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講演会「新型インフルエンザ」騒動から見えた医療崩壊の実態

久保井 摂

8月22日、福岡市内で開催された患者の権利オンブズマン主催の表記の講演会に参加してきました。

講師は山口大学の医療環境学教授谷田憲俊さん、私にとってはあの辛く苦しいJ.アナス『患者の権利』翻訳の労苦を共にした方です。

谷田さんは元々感染症専門医です。ちょうど報道が「この時期の流行拡大」を大きく報じ始めた頃で、タイムリーな講演会となりました。

 


さて、国内初の新型インフルエンザ死が報じられたことは記憶に新しいところです。その後も矢継ぎ早に報道があり、この日までに3例の死亡があると言われていました。しかし、そのいずれもが、慢性腎不全や心筋梗塞既往、肺気腫、糖尿病など、もともとインフルエンザ高危険群に属し、むしろ背景にある基礎疾患事態の重篤化によって死亡しかねない方々です。本当にインフルが死因だと言えるのか、果たして、大変な事態が生じていると言える状況なのか、という問題提起からはじまりました。

かつて世の中を騒がせた「SARS」の場合、日本は公式には国内侵入を完璧にくい止めたことになっています。しかし、それは「疑われる例」を報告せず、当時不可能だった「確定」がなされたものしか報告しないという方針をとったがためのものであるという種明かし。

今回の新型インフルエンザでも、当初厚労省はSARSの時のように「水際で防ぐ」ことを掲げ、大げさな「検疫」による水際作戦を採りました。感染地域から帰国した旅客のうち、疑わしい症状のある乗客を隔離し検査する作戦。しかし、ウイルスに感染しても無発症の者が一定割合いることや、発症前の無症候の時期もあることに照らせば、この作戦自体がちぐはぐなものであること、実際、機内検査で陰性だったのに後に発症が確認された例のあることなど、「おかしな」点が次々に暴かれていきます。

そして、特効薬と言われるタミフルは果たして有効なのか、頻りに導入が叫ばれているワクチンは利用すべきなのかといった指摘がなされていきます。

連日報じられている感染予防対策としての「手洗い、うがい、マスク」についても、「うがいは全くナンセンス。喉をしめらせるという意義があるのみ」。厚労省の新型インフルエンザ対策に関する広報ホームページでも、今はうがいには言及されていません。

日本の対策も、感染者数の拡大に連れて方針変更を迫られ、当初の「感染拡大の防止」から「感染者の重症化防止」にシフトし、「ある程度のリスクは受容すべき」との常識的な方向への転換を見せたことが画期的だと、谷田さんは指摘します。さらに、「病院は危険なところ」だという報告を示したり、多くの医師がストライキに入った年に国民の死亡率が有意に低下したというイスラエルの例を紹介したり、十年余り前まで有用とされていた治療法が今は害であるとされている例をひいて、医療に幻想は禁物、正しい情報を入手した上で自己決定するようにと呼びかけます。

手洗いするし喉は湿らせておくべきだけど、大切なのは水分、栄養、休養を十分にとること、ワクチンは有効性があってもわずかだし、タミフルには異常行動などのリスクもあるので、それぞれが自己決定すること、病院は呼吸困難や意識混濁など、重大な症状が出たときにいくもので、発症時にすべきなのはひたすら眠ること、決して市販の風邪薬を服用すべきではないこと。

こういう良識的な行政の対応と各個人の行動が、無駄な医療に貴重な資源を費やすことをやめさせ、医療崩壊を防ぐことになる、そういう谷田さんの言葉に私も大きくうなずきました。

講演終了後、移動中のタクシーでの、谷田さんと別の医師の会話が印象的でした。臨床医は滅多に風邪をひかない、もしかすると日常的にウイルスに晒されて免疫ができているのかもしれないが、恐らく風邪をひかない者でなければ臨床医はつとまらないのだろう。ふむふむ、と、再度うなずき、そして臨床医のみなさんに心の中で深く頭を垂れたことでした。