権利法NEWS

第15回ロードマップ委員会傍聴記

事務局長 小林 洋二

さる三月六日、東京の虎ノ門パストラルにて、第一五回ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会(通称「ロードマップ委員会」)が開催されました。けんりほうニュースでもたびたびお伝えしているとおり、患者の権利法制化が提言できるかどうかのヤマ場を迎えており、私も久しぶりに傍聴してきました。

 


ロードマップ委員会には、「患者被験者の権利擁護のあり方」を検討するワーキング・グループが設置されており、さらにその中で、「つくる会」世話人の内田博文委員及び鈴木利廣委員、日本医師会参与の畔柳達雄弁護士、医師資格を持つ高橋茂樹弁護士の四名の法律家から構成される作業班が、患者の権利に関する体系化作業を行ってきました。今回の会議には、その作業班の報告として、「医療の諸原則と医療体制の充実」、「患者の権利と責務」、「医療提供者の権限と責務」の三部からなるペーパーと、内田委員の起草にかかる序文案が資料として提出されました。内田委員の序文案は、作業班の報告を「医療基本法の内容として最低限これだけは規定すべきではないかと考えられるものを列挙したもの」と位置付け、「患者の権利の擁護について国民的な合意形成を早急に図り、この国民的な合意に基づいて、良質、安全かつ適切な医療を効率的に供給する体制及び医療保障制度を確保するよう努める国及び地方自治体の責務を、単に医療政策上の努力目標ではなく、法律上の具体的な義務としていく必要がある。国の政策に起因する構造的な医療被害を防止する上でも必要不可欠である。医療基本法の法制化に向けて本提言を行う所以である」と結ばれるものであり、実質的には患者の権利法制化を提言する内容となっっています。

これに対する各委員の意見は、作業班の報告を高く評価する方向のものが殆どであり、疑義を唱える意見も建設的なものであったと思います。

例えば薬害被害者である花井委員は、「患者の責務」の一項に「すべて人は、自らの健康状態を自覚し、健康の増進に努めなければならない」とあることに対し、「これでは健康を害した者は国民の義務に反して健康管理に失敗した者と位置付けられることになり、疾病は患者の自己責任であるという考え方の助長に繋がるのではないか」という極めて正当な反対意見を述べ、それに続く議論で、「患者の責務」が、患者の自己責任を強調するものと解釈されてはならない旨の註を加えることが合意されました。また、「診療情報を知らされない権利」を「患者の権利」の一つとして位置付けることについても、複数の医療関係者の委員から違和感が表明されましたが、様々な意見をもつ四名の法律家の当面の妥協点であるといった説明に、それなりに説得されたようでした。

このような議論の途中で、私のPHSに依頼者からの電話が入ったため、一旦中座して席に戻ったところ、隣で傍聴していた隈本世話人から「座長が、『提言は来年に廻す』と言い出しました。雲行きが怪しくなってきましたよ」との囁き。なるほど、僅かの間に、会議の雰囲気が嶮しいものに変化しています。多田羅座長の意図はよく分からないのですが、この作業班の報告を医療界に提案し、一年かけてその反応を見た上で提言したいというような趣旨だったようです。

しかし、このような座長の意見を支持する委員は誰もいませんでした。「日本医師会をはじめとして医療関係団体の代表はこの委員会に揃っているではないか」、「何のために作業をしてきたのか分からない」などの意見が噴出し、座長以外の委員全員が、「医療基本法制定の提言すべし」という意見に一致団結するという構図となりました。結論的には委員全員の意見に座長が折れた形で法制化の提言がなされることになりましたが、日本医師会、日本病院会、日本病院協会、日本医療法人協会等医療関係団体の役員がメンバーに揃っている委員会が、患者の権利の法制化に関する提言を行う意義は極めて大きいと思われます。

おそらく、もう少し文言の詰めなどが行われた上で、厚生労働大臣への報告書提出、記者会見という段取りになるはずです。法制化実現に向けて、この機会を最大限に活かしたいものです。