは、今回のシンポジウムを受けて「今日は輝かしいスタートの日である」と表現していました。では、これらの言葉の真意はどこにあるのでしょうか。

これまで医療基本法に関する提言を行う団体は複数ありました。ただ、その多くは医療者団体でした。しかし、今回のシンポジウムでは、多くの患者団体の方々が声をあげました。その声は、当事者としての、時には痛みも感じられるほど真に迫ったものでした。医療が患者のためにあるというのであれば、その憲法ともいうべき「医療基本法」には、そのような患者の声が十分に反映されていなければならないでしょう。先の言葉は、まさにそのような患者の声が集結した今回のシンポジウムの「場」を捉えておっしゃったものだと思います。そのような意味で、とても印象深い言葉でした。

今回のシンポジウムの主催三団体では、ある認識が共有されています。それは、「この医療基本法制定活動の中心には、患者団体をはじめ、患者のための医療を実現するため日々活動しておられる医療者団体の方々がいるべきだ」という認識です。それらの方々の声なくして、医療基本法がその実体を伴うことはないでしょう。

多くの方々の「立場の垣根」を越えて、それらの方々と共に、医療基本法制定に向けた道を歩んでいければと思っています。

 

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医療基本法に向けてのシンポジウム(Ⅱ)

成  果  と  今  後  の  課  題   

                                 常任世話人 小沢木理

 

「みんなで動こう!」で、多団体が参加

 今年一一月五日、当会第二十六回定期総会のあと明治大学駿河台キャンパスで『みんなで動こう 医療基本法パートⅡ』と題しシンポジウムが行なわれことは既にご承知の通りです。

 今シンポの最大の目的は、医療基本法の制定に向け制度の中心にある患者・市民の声を広く聞くということと、各ステークホルダーの人たちをも交えてそれぞれの立場の声を交換するというものです。そしてその延長線上で各団体との意見交換や恊働できることがあればそれも期待したいということであろうかと思います。

 会は、繊維筋痛症友の会理事長の橋本裕子さん、患者の声協議会副代表の伊藤雅治さん、このお二方による基調講演に続き、ひとり三分という短さですが患者団体・市民団体・医療従事者団体など十九の団体によるリレートークがあり、自分たちの活動紹介と「医療基本法」への思いをそれぞれ語りました。三分はあっという間で発表者にはじれったかったかもしれませんが、医療基本法の実現への思いをみなさん皆熱く語ってくれました。

 このシンポジウムの開催にあたっては、これまでの患者の声協議会、患者の権利法をつくる会、医療政策実践コミュニティー・医療基本法制定チームの三団体に、新たに全国ハンセン病療養所入所者協議会、ハンセン病違憲訴訟国家賠償全国原告団協議会の二団体が加わり五団体が合意した『医療基本法 共同骨子』がありますが、この共同骨子に共鳴してくださった二一の共同提案団体と二四の賛同団体の方々が結集して行なわれたことになります。(参加団体名は既送チラシ参照) 

発表することで当事者意識が

 これまでの私たちは、どちらかというと医療関係者や国会議員という法律を作るのに直接的に影響力を持つ立場の人を対象に活動の比重を置いてきたように思います。しかし、法制化の実現にはこういった対象者だけに働きかけても実現できるかというとそんなに簡単ではありません。患者として実際に医療を必要とする人をはじめそのほか医療に携わるすべての人の関心と支持が必要です。それぞれの立場の人たちが医療の当事者として自覚することが必要です。

 これまでは多くの人が、医療制度の現状に「お任せ」となげやりでした。しかし、お任せのツケは高くつくと気づき始めている人たちが増えてきています。とはいえ、ただそう思っても誰もが止まっていては何も始まりません。

 今回のシンポジウムは、『一緒に動こう!』と呼びかけ個別に運動をしている方(団体)たちがたくさん参加してくれたことが最大の成果であることは言うまでもありません。それぞれ個別に奮闘していてもなかなか問題の解決につながりにくいものです。憲法の理念に沿った医療の本質的なありようを国などに要求していくことが議論をぶれなくさせるはずです。

 そういう意味でも特に患者・市民団体などは、今回、ただ一方的に話を聞いている側でいるのでなく、その人たち自身が主体的に参加し語るということで、自分たちが抱える問題が整理され、当事者(患者として当然の権利)意識をより強く持たれるのではないかと感じました。また私たちにとっても法制化への活動の道幅を広げたことになり、一歩先を踏み出すための新たな仲間と出会った思いでした。

 しかし間口がいささか拡幅されたとはいえ、まだその先を歩き出せてはいません。ひとつひとつ積み重ねるという作業はこれからも変わりはないでしょう。

 

今後を見据えて

 さて、当会も結成から二五年を迎えました。小林事務局長がまとめた「患者の権利法をつくる会 二五年の軌跡」という総括書が別途配布されるかと思いますが、まさに歴史に記されるべき充実した当会の活動の足跡と実績に改めて思いを深くします。そして内輪の者としては感動すら覚えるのです。

 一方で、当会を評価したい気持ちはさておき、冷静に現状を俯瞰することも同時に必要です。〝コップの水〟の例えのように、(成果が)こんなにたくさんと見るのか、まだこれだけかと見るのかは人さまざまですが道半ばには違いありません。

 ただ、時々の節目には、なんらかの成果(ごほうび)がないと覇気が弱まります。個人的には明確な成果を実感する機会があまりなくて、目の前には課題 ばかりが続いていたような気がしています。しかし、実際にはじわじわと私たちの主張していたことが現実化していったのだと思います。それが成果と言えるのかもしれません。 

 今、患者の権利の法制化活動から理念を同じくした医療基本法制定をめざしていますが、度々「その法律ができたら、そこに書かれていることが本当に実現されるの?」と聞かれます。水戸黄門の印籠のようなもの、私も欲しいです。

 ラルフネーダー率いるパブリックシチズン運動も四五年。つまりは、他のケースでも同様でしょうが、市民の権利獲得運動はエンドレスなのだと思わなければいけないのでしょう。

 当会でもまだまだ現役バリバリという人もいてまだずっと先の話といわれそうですが、大半の人が高齢化してきており、いつ機動力の低下が訪れても不思議ではありません。当会の未来をどのように見据えるのかは至極現実的なテーマです。人材力、個々人の気力等々はこの先どれだけ維持できるのでしょうか。活動を繋いでいく次世代の顔も見えてきません。普段は考えることのないことですが、市民活動の重要なテーマのひとつでかつ難しい問題が、この〝次世代に引き継いでいく〟という作業です。市民活動は、実現させたいことを具体的に示しその要求を達成(実現)させることです。

 それゆえ、外部に向かって「発信」する球を投げ続けるのが主力になるため、投球に必要な補給の方には頭が回らない。というか、実際には投げ続けることだけで精一杯ということなのだと思います。ですから、今あるエネルギーが切れたら自然に走行が止まる列車や灯が消えるロウソクのようなもの、それも市民活動の自然な姿かもしれません。

 わたしがここで言いたいことは、人材の気力、体力(健康力)は有限であり、それらのエネルギーが弱くなったときの活動ありかたを考えておく必要があるのではないかということです。先を見ながら足下も見る。活動はつい球の打ちっぱなしになりがちです。もし、保有している球を使い切ることで当会としての使命は終わり、可能な人は個別に活動を続ければいいのでは?というふうになるのかもしれません。

 なぜ明るい希望に満ちた話をしないのかといぶかられるかもしれませんが、市民運動はエンドレスです。患者の権利を柱にした医療基本法を実現させるためにやることはまだまだたくさんありますし、仮に思いのほか早くに形の上で医療基本法ができたとして、それでいっぺんに患者の権利が守られたりするわけでもありません。だからこそ残れる人材の気力・体力へのありかたを考えつつ、効率的な活動計画を立てていかなければならないのではないかと思います。

 活動する人材の有限性について今から考える必要はない、現実に問題になるようなことが起きた時にのみ考えて対応すればいいというのもあるでしょう。

 しかし、実際にいつも活動できる人材の不足により機動性がなくなっていることは事実です。次々計画は立てられますが実務をこなす人がいなければ何も動きません。志は高く熱くいくらでも語れますが、自分たちの有限性について気づかぬふりはできません。

 

シャンシャンにさせない、結束を!

 話を戻します。シンポで出会った各団体の方たちとの今後のあり方については、改めて直接対面で話をする機会を持つことになるでしょう。届けたいものがあるほうは、相手に届くまで何度も何度も発信することです。一度投げたからというのでは不充分、届いたかどうか分かりません。商品のコマーシャルは、何度も何度も同じCMを流します。一回流せば届くとは思っていないからです。届いていたとしても行動に移させるまで流します。わたしたちが発信するものも何度も何度ものこの繰り返しが必要です。結果として相手に届いていないのは発信していないのと同じだからです。(これは国会議員に対しても同じことが言えます。)

 何度も何度もを繰り返すことによって、相手に記憶され理解されれば距離が縮まります。やがては連帯できる仲間が徐々にふくらんでいくはずです。今回、束の間ですが複数の団体の方々と出会え、様々な形で協力してくださったことを、形式的なつきあいで終らせないために次に繋げていく作業があります。

 

 シンポの最後は、当会の鈴木利廣さんが今日のシンポの内容全体を総括し発表しました。医療政策は「公共性」に基づくことが重要であり、そのためには政策過程に患者の参加が不可欠であること、患者の権利保障システムの必要性等々法制化にあたり基本的な要件を整理して述べられた。そのうえで、『医療基本法はシャンシャンで成立するようなものであってはならない。ここに集まった団体で結集して必要な活動の輪を広げていきたい。まだまだ法律ができたとしてもそれで終わりではなくやることがたくさんある。』というような話をされました。

 わたしが思うに、第一にやるべきことの筆頭は日本医師会の「医療基本法(仮称)にもとづく医事法制の整備について」(二〇一六・六)を検証するとともに当会(或いは三団体協議会)独自の要望書をまとめ、各関係機関に早急に提出する必要があると考えています。何ごとも後手後手は耐えられませんので。

 

 これら新たな目標に向け、体力・気力を奮い立たせ次の年を迎えたいと思います。