権利法NEWS

シンポジウム「医療政策のグランドデザイン  医療基本法の制定を!」の報告

 

世話人 木下 正一郎

 

 3月25日(日)、東京大学小柴ホールにて、東京大学公共政策大学院医療政策実践コミュニティー(H-PAC)医療基本法制定チーム主催の標記シンポジウムが行われました。

 まず、チームの田中秀一さん(読売新聞東京本社社会保障部長)より、「なぜ医療基本法が必要なのか」との基調報告が行われました。医療を巡る重要課題として、①医療提供体制の充実、②医療の質と安全の確保、③患者の権利の保障、④国民皆保険制度の維持を挙げ、これらの課題を実現する拠り所として医療基本法を制定することが必要であるとの報告がありました。

 続いて、チームリーダーの前田哲兵さん(弁護士)より、チームが考える医療基本法の骨子案について説明がありました。骨子案は第1条に目的を掲げています。その目的は、「この法律は、日本国憲法第13条、第14条及び第25条の精神に基づき、医療について、基本理念を定め、国及び地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、医療における基本的人権及び医療政策の基本となる事項を定めることにより、医療政策を総合的かつ計画的に推進し、もって、現在及び将来における国民の生命の尊重と個人の尊厳の保持に寄与すること」です。また、医療の基本理念として、(1)平等性、(2)一貫性、(3)適切性、(4)相互信頼性、(5)公共性、(6)民主性を掲げています。そして、(1)平等性、(2)一貫性、(3)適切性、(6)民主性が図られれば、(4)相互信頼性が得られ、(5)公共性も保たれるようになり、こうして良い循環が作られることを企図しているとの説明がありました。

 続いて、シンポジウムパネリストの報告がありました。

 最初に、日本病院会顧問で日本医師会医事法関係検討委員会副委員長の大井利夫さんが私見に基づくと断った上で、報告をしました。医学・医療の進歩発展及び医療の社会化が加速している現在、良好な患者医療者の信頼関係を構築するために、医療関係法令を統合する医療の基本理念の明確化が求められてきていると述べ、医療基本法が必要であるとの意見が述べられました。また、平成24年3月に日本医師会で「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言」が理事会決議を経たばかりである旨の報告がありました。

 二番目に、全国自治体病院協議会副会長を務める精神科医師の中島豊爾さんより、医療は国民共有の貴重な資産であり、国と自治体の責任を明確にするために、また、国が地域の医療を保障するために、自助、互助、公助を基本に、医療基本法を制定することが必要であるとの意見が述べられました。

 三番目に、政策研究大学院大学の島崎謙治さんより、医療基本法制定に反対の立場ではないが、医療基本法で何を規定するか、目標につき関係者のコンセンサスが得られるのか等の意見がありました。また、理念だけでは政策にならないので、目標を達成するための手段・手法の吟味が重要であるとの報告がありました。

 四番目に、当会の世話人の一人である鈴木利廣さんから、当会の医療基本法要綱案世話人会案をベースにして、医療基本法構想について説明がありました。健康権、幸福追求権という患者の権利の保障を医療制度の目的として、公共性を理念として、医療基本法に定めて、実現のための方法論として、同法において関係者の役割明確化を図るべきであるとの報告がありました。

 最後に、民主党参議院議員の小西洋之さんより、医療基本法の必要性と有効性について報告がありました。医療の再建が進まない理由として、医療のあるべき姿(理念、基本方針)がないこと、本来あるべき政策が実現される法的基盤がないこと等を指摘し、政策の総合的・計画的推進を確保する役割のある医療基本法には、指摘する問題を一気に解決し、医療再建を進めていく機能があるとの報告がありました。

 その後、パネリストによるシンポジウムが行われ、様々な意見が出されました。医療基本法においては、患者の権利を実現していくものとして医療を捉えるべきという意見があれば、患者のみならずすべての関係者の権利が必要であるという意見もありました。また、基本法においては患者と医師の関係を基本に据えるべきだが、法律で定めるにはどういう方向を目指していくべきかというコンセンサスが必要、という意見があれば、医師・患者の役割・在り方や医療の本質を基本法の理念として書くことができ、医療基本法に基づく医療計画の下、具体的政策が実現できるという意見もありました。

 さらに、医師の地域偏在・診療科偏在の問題にも話が及びました。これについては、方法論はこれから議論して決めていくものであり、その政策決定に民意及び医療従事者の議論を反映するように医療基本法で担保することが重要という意見がある一方、偏在の問題を解消しようとすると計画配置しかないので混乱を来す、偏在解消の方向は示すが規定をしてはいけない、という意見がありました。会場からは、保険者の機能が一番大きな機能であり、偏在がないようにするには保険者が担保しなければならない責務があるとか、偏在は大学に問題がある等という意見、現在の子どもが38歳になる2050年を見据えて議論しているのか、悠長なことはいっておられず今始めなければならないという意見がありました。

 最後に小西さんより、会場にいた方々に対して、野党(公明党・共産党)が医療基本法制定をマニフェストに掲げており、自分も医療基本法の議連をつくっている、実現に向けこれから国会で動きを作っていくので、社会の中で声をあげてもらいたい、という訴えがありました。

偏在の問題など、各論ないし方法論に結びつきそうなテーマに及ぶと、医療基本法に定めると言っても、どのようなことをどの程度定めるかということについては、考え方にまだ違いはありそうです。しかし、そういうことも関係者で議論をして、コンセンサスを得ていくことが必要であり、そのプロセスが重要なのだと考えます。これまでも、いろいろなところで医療基本法制定を目指すシンポジウムが行われてきましたが、これからは医療基本法を目指す団体・人たちが、具体的にどのような基本法を定めるか議論をして、その内容を詰めていく段階に来ているのだと思います。当会でも昨年の総会シンポジウムで医療基本法要綱案世話人会案を公表しましたが、これをブラッシュアップし、これに基づき関係団体と基本法の内容を詰めていき、関係各所に働きかけていくことが必要です。

そんなディスカッションの場として、4月15日(日)14時から17時まで品川の全社連研修センターにて、患者の声を医療政策に反映させるあり方協議会主催、患者の権利法をつくる会、H‐PAC医療基本法制定チーム共催で、「医療基本法制定に向けて今こそ」というシンポジウムが行われます。当会からは、小林洋二事務局長がプレゼンターとして参加します。このシンポジウムにも是非ご参加下さいますようお願い致します。