権利法NEWS

患者の権利25周年記念シンポジウムに参加して

患者の権利法をつくる会世話人   
患者の権利オンブズマン東京幹事  
亀岬陽子

さる10月31日土曜日、愛知県産業労働センター9階大会議室902号において、患者の権利宣言25周年記念集会「今こそ患者の権利・医療基本法を!」が開催されました。主催/患者の権利宣言25周年記念実行委員会。21に及ぶ団体が実行委員会参加団体として名を連ね、準備を重ね、実行委員の皆様の熱意と協力、当日の講演者およびパネラーの皆様のご活躍により、患者の権利運動の歴史に残る、まさしく記念すべき集会になりました。中心となり御尽力された小林事務局長様、久保井様、鈴木様、森田様、小沢様、各世話人の皆様、誠にお疲れ様でございました。集会の詳細な記録は、後ほど報告集などで多くの方々に公開されることを個人的に期待しまして、ここでは参加しての感想をまとめさせていただきたいと思います。

 

当日は、受付をしながら御席への案内などもさせていただきましたが、午後一時半の開場とほぼ同時くらいに来場者がみえ始め、午後二時の集会開始と共にかなり席は埋まり、最終的には、ほぼ満席近くの140人位の方におこしいただいたようです。中には、携帯の酸素ボンベを持参され、吸入しながらの参加の方や、薬害肝炎の関係の皆さん、医療事故被害者ご遺族の皆さん、薬害被害の支援の皆さん、弁護士の皆さんなど、患者の権利擁護の立場の方々のご参加も大変多いように見受けられ、この集会に対しての関心の高さが伺われました。

まず初めに、鈴木利廣実行委員長より、実行委員長挨拶がありました。

次に、基調講演として「医事法におけるパラダイムの転換」~国策に奉仕する医療から国民の命を守る医療へ~と題して、内田博文さん(ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会 座長代理)より、講演が行われました。資料として同検討会の報告書(2009年4月)からの引用が示され、多くの方に示されたことは、次の段階の検討に向けて、大変重要なことと思われます。講演の内容では、世界人権規約、北欧における患者の権利法の紹介があり、その法制化の趣旨は「尊厳と自律」ということが印象に残りました。そのため、北欧では、患者・医師の信頼関係がよくなり、紛争が減少したとのこと、日本の医療でも尊厳と自律という言葉は教育などでも使用されてはいるものの、法制化が遅れている現状では、まだまだ患者・ご家族が弱い立場にあります。北欧などの動きを参考にしたらどうだろうかと思いました。

また国や自治体の責務を明らかにし、医療基本法で実効性の担保をするということが重要とのお話でした。国策ではなく、国民に奉仕する医療へ!命を守る医療へ!と強調され、パラダイムの転換が重要ということでした。今後の患者の権利法の法制化、医療基本法の法制化に向け、基盤となる貴重な講演と思いました。

その後のパネルディスカッションでは、~それぞれの運動を語る~というテーマで、5名の方からお話がありました。コーディネーターは隈本邦彦さんで、スムーズに進行されました。

まず一人目の伊藤たておさん(日本難病疾病団体協議会代表)からは、医療の平等性とは何か(専門医療・先端医療を受けることができる患者とそうでない患者、政策医療と一般医療、自己負担と公費負担の関係、地域における医療格差など)、医師への権限集中の実態、医療の中では患者を対等に見ていないということが述べられました。この25年で進んだ点としては、このような会が開かれ、発言の機会が与えられるようになったこと、大病院の倫理委員会などに参加できるようになったことなどが挙げられるが、結局、医療の中での、患者・医師関係はあまり変わっていないのではないかと述べられました。

二人目の勝村久司さん(医療情報の公開・開示を求める市民の会)からは、お子様を医療事故で亡くされた経験から、同じような事故を起こしたくないということで、遺族として社会に対して活動されているそうです。25年前は、アドボケイトを病院内に配置したいと考えていたが、ここ何年か病院側の立場に立つメディエーター配置という動きになってしまってきているとのことでした。進んでいることとしては、情報開示、安全対策などが少しずつ、当たり前のことが当たり前になってきている、またパターナリズムが少しずつ良くなってきている、薬害被害者が議員になってきている、自分も医療安全対策WGなどに参加していることなどが挙げられました。また医療事故被害者への偏見があることは残念な旨、言及されました。

三人目の平野亙さん(NPO法人患者の権利オンブズマン副理事長)からは、会の活動理念(苦情から学ぶ医療、自立支援)と、活動の展開として、相談支援事業および調査点検事業の報告がありました。配布資料に、調査点検事業の概要が掲載されていますが、勧告集などの本も出版されています。それらから言えることとして、インフォームド・コンセントが形骸化している、書式は整っているが患者は納得しているだろうか?、エホバ判決があっても規範となっていないのではないか。また個人情報保護法制定の後も、カルテのコピーをもらえない人が多いという問題がある。厚労省は指針のみなので、医療側は義務と理解してないのではないか、患者の権利について動いている窓口がないということも指摘されました。

四人目の藤末衛さん(全日本民主医療機関連合会副会長)からは、まず患者の権利章典を掲げる病院で起きた事件(民医連加盟の川崎協同病院)にどう立ち向かったかの話がありました。次に安全な医療実践の取り組みと医療事故を取り扱う第三者機関設立の運動(厚労省に早期設立の要望書提出など)についてもお話があり、警鐘的事例の集積と振り返り、医療安全交流集会の開催、実践的な医療機関安全診断の取り組みなどの紹介、また医療の平等性を守る取り組み(差額室料をとらず無料・低額診療制度事業にも挑戦)、さらに人権と憲法を明記した数十年ぶりの民医連綱領改定の取り組みについても紹介がありました。特に医療現場のお立場から、医療にアクセスできない人が増えている、保険料を支払えない人々がいることも強調され、経済状況の悪化が、適切な医療を受ける機会や権利も奪っていることが指摘されていました。

五人目の山口美智子(薬害肝炎全国原告団代表)さんからは、薬害肝炎やその訴訟、経過、残された課題などに加え、OECDのデータをもとに、根底にある医療の供給体制の貧しさの紹介がありました。ご自身の薬害のご体験、過去に繰り返された多くの薬害からも、患者の命を守るための基本法が必要と痛感され「安心社会実現会議最終報告」「安心と活力の日本へ」で、委員として下記の文章が入るよう大変ご尽力されたそうです。

~資料より抜粋~

安心社会実現会議最終報告「安心と活力の日本へ」

人生を通じた切れ目のない安心保障 4医療と健康の安心

国民の命と基本的人権(患者の自己決定権、最善の医療を受ける権利)を実現するため、2年を目途にそのことを明確に規定する基本法の制定を推進しなければならない。

 

休憩をはさんでのディスカッションでは、東京大学医療政策人材講座の第4期生の皆様による医療基本法プロジェクトの紹介が、そのメンバーで政策立案者である小西様よりありました。提案している医療分野での基本法では、特に憲法25条の生存権の趣旨を医療政策において具現化することを大切に考えていらっしゃるそうです。またその資料に、昭和47年の社会保険旬報No.1043で、野党(社会、公明、民社)が国会に共同提案した医療保障基本法についての紹介があり、過去にそのような動きがあったことを知ることは、この活動にかかわるものとして、大変意義のあることと思いました。

その後、会場の参加者の皆様からも、臨床試験における患者の権利、患者の権利法や医療の基本法を求める声が、終了予定時間を過ぎても多く挙げられました。この集会を契機に、それぞれの団体や個人の立場で、同じ志をもった者どうしが集まり、患者の権利・医療基本法の成立に向け、力を結集していくことは大変重要なことと思いました。一方で、政治に期待することとして、実行委員長の鈴木さんからは「超党派の医療基本法推進議連を立ち上げていただきたい」というご発言もありました。

アピール採択では、下記の内容が読み上げられ「私たちは、国に対し、速やかに患者の権利と医療の基本理念を明記した医療基本法の法制化に向けての作業に着手するよう要望するとともに、私たちも、法制化実現に向けて努力していくことを宣言します。」と結ばれました。

最後の閉会挨拶は、加藤良夫さんからあり、約3時間強におよぶ集会が締めくくられました。その後は、懇親会の場に移動し、熱い思いを語り合いました。

今後も、この活動が、実行委員会の各団体・メンバー、集会へのメッセージをお寄せいただいた皆様(研究者、国会議員、各団体や個人の皆様)、さらには医療基本法を求める様々なグループの皆様とも、検討の場を拡げ、活動が拡がっていくことを心より願っております。

 


医療基本法制定を求めるアピール

 

日本おける表立った患者の権利運動は、1984年10月、患者の権利宣言全国起草委員会による「患者の権利宣言案」発表に始まりました。

それから25年、患者の権利運動は、インフォームド・コンセントの普及、カルテ開示の制度化、医療安全に対する取組の強化等、様々な成果を獲得し、医療のあり方に大きな影響を与えてきました。

しかし、その一方で、医療費の患者自己負担は年々増加し、経済的理由で医療機関を受診できない患者が増えつつあります。また、医師数の絶対的不足さらには診療科目間及び地域間における医師の偏在等により、必要な医療を受けるのが困難な事態も生じており、医療現場からは「医療崩壊」の叫びが挙がっています。

このような状況が進めば、患者の権利の根本である「医療を受ける権利」が空洞化し、自己決定権や安全な医療も、経済的条件及び地理的条件に恵まれた一部の患者のものになりかねません。

このような状況を乗り越え、国民の生命と基本的人権を守る医療を構築するためには、「安全かつ質の高い医療を受ける権利」及び「患者の自己決定権」を柱とする患者の権利を国民に保障し、その権利の実現のために医療供給体制及び医療保障制度を整備する国及び地方公共団体の責務を明らかにする法律を、日本の医療制度全ての基本法として制定すべきです。

本年4月、「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会」は、「患者の権利擁護を中心とする医療の基本法」の制定を提言する報告を厚生労働大臣に提出し、また6月には、安心社会実現会議の最終報告書に、患者の自己決定権と最善の医療を受ける権利を明確に規定する基本法の制定を2年を目途に推進するとの文言が盛り込まれました。

医療の危機を憂い、患者の権利の法制化を求める声は、医療を受ける側、医療を提供する側の垣根を越え、国民的合意になりつつあります。

私たちは、国に対し、速やかに患者の権利と医療の基本理念を明記した医療基本法の法制化に向けての作業に着手するよう要望するとともに、私たちも、法制化実現に向けて努力していくことを宣言します。

 

2009年10月31日

患者の権利宣言25周年集会参加者一同