権利法NEWS

第二回世話人会のご報告

事務局長 小林洋二

【世話人会の報告】

 4月12日13時から、東京の明治大学駿河台キャンパス研究棟会議室で、今年度第二回の世話人会が開催されました。参加者は漆畑眞人・小沢木理・木下正一郎・久保井摂・小林洋二・鈴木利廣・高岡香・高梨滋雄・堤寛・中村道子(五十音順・敬称略)の各世話人。また公益社団法人日本医療社会福祉協会の役員の方々がオブザーバーとして参加されました。

医療基本法要綱案市民向けパンフレットについて

 小林のレジュメと、小沢世話人のイメージをもとに意見交換を行いました。

 医療基本法が、個別の問題を解決する法律ではなく、医療政策の基本原則を定める法律であることから、市民の方々にアピールすることはなかなか容易ではありませんが、「医療基本法とは?」「なぜいま医療基本法が必要なの?」「医療をめぐる問題とは?」「医療基本法ってどんな法律?」といった項目の分かりやすい説明に続いて、以下のようなセールスポイントを強調することになりました。

 

医療基本法で患者の権利は守られるの?

患者・市民と医療の関わり方は変わるの?

医療の地域格差は解消するの?

経済的事情で医療を受けられない人は?

医師不足、看護師不足は解消するの?

医療事故は防止できるの?

 つくる会の要綱案は、III章の9で「国及び地方公共団体は、医療施策の適切な策定及び実施に資するため、患者の意見を施策に反映し、当該施策の策定過程の民主性及び透明性を確保するための制度を整備する等必要な施策を講じなければならない」とし、また11に「国及び地方公共団体は、患者の権利擁護及び医療の安全性の向上を図るため、患者団体等の健全かつ自律的な活動を促進するよう基本方針を定め、必要な措置を講じなければならない」という条文をおいています。このような条項により、患者団体の活動が活発になり、その意見が施策に反映されやすくなるというのが、最もアピールすべきポイントではないか、というのが世話人会での議論でした。

 執筆は木下、久保井、小林で分担し、次回世話人会でその原稿を検討することとなりました。

 

日本医師会の動き

 4月9日、日本医師会医事法関係検討委員会が医療基本法に関する最終報告を発表しました。

 同検討委員会は一昨年3月28日に、おなじ名前の報告書を発表し、その報告を叩き台として、平成24年度から25年度にかけて、日本医師会及び全国のブロック医師会において意見交換やシンポジウムが開催されました。このシンポジウムについては、けんりほうニュース227号「日医医療基本法シンポジウム報告」を、意見交換会で述べた鈴木世話人の意見については235号「第一回世話人会の報告等」をご参照下さい。日医としては、そういった議論を踏まえて、今回の最終報告に至ったということのようです。

 世話人会では詳細に検討する余裕がありませんでしたが、その後、小林の方で検討したところを報告しておきます。

 この報告に含まれる医療基本法草案には「患者の権利と責務」という章が設けられており、患者の自己決定権や診療情報の提供を受ける権利等が規定されています。このような規定に関しては、各ブロックレベルのシンポジウムでは慎重論も根強かったようですが、最終報告でもそれらの規定は維持されています。

 若干の表現の修正や、内容は同じで条文の位置を移動させたものを除けば、改訂のポイントは大きく三つに整理できると思います。

 一つめは、医療提供者と並んで、医療提供施設(管理者)をステークホルダーとして登場させたことです。第二条の(3)に「病院、診療所、介護老人保健施設、並びに調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設」という定義規定を追加し、第七条及び第十七条に医療提供施設管理者の責務及び義務規定を新設しました。

 二つめは、医療提供者育成を重視する観点を打ち出したことです。第九条(施策の策定:旧草案では第八条)に四項として「医療提供者の育成に努めること」という項目を追加し、第一七条(医療提供施設管理者の義務)の二項に、「医療提供施設の開設者及び管理者は、医療の質向上のため、多職種の医療提供者の協働を推進し、医療技術継承のため、指導体制の整備に努めなければならない」という項目を設けています。

 三つめは、第三章を「医療提供者の責務」から「医療提供者等の権利と義務」に変更し、いくつかの文言を、医療提供者の裁量を拡げる方向で改定したことです。

 具体的には、旧草案一三条一項は、「医療提供者は、患者のために最善の医療を提供するとともに、必要に応じて他の医療提供者との適切な連携のもとに、患者が希望する医療を受けられるよう努めなくてはならない」というものでしたが、これに対応する新草案十四条一項は、「医療提供者は、患者のために医療水準に応じた適切な医療を提供するとともに、必要に応じて他の医療提供者との連携のもとに、患者が希望する医療を受けられるよう努めなくてはならない」というものになりました。「最善の医療」が、「医療水準に応じた適切な医療」という文言に変わっています。

 私たち患者の権利法をつくる会は、国際人権規約A12条が保障する「到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利」を実現するための医療を、「最善の医療」と表現しています。それはまた最判昭和36年2月16日(東大病院輸血梅毒事件)がいうところの「危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務」に基づく医療でもあります。

 日本医師会医事法関係検討委員会が、「最善の医療」という表現を「医療水準に応じた適切な医療」と改訂した理由について、報告書では説明されていません。関係がありそうなのは、以前の報告書では、医療の性質として、非代替性、科学性、平等性、体系整備性、規範性、公共性、相互扶助性の七つが挙がっていたところ、今回はそれに、「不確実性」が加わって八つになっていることです。この「医療の不確実性」を、医療基本法の中で明確にすべきだという意見は、各地のシンポジウムでたびたび出されていたようです。医療は本来的に不確実なものなのだから、「最善の医療」などということを求められても困る、「医療水準に応じた適切な医療」であればよろしい、といった議論になったのでしょうか。

 また、旧草案一三条二項は、「医療提供者は、患者に対して精神的、身体的に有害な行為をしてはならない」というものでしたが、新草案十四条二項は、「医療提供者は、患者に対して精神的、身体的に有害な結果を発生させることのないように努めなければならない」という文言に変わりました。これもやはり、医療の不確実性から、意図せずして患者に有害な結果を生ずることもあるではないか、努力義務に過ぎないことを明らかにすべきだという議論になったのかもしれません。

 さらに、旧草案一四条は、「医療提供者は、患者の同意を得た範囲内で、医療水準に応じた合理的な判断にもとづき、適切な診療を実施することができる」というものであったところ、新草案一五条は、「医療提供者は、合理的な判断にもとづき、適切な診療を実施することができる」として、「患者の同意」と「医療水準」という枠を取り払ってしまいました。

 これは、新草案一四条の問題とは異なり、「医療の不確実性」で説明できるような改定ではないように思われます。標題に、医療提供者の「権利」が加わったこととあわせて考えると、医師の裁量権を強く打ち出すべきだという議論があったことが想像されますが、患者の同意や医療水準に拘束されることのない自由裁量が認められるはずがありません。ほかの部分の改定はともかくとして、この部分の改定は迷走と評価せざるを得ないと思います。

 

総会及び総会記念企画について

 今年は患者の権利宣言30周年を迎えます。また、都立広尾病院事件及び横浜市立大学患者取り違え事件が起こり医療安全への政策的取組が始まった1999年から数えて15周年になります。そこで、「医療安全と医療基本法」というテーマで、福岡で11月1日、東京で11月8日と二週続けてシンポジウムを開催するという、これまでにない記念企画を開催することになりました。

 総会は、11月8日です。具体的な場所、時刻が確定したら改めてお知らせしますが、会員のみなさまは是非、福岡または東京でのシンポジウムへの参加をご予定ください。

【三団体協議】

 世話人会に引き続き、15時から、患者の声協議会及びHーPACとの三団体意見交換会を実施しました。参加者は、患者の声協議会から、伊藤雅治さん、長谷川三枝子さん、埴岡健一さん、HーPACから小西洋之さん、田中秀一さん、前田哲兵さん。

 小西さんから国会情勢の報告をいただき、今後の運動方針を議論しました。国会議員への働きかけは、情勢を見ながらタイミングを計る必要がありますが、できるだけ早い時期の成立を目指すのか、それともじっくり議論をした上での制定が望ましいのかといったあたりについても、議論の擦り合わせが必要になりそうです。

 次回の会議は、今回と同じく、7月6日(日)に行われる当会の世話人会に引き続き、同日15時からの予定です。