事務局長 小林洋二
会員のみなさま、2011年の暮れをいかがお過ごしでしょうか。
毎年、この時期には今年の十大ニュースが各メディアを賑わしますが、3月11日の東日本大震
災、引き続く福島第一原発事故は、きっと二一世紀というタイムスパンで考えても特筆すべき事件として歴史に残ることでしょう。世界的にも、2001年のアメリカ同時多発テロ以来の大事件でした。被災地が、もともと、医療資源の乏しい地域だったこともあり、改めて、医療の大切さを思い知らされる事件でもありました。
政治の面ではTPP参加の是非が大きな話題になりました。これまで、自動車をはじめとする輸出産業のメリットと、関税自由化で打撃を受ける農業のデメリットとの対立と捉えられることが多かったと思われますが、TPPに参加して国民皆保険制度が維持できるのかという問題もクローズアップされました。これも、医療の重要性はもちろんのこと、医療制度が、患者と医療提供者との関係だけではなく、医療保険や製薬企業といったさまざまなステークホルダーによって成り立っていることを思い出させる議論でした。
このような中、「つくる会」で取り組んでいる医療基本法制定運動は、大きな前進を見せました。昨年の日本医師会に続いて、今年は日本病院会、全日本病院協会、日本放射線技師会が医療基本法制定に前向きな姿勢を表明、日本弁護士会連合会も、10月の人権大会で「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」を採択、シンポジウムでは実行委員会試案としてではありますが「患者の権利法要綱案」を発表しました。
「つくる会」の医療基本法要綱案も、世話人会での激論と、「医療基本法制定推進フォーラム」に参加していただいている方々からのアドバイスを経て、「つくる会」20周年シンポ、「みんなの医療基本法」で世話人会案を発表することができました。シンポジウムでもさまざまな立場の参加者から貴重なご意見、提言を寄せていただきました。
医療基本法や患者の権利法に期待が集まっているのは、もちろん、現在の医療制度に対する危機感のあらわれです。TPP参加の是非をめぐる議論でも、TPPは健康保険制度それ自体を否定するものではなく、さまざまな規制が撤廃されることによって健康保険制度が事実上骨抜きになってしまうことが危惧されているのだから、それが骨抜きにならないようなしっかりした国内法整備が重要だという意見を聞きました。日本医師会の医事法関係検討委員会では医療基本法の草案作成作業に入っているとも伝えられます。新自由主義的な価値観に対して医療の公共性を強調する医療基本法、それも国家主義的な公共性ではなく、一人一人の患者の権利に基づいた公共性を強調する医療基本法が、切実に求められています。
2012年は、私たちの医療基本法要綱案の考え方を、医療提供者、医療産業、医療保険者といったステークホルダーに広く伝え、医療基本法制定の議論をリードしていきたいと考えています。また、現段階では世話人会案として発表している医療基本法要綱案を、「つくる会」の案としてブラッシュアップするために、各地域での医療基本法に関する意見交換会、勉強会を開催していく方針です。シンポジウムの記録を、できるだけ早く皆様の手許にお届けし、今後の議論に役立てていきたいと思っています。
来年もどうかよろしくお願いいたします。