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国会に上程された第六次医療法改正案

事務局長 小林洋二

 2月12日に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」が閣議決定され、国会に上程されました。これはそのような名前の単独の法律ではなく、医療法、介護保険法をはじめとするいくつかの医療関連法規の改正案をまとめたものです。懸案の、医療事故調査制度も、医療法改正案に含まれています。

 今回の改正の基本的な方針となる「医療事故に係る調査の仕組みに関する基本的なあり方」については、けんりほうニュース230号「医療事故調査制度の行方」を、そこに至る議論の流れについては同231号「医療事故調査制度の議論を振り返る」をご参照下さい。また、「あり方」に沿った医療法改正案の国会上程に対し、自民党の厚生労働関係部会でいったん待ったがかかり、医療事故調推進フォーラムとして緊急に「医療事故調査制度創設のための医療法改正を求める要請書」を提出した経過は235号のとおりです。

 では事故調査制度に関する改正部分をみてみましょう。

 今回の改正の大きなポイントは、医療事故の調査及び医療施設等が行う医療事故調査を支援するための「医療事故調査・支援センター」という機関を創設し(改正第六条の十五)、病院等の管理者に対し、医療事故が発生した場合にはそのセンターへの報告を義務付けたことです(同十第一項)。これまでも、特定機能病院等に対しては、医療事故が発生した場合に、事故報告書を作成し、医療事故情報収集等事業に提出することが義務付けられていましたが(医療法施行規則第九条及び一一条)、今回の改正により、事故報告は全ての医療施設の義務となります。

 なお、ここで「医療事故」とは、「当該病院等に勤務する勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」をいいます。一般的に「医療事故」というと死亡事故に限定されませんが、今回の改正で創設される医療事故調査制度が対象にするのは死亡事故に限定されることになります。

 さらに、病院等の管理者には、事故発生の場合には、「速やかにその原因を明らかにするために必要な調査を行わなければならない」という義務を負います(改正法第六条の十一第一項)。1999年の医療事故クライシス以来、医療施設の自主的な取り組みとして医療事故調査が行われるようになってきましたが、それが医療施設の法的義務として位置付けられるのは、はじめてのことです。

 医療事故で死亡した患者の遺族に対しては、病院等が医療事故調査・支援センターに報告を行う段階で説明が行われます(改正法第六条の十第二項)。また、病院等が医療事故調査を終了し、その結果を医療事故調査・支援センターに報告を行う段階でも説明が行われます(同十一第五項)。これによって、遺族は、病院がその医療事故についてどのような考え方をしているかを知ることができるはずです。

 医療事故調査・支援センターは、病院等から報告された医療事故及びその調査結果を分析することを主な業務としますが(改正第六条の十六)、病院等あるいは遺族から依頼があった場合には、自ら事故調査を行うことができることになっています(同条の十七第一項)。この場合、センターは病院に対して、説明又は資料の提出などの協力を求めることができ(同第二項)、病院等の管理者はこの求めを拒むことはできません(同第三項)。医療事故かどうかで病院側と遺族側の見解が食い違う場合も想定されますが、この条文によれば、病院側が医療事故であることを認めず医療事故調査を行わない場合であっても、遺族からセンターへの求めにより医療事故調査を行い得ることになります。

 医療事故の範囲や、院内事故調査のあり方、医療事故調査・支援センターの権限、さらには医師法二十一条との関係など、さまざまな課題は残っていますが、ひとまずは、医療事故調査制度が創設されることを前向きに評価したいと思います。

 

 一方、けんりほうニュース234号「社会保障審議会医療部会における『患者の責務』に関する議論」でお伝えしたとおり、今回の医療法改正案には、「国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない」(改正第六条の二第三項)という条文が含まれることになりました。

 懸念されたものよりは表現が緩やかになっていますが、患者の権利を明確にしないままこのような条文を設けることは、患者の責務を強調した受診抑制論に繋がることが危惧されます。改めて、患者の権利及び医療におけるステークホルダーの責務を明らかにした医療基本法制定の必要性を訴えていく必要を感じます。