事務局長 小林 洋二
さる八月二八日、第一七回ロードマップ委員会が開催されました。今回は、患者の権利に関する体系化についてのヒアリングで、対象は厚生労働省健康局および医政局、日本病院会副会長大井利夫氏、日本薬剤師会副会長遠藤一司氏及び同山本信夫氏、そして患者の権利法をつくる会事務局長の私。
日本病院会及び日本薬剤師会からの三名は、医療基本法制定に関し前向きの姿勢を示しました。私の発言の内容は、基本的に前号のけんりほうニュースに掲載したものとほぼ同じです。これに対し、厚労省の消極姿勢は際立っており、谺委員(ハンセン病違憲国賠訴訟全国原告団)の厳しい指弾を受けることとなりました。
それぞれの提出資料はロードマップ委員会のホームページからダウンロードできます。
http://sociosys.mri.co.jp/hansen/090828.html
近日中に議事録もアップされることでしょう。
次回のロードマップ委員会は、予定通り、一〇月五日午前一〇時~一二時、場所は霞ヶ関ビル三五階東海大学校友会館「望星の間」です。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/10/s1005-2.html
さて、ロードマップ委員会の提言を中心とした医療基本法をめぐる動きについては、けんりほうニュースでたびたびお伝えしているとおりですが、今回は、医療基本法をめぐるもう一つの動きについて紹介したいと思います。
二〇〇四年一〇月に医療政策を立案・推進する次世代リーダー育成を目的として開講した東京大学医療政策人材養成講座(HSP)は、政策立案者・医療提供者・医療ジャーナリスト・患者支援者など立場を超えた受講生のグループによる「共同研究」で具体的な政策課題に取り組み、最終的に学術論文や政策提言などをまとめるという形を採っており、その第四期生(二〇〇八年修了)に、医療基本法策定プロジェクトがあります。このプロジェクトの提言は、研究成果物として公表されています。
この提言によれば、医療基本法の骨子は以下のようなものです。
一 総則(目的・基本理念)
○ 国民・患者の生命・健康に係る尊厳の確保の権利(憲法二五条・生存権)の具現化
○ 医療の範囲及び基準の明定並びにその体系的整備の確保
○ 医療の資本形成・資源配分に係る公共性の確保
○ 医療における国民・患者本位の政策の確立とその民主的運営の確保
○ 医療の持続性及び効果の確保のための責務の確認
二 基本的施策
○ 医療の範囲及び基準並びに提供体制に係る基本的事項
○ 全国医療基本計画及び都道府県総合医療計画等の策定
○ 予防、早期発見等の健康管理体制の策定
○ 医療機関の体系的整備等
○ 医療従事者の育成と人員確保等
○ 新治療技術等に関する基礎研究体制の確保等
三 制度運営に係る基本的事項
○ 医療情報に係る利用者本位の確保
○ 政策決定過程における受益者本位制の確保と政策推進体制の構築等
○ 医療の安全・質の確保並びに医療事故紛争解決・救済の確保
○ 財源確保、コスト低減の措置等
患者の権利と医療基本法との関係については、「諸外国で立法化されている患者の権利に関する基本的理念等は、当然、医療基本法の中に規定され、それを受け、医療法、医師法等の個別法を改正し、必要に応じて特別法(医療事故原因究明・再発防止等)を制定する」とされています。
また、このHSP第二期生の伊藤雅治氏(元厚生労働省医政局長)は、この講座での研究として「患者の声をいかに医療政策決定プロセスに反映させるか」という提言を発表しており、その提言を契機として一〇の患者団体が「患者の声を医療政策に反映させるあり方協議会」を結成しています。
http://patients-voice.jp/link.html
この協議会は、本年五月に、自民、公明、民主、共産の四党の議員を招いて医療基本法に関する勉強会を開催し、各党とも、基本法制定に前向きな姿勢を示したと報告しています。
このHSP開講と同じ二〇〇四年には、医療シンクタンクの日本医療政策機構が設立されています。
http://www.healthpolicy-institute.org/ja/
この日本医療政策機構は、国民医療政策フォーラムという民間会議を運営しており、そのフォーラムは今回の総選挙に際し、各政党がマニフェストで問うべき重要課題についての提言を発表しています。その提言は、「安定財源を確保し、急性期医療に集中投資する」、「自律的な専門医制度を確立し、医療の質と安全性を向上させる」、「政策決定プロセスを透明化し、広く国民の声を反映する仕組みを制度化する」というものですが、この三つめの提言の細目には「医療の基本理念やあるべき姿、患者の権利や責務などを規定する『医療基本法』の制定について、どう考えるか?」という問題提起が含まれています。
http://www.healthpolicy-institute.org/ja/kokuminforum/important.php
これらの「医療基本法」を巡る動きは、私たちの進めてきた患者の権利法運動とは出発点が異なりますし、「医療政策による人権侵害の再発防止策」からスタートしたロードマップ委員会との議論とも異なります。しかし、憲法一三条、二五条の理念を具現化する医療政策の基本法を求める点では一致しています。この二つの動きは矛盾するものではなく、むしろ相補うものではないかと私は思っています。
一〇月三一日の患者の権利宣言二五周年記念シンポジウム~いまこそ患者の権利・医療基本法を!では、HSP第四期生「医療基本法プロジェクト」から、政策立案者の小西洋之さんに発言をお願いすることになっています。二つの医療基本法制定運動の流れが合流していく契機にしたいものです。
なお、小西さんから左記のシンポジウムの案内をいただきましたのでご紹介いたします。権利法の会員のみなさんも参加して、「患者の権利」を中心とした医療基本法を求める声を伝えていただければと思います。
今、医療基本法を考える~いのちを救うグランドデザイン~=
日時 一〇月一八日(日)一四時一五分~一六時三〇分
場所 東京女子医科大学総合外来センター五階大会議室