権利法NEWS

患者の権利オンブズマン10周年記念集会報告

鈴木 利廣

週末に患者の権利オンブズマンの「全国委員会」(土)と、「10周年記念国際シンポ~患者の権利擁護促進のための裁判外苦情手続の現状と今後の課題」(日)、に参加してきました。

10周年シンポ報告での、オランダ(ゲバーズ報告)、米国(李報告)、英国(ニアリー報告)の現状は、日本の今後の実践にとって示唆的でした。

以下報告いたします。




ゲバーズ報告(苦情対応手続~欧州とくにオランダにおける進展)は「将来への視点。結論」として患者の苦情対応手続に関し、

・患者に対してオープン/透明であること

・患者の権利としての認識を高めること

・苦情対応の仕組みを改善すること

・有害事象についての報告と調査、安全と質の保障を追及すること

・苦情が医療の改善に用いられるようにすること

を提示した。

李報告(患者の権利:アメリカの現状からみた日本医療への提案)は、よりよい医療制度が患者の権利を促進すること、日本の近年は医療制度が悪い方向(公的医療費抑制・患者負担の増大、混合診療の解禁、保険者機能の強化)に向かっているので、患者の権利促進が困難になりうることについて、米国の経験から学ぶべきであると述べた。

ニアリー報告(子どもの権利と医療制度)は、小児患者のインフォームド・コンセントの保障をどのように考えるかについて、国連・子どもの権利条約(1989年、日本は94年に批准)を原点として問題提起された。

 


 

私は以上の問題提起が、この10年の日本における患者の権利促進のための試みを更に前進させるうえで大きな勇気になると感じました。世界でも悩みと実践があり、よりよいシステムの構築が重要であると考えていることが改めて認識できたからです。

この10年、日本では患者の権利促進について以下の経過が進行しています。

(1)医療訴訟手続は、改正民事訴訟法(1998年)もあって、2001年以降各地に医療集中部が設置され、審理手続の改善がなされ、他方で新受件数が増加するなか、審理期間を短縮し、和解率や判決における認容率が上昇。

(2)2001年に厚生省に医療安全推進室が設置され、2002年秋から院内安全体制づくりが義務化。

(3)2005年には、一方でカルテ開示(個人情報保護法)、他方で医療版事故調づくりが始まり、2008年には医療版事故調の厚労省案(いわゆる第3次試案と大綱案)が公表。

(4)2007年には、いわゆるADR法が施行され、弁護士会等における医療版ADRの実践が開始。

(5)2009年、産科医療補償制度が開始され、医療における無過失補償制度の議論が活発化。

(6)2006年から09年にかけて、患者の権利を基礎とした医療基本法制定の構想の議論が複数で開始され、そのうちの1つが「ハンセン病問題の検証会議の提言に基づく、再発防止検討委員会報告書」(09年4月)に結実した。

(7)一方で、医療者・メディアによって制度改悪による「医療荒廃」が叫ばれ、他方で市民・患者から医療のアクセスや質の改善を求める声がかつてなく高まってきた。

このような日本の現在進行形のシステム、実践、提言にとって、今回の国際シンポでの前記各報告は以下の文脈で大変示唆的であったと思います。

苦情申立をキチンと制度化して掘り起こし、調査 → 対話 → 解決 のプロセスを経て、医療の改善につなげる。

患者の権利が促進できる医療制度を再構築する(換言すれば、患者の権利促進の活動をよりよい医療制度に結実させる)。

精神医療や小児医療における患者の権利(これまでどちらかと言えば、困難と放置の歴史であった)も同時進行で促進してゆく。より困難な対象について努力することが全体を普遍化する。

私にとっては、全体を考える、久しぶりのよい機会でした。

福岡の皆さん、ありがとうございました。そして、ご苦労様でした。

次は今年10月31日名古屋での「患者の権利宣言25年」企画ですね。