事務局長 小林 洋二
九月二九日一三時から、東京の駿河台記念館で、今年度最後となる第五回の世話人会が開催されました。参加者は石井麦生・漆畑眞人・小沢木理・木下正一郎・久保井摂・小林洋二・鈴木利廣・高岡香・中村道子・藤井信子(五十音順・敬称略)の各氏。
医療基本法要綱案〜苦情申立権に関して
患者の権利オンブズマン東京から、八月二九日付で、「医療基本法に『患者の苦情調査申立権』を明記することを提案する意見書」をいただきました。提案の趣旨は、「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する」との一文を明記することを求めるものです。医療基本法要綱案世話人会案には、既にⅡの7「患者は、自分の権利が侵害され、あるいは尊重されていないと感じるときには、当該医療施設の開設者に対して苦情を申し立て、その解決を求めることができる」という条項が存在しますが、この条項に加えて、オンブズマン東京の提案する条項を新設すべきか否か、あるいはその趣旨を取り入れて改訂すべきか否かが議論されました。
ちなみに、この患者の権利オンブズマン東京が提案している文章は、WHOヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言中にあるものです。参考のために、その条項の全体を掲げておきます。
「患者は、この文書に明らかにされている権利の行使を可能にするような情報や助言にアクセスできなければならない。患者が、自己の権利が尊重されていないと感じる場合には、苦情申立てができなければならない。裁判所の救済手続きのほかにも、苦情を申立て、仲裁し、裁定する手続きを可能にするような、その施設内での、あるいはそれ以外のレベルでの独立した機構が形成されるべきである。これらの機構は、患者がいつでも苦情申立手続きに関する情報を利用でき、また独立した役職の者がいて患者がどういう方法を採るのが最も適切か相談できるようなものであることが望ましい。これらのメカニズムは更に、必要な場合には、患者を援助し代理することが可能となるようなものたるべきである。患者は、自己の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に調査され、処理され、その結果について情報を提供される権利を有する」
議論の結果、現在のIIの7を以下のとおり改訂することになりました。
「患者は、自分の権利が侵害され、あるいは尊重されていないと感じるときには、当該医療施設の開設者に対して苦情を申し立て、迅速かつ適切な調査及び解決を求めることができる」
あまり詳細に亘らず基本的な考え方を明らかにするという基本法の限界の範囲内で、単なる解決ではなく調査というプロセスが重要であるというオンブズマンの問題意識を反映したものです。
医療基本法要綱案〜患者の責務に関連して
患者の責務に関する規定をおくかどうか、おくとしたらどのように表現するかについては、基本法要綱案の議論の最初から議論を重ねてきたところであり、現在の案では、「患者は、医療従事者と協力して、最善、安全かつ効率的な医療が実現するよう努めるものとする」(IIの8)という形になっています。今回の世話人会では、この条文では、患者の責務があまりに無限定に認められてしまうことになるのではないかという疑問が提起され、改めて議論されました。
基本法要綱案の総則部分には、医療における基本的人権として、最善かつ安全な医療を平等に受ける権利と、自己決定権が謳われています。IIの患者の権利の章にも、「患者は、医療従事者の誠意ある説明、助言、協力、指導などを得たうえで、自由な意思にもとづき、診療、検査、投薬、手術その他の医療行為に同意し、選択し、あるいはそれを拒否することができる」(IIの4のi)との条文が置かれています。改めていうまでもありませんが、患者が一方的に医療従事者への協力義務を負うなどということは、基本法要綱案の全く想定していないところです。
また、「最善、安全かつ効率的な医療」を実現するのは、第一に国の責務です。その国の責務は、III章に詳しく規定されています。
そういった患者の権利や、国・地方公共団体の責務を定めた上で、患者には何の責務もないのか、ただ権利を享受するだけの存在なのか、というのが、現在の医療基本法要綱案の「患者の責務」規定の問題意識です。
結論的には、「患者の責務」規定を変更するのではなく、IVの2の「医療従事者の基本的責務」のiiに「患者と協力して」という文言を加えることにより、医療が一方的に提供されるものではなく、患者と医療従事者との協力関係によって実現するものだという考え方を明らかにすることにしました。具体的な文言は、以下のとおりです。
「医療従事者は、医療に関する患者の自己決定を尊重し、患者と協力して、最善かつ安全な医療を提供するよう努めるものとする」
今年度のブラッシュアップ作業はこれで一段落です。しかし、特にこの「患者の責務」条項については、会員のみなさまの間にもさまざまな意見があるところだと思います。けんりほうニュースに、是非、ご意見をお寄せ下さい。
医療分野個人情報保護法について
この問題については別稿のとおりです。世話人会では、小林のパブリック・コメント案を叩き台として議論され、改めて石井世話人の方で報告書を精査し、付加すべき論点がないかどうかを検討することになりました。
医療基本法制定に向けて各政党への働きかけ
解散総選挙がどうなるか分かりませんが、各政党とも臨戦態勢にあることは間違いありません。マニフェストに医療基本法を盛り込むよう求める要請書を近日中に起案し、各政党に送付することになりました。