権利法NEWS

患者の権利オンブズマン10周年記念集会報告

鈴木 利廣

連日新型インフルエンザの話題で持ちきりです。特に、当初の国内初の感染者が出たかどうかに関する連日の報道と、その後の国内感染を受けての警戒的な報道は、冷静さを失ったものだったと思います。感染者が増え、またそれほど重篤でないことが見えてきて、やや落ち着いては来ましたが、店頭からはマスクが消え、不気味で危うい印象は今も立ちこめています。

一連の対策と報道について、去る五月二一日、九州薬害HIV原告団と弁護団が連名で緊急アピールを発表しました。ちょうど裁判員制度始動の日だったこともあり、あまり大きく取り上げられませんでしたが、産経新聞と西日本新聞では報じられたので、目にした方もあるかと思います。

いかなる場合においても、疾病による差別は許されるべきではありません。

ここに引用して紹介します。

 

 


2009年5月21日

各位


新型インフルエンザ対策及び報道に関する緊急アピール

九州薬害HIV訴訟原告団

九州薬害HIV訴訟弁護団

4月末にメキシコでの豚インフルエンザ発生が報じられて以来、厚生労働省及び自治体はインフルエンザ対策に奔走し、マス・メディアは連日のようにこのニュースを大々的に取り上げています。5月9日には、日本における最初の感染者が確認され、18日には兵庫、大阪の2府県で計2664校の休校が決定されたと報じられています。

私たちは、このような行政やマス・メディアの対応をみるにつけ、1980年代後半のエイズ・パニックを思い起こさざるを得ません。

感染の恐怖を煽ることを感染症対策の柱とした行政と、それに無批判に乗ったマスコミの過剰報道により、感染者たちは、職場や学校から排除され、医療からさえも拒まれました。1989年にはエイズ予防法が成立し、圧倒的多数の感染者は、感染の事実を誰にも告げることができず、社会からの孤立を強いられました。この状況は、いまもなお続いています。この時期に社会を席巻したHIV感染者に対する差別・偏見は、いまもなお日本社会に根深く残っているのです。

同様のことは、ハンセン病問題にも言えるはずです。

1996年に成立した感染症予防法が、その前文で、「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。/このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている」と謳っているのは、このような過去の感染症対策に対する反省があったはずです。

ところが、今回の新型インフルエンザに対する行政、マスコミの対応には、そのような過去の感染症対策に対する反省が全く活かされていません。

感染者は、何よりもまず「治療を必要としている患者」として扱われるべきであり、「社会防衛の対象となる感染源」として扱われるべきではありません。感染源としての扱いは、感染者が医療にアクセスすることを妨げ、結果的には感染者の潜伏に繋がります。感染者の人権に配慮しない感染症対策は、感染症予防策としても拙劣です。

私たちは、行政担当者及びマス・メディアの方々に、過去の感染症対策の反省と、新型インフルエンザの感染力・毒力の正確な評価に基づいた冷静な対応を強く求めるものです。

以上