権利法NEWS

書籍紹介 『新・患者の権利』

池永満著 九大出版会

 当会の初代事務局長であった池永満さんの訃報については、226号でお知らせしているところですが、彼が最後まで病床においてパソコンと原稿の束を手放さず、どうしても仕上げるのだと、文字どおり命を削るようにして書き上げた原稿が、600頁を超える大著として形になりました。

 池永さんの35年にわたる弁護士としての活動は、まことに多彩で、医療問題にとどまらず、市民の行政参加を求める取り組みや、原発なくそう!九州玄海訴訟など枚挙に暇がありません。ハンセン病問題も、けんりほうnewsに当時星塚敬愛園で生活していた島比呂志さんから届いた手紙を受け、彼が九州弁護士会連合会へ人権救済申し立てを行うように促したことが、結果として国賠訴訟につながり、画期的な勝訴を呼び込むことになりました。

 本書は、その彼が、自分に遺された時間の少ないことを感じながら、弁護士活動の多くを傾けた患者の権利運動の、執筆時点での総まとめとして送り出したものです。序文に、池永さんはこのように書いています。

「わが国における『患者の権利運動』を今後どのように推進していくのかを模索することは、私たちより一層若い世代が担ってこそ、その前進が保証されるのではないかと考え、わが国における患者の権利運動が若い世代によって継承されることを願っています。本書がそのバトンのひとつになるようにという思いで綴りました。」

 本書には、昨年二月に尼崎医療生協で行った最後の講演も収録されています。そこでは、池永さんは、治癒不能ながん患者としての自身の経験を踏まえて患者の権利を語り、自分の主治医からもらったメールを紹介しながら、多くの医療専門家に患者の人生を支援する役割を担う者に育ってほしいと呼びかけています。

 6月2日、福岡市内のホテルで、「池永満さんを偲び『新・患者の権利』の出版を祝う会」が開催され、200名を超える人々が集い、彼の業績を振り返りました。そこでも、彼の本書に込めた「次世代へのバトン」の思いが様々な人の口から語られました。

 最後に、池永さんの「ベストフレンド」だという配偶者の早苗さんから、パートナーならではのエピソードの数々が披露されました。客観的には命のカウントダウンが始まっているような状況で、この先何年もの自分の人生の「マスタープラン」をつくり、未来を信じ、最後の最後まで前を向いていた姿がありありと蘇り、ただ者ではなかったという思いを深くしました。

 当会では、医療問題弁護団、患者の権利オンブズマン東京とともに、池永弁護士の業績を振り返る会を6月29日に東京の四谷にある弘済会館で開催します。思い出を語り合いつつ、道半ばにして旅立った彼の意思をどう継いでいくのか、思いを新たにする機会にしたいと思いますので、ぜひご参加下さい。   (久保井摂)