福岡市 久保井 摂
7月21日午後一時から日本医療福祉生活協同組合連合会(略称「医療福祉生協連」)の本部に伺い、意見交換をしてきました。医療福祉生協連は、専務理事の藤谷さん、看護師の中村さん、組合員理事である中島さん、途中から副会長の藤原さんと、日野秀逸さんも同席されました。こちらの出席者は、石井麦生さん、小沢木理さん、木下正一郎さん、小林洋二さん、鈴木利廣さん、高岡香さん、中村道子さんと私という顔ぶれです。
まずはじめに藤谷さんから、前身である医療生協は地域住民に医療を届けることを目的に設立されたこと、したがって、国民皆保険成立を受けてその役割は終わったとも言われていたが、改めてまち全体を健康にする、健康づくり・まちづくりを目標とする組織として自己規定して活動してきたこと、その中で、1991年に、当時としては先進的な「患者の権利章典」発表に至ったこと、当時は医師の大多数は三分間診療の中でただでさえ患者に怒られているのに、とか、がんの患者に告知して自殺されでもしたらどうするのか、と反対だったこと、しかし「権利章典」の採択により住民の医療への「参加と協同」の取り組みが具体的に追求されるようになり、カルテ開示、患者満足度評価、事業所利用委員会、倫理委員会など他の医療機関に先んじ、あるいは他にはみられない様々な実践に取り組むようになり、活動と事業の質が大きく変わってきたことが実感を持って語られました。
医療生協に所属する川崎協同病院で起きた、医師が気管内チューブを抜き筋弛緩剤を投与して患者を死亡させた事件は、医療生協にとってその存在意義を問われる衝撃的なものでした。しかし、これを期に改めて患者の権利章典が実践できてなかったという反省を行い、時間をかけて議論し、ガイドラインやチェックリストをつくり、利用者と医療者がともに実践を検証する患者の権利章典の実践交流会を開催するなどしてきました。
生協法の改正に伴い、2010年7月に「日本医療福祉生活協同組合連合会」として新たに出発することになり、「患者の権利章典」を見直そうとの声があがり、約一年間の議論を経て今年六月の総会で「医療福祉生協のいのちの章典」(案)が提案されています。この文書は、憲法13条の幸福追求権、25条の生存権、また九条の平和主義も見据えて、主権在民の健康分野の具体化としての「健康の自己主権」を確立するという理念に立って、新たにつくろうとしているのが、「医療福祉生協のいのちの章典」です。具体的には、自己決定権、自己情報コントロール権、安全な医療・介護を受ける権利、アクセス権(このアクセス権は医療そのものへのアクセスの権利を保障するまちづくりの権利です)、参加と協同の五項目が掲げられています。現在のこの案を、一年間かけて、全国の事業所で議論し、来年の六月の通常総会で採択される予定とのことでした。
医療生協の大きな特徴として、医療提供する側も、受ける側も、どちらも同じ組合員であるということがあります。「いのちの章典」では、権利と責任の主語として、「ともに組合員として生協を担う私たち地域住民と職員は」と書かれていて、改めてこの基本に立ち返り、すべての組合員が真摯に向き合って議論していこうというメッセージが込められていると感じました。
今回みせていただいた「いのちの章典」、実は昨年もこの動きについてお話を聞く機会があり、その時点での内々の案をみせていただきました。それは章典ではなく「宣言」と題され、「権利」という単語を使わず、職員と組合員を分けてそれぞれの行動規範ともいうべきものを記載したものになっていました。当時は、患者の権利章典からの大きな後退ではないかと危惧しましたが、今回みせていただいた資料や、紹介いただいた議論の経過から、「権利」を規定しないことに対し、組合員から強い違和感が示され、また20年を経たといっても、まだまだ「権利章典」が十分に実践されているとはいえないといった自己反省の発言もあるなど、互いに組合員として真摯にかかわってきたからこその誠実な意見交換が交わされて、現在の「章典」案に至ったことがよくわかりました。
医療福祉生協では、来年の総会での確定に向けて、紙芝居を利用した全国の各事業所での学習・討議をかさね、全国に一万人の「いのちの章典の語り部」をつくるなど、この理念が組合員に広く浸透し、実践につながるよう、たゆまない活動をしていくとのこと。資料には、各事業所の学習会の後に寄せられた組合員の意見も掲載されていましたが、職員である組合員からの前向きな意見を読むと、私たち患者の権利法をつくる会が取り組んでいる医療基本法が、医療関係者を「患者の権利擁護者」と位置づけている理念と共通するものがあると感じました。
こちらからも、鈴木常任世話人と小林事務局長から一九八四年の患者の権利宣言案運動から当会の設立、そして現在の医療基本法に至るまでの取り組みについてお話しし、医療の公共性をめぐって率直な意見交換を行いました。
まさにステークホルダーたる住民=患者が自主的に医療の運営に参加している医療福祉生協の実践に学ぶべきところは多く、「いのちの章典」という発想も、なるほどかかる実践を踏まえてのものであるということがよく理解できました。今後も、医療福祉生協との意見交換の場を持ち、医療基本法の実現に向けた具体的な取り組みを協同できるような活動をつくっていきたいと改めて思った機会でした。
【参考資料】
「医療福祉生協のいのちの章典」案
いのちを守り健康をはぐくむための権利と責任
ともに組合員として生協を担う私たち地域住民と職員は、いのち・くらし・健康を守るために以下の権利と責任があります。
1 自己決定権
私たちは、知る権利、学習権を背景にして、さまざまな情報を自らのものとし、自己決定を行います。
2 自己情報コントロール権
私たちは、個人情報が保護されると同時に、本人の同意のもとに適切に利用されるようにします。
3 安全な医療・介護を受ける権利
私たちは、安全を最優先にし、そのための配慮やしくみづくりを行います。
4 アクセス権
私たちは、必要な時に十分な医療・介護のサービスを受けられるように制度を改善し、健康にくらすことのできるまちづくりを行います。
5 参加と協同
私たちは、主体的にいのちを守り健康をはぐくむ活動に参加し、協同を強めてこれらの権利をまもり発展させます