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書籍ご案内 『医者は現場でどう考えるか』

 


ジェローム・グループマン著

美沢惠子訳

石風社(2800円)

 

 ある人のブログで知り、どうしても読みたくなって、インターネットで取り寄せたのですが、読了後ふらり立ち寄った地元の書店のベストセラーコーナーに置いてありました。決して手に入れやすい価格でもないのにひろく読まれているのは、本の持つ力によるものでしょう。

 著者は一九五二年生まれの血液疾患の専門家。本書は、タイトルの通り、医者が臨床現場でどう思考するのかについて、著者がインタビューによって知ったり直接経験したりした相当数の症例をあげ、現場の医師が陥りやすい思い込みによるエラーが生じるメカニズムを明らかにしようとするものです。けれど、決して専門家に向けて書かれたものではありません。医師が陥りやすい落とし穴を、その思考回路にそって解き明かし、これから医療を受けようとする患者予備軍に対して、そうした思考傾向から生じるエラーを防ぐことのできる最良の協力者はまさにあなた、患者自身なのだと語りかけてきます。

 本書が取り上げる症例を、ここで紹介するのはあまりにも野暮で、自ら読むよろこびを取り上げてしまうことになりますから、差し控えるべきですが、「虚心に患者と向きあう」と題された序章の冒頭に紹介され、最後まで繰り返し引用されるアン・ドッジという女性の症例は、本書の特徴を実によく示しています。身体が食べ物を受け付けなくなった二十歳の頃以来十五年間に三十名もの医師の診察を受けるも原因不明、「過食症を伴う神経性食欲不振症」との診断で、虚言を疑われ、なすすべもなく健康が悪化していった彼女が、ボーイフレンドに強く勧められ、嫌々受診したファルチャク医師からはじめて人として遇され、「あなたの物語を聴きましょう」と語りかけられ、ようやく病の真の姿が解き明かされて健康への糸口を見いだす…、劇的な事例です。ここから、否応なしに引き込まれて最後まで一気に読んでしまいます。

 インフォームド・コンセントといい、セカンド・オピニオンといい、インターネットをはじめとして医療情報が氾濫する中、自分にとって真に必要な情報にたどりつくのは容易なことではありません。情報は、ただそこにあるだけでは何も語りかけてはくれません。

 医療が、まさに生きている個人を中心におくものであり、その人の生活や生き方に大きくかかわるものであること、したがって、医療はかかわる医師と患者とが互いに向かい合い、ともにつくっていくべきものであることを、理想系としてでなく、あるべき姿として確信させてくれます。

「本書を書いて気がついたのは、さらに私の思考の向上を助けてくれるかけがえのないパートナーがいるということである。そのパートナーは、適切かつ焦点の合った質問をするだけで、医療ミスを招く認識エラーの連鎖から私を守ってくれる。そのパートナーとは、私が何を考えているのか、私がどう考えているのかを知ろうとする私の患者であり、患者の家族またはその友人である。」

「おわりに」という章の最後に書かれた言葉です。この言葉を胸にとめて、これからの医療に向かい合いたいと思います。               (久保井 摂)