塚田真紀子著 日本評論社
いかにも衝撃的なタイトルです。著者は前にも本誌で紹介した『研修医はなぜ死んだ?』の塚田真紀子さん。前作では研修医になって三ヶ月目で「過労死」した森大仁さんの研修医としての日常業務の中身を丹念に追い、日本の医療制度の中で研修医がどれだけ過酷な労働を強いられているかを描き出すと共に、森さんのご遺族による過労死裁判について伝えました。
本書は、その続編ですが、まずは森さんの父、森大量さんの粘り強い活動を描いていきます。自ら社会保険労務士として、職場の労働環境を指導する立場にあった森さんは、息子の過労死を自分の問題としても重く受け止め、研修医が「労働者」であり、その病院における活動は「労働」であること、加重労働によって息子が死亡したのは「労災」であることを訴えて複数の裁判をたたかうと同時に、二度と犠牲者を出してはならない、という強い想いを持って、精力的に活動していきます。全国の社会労務士を結集して「研修医・医師 労働条件を改善する会」を立ち上げるという発想のユニークさもさることながら、同じ境遇の遺族や研修医、勤務医らの相談に親身に対応し、医学生や医師の前で繰り返し講演して、医療現場の中に共感してくれる人を増やしていくその姿は感動的です。
実際、彼の言葉に、想いに、多くの人が目覚めさせられ、揺り動かされて、動きが生じ、医療を外から変えていくというその目標に向かって、ゆっくりではあるものの、状況は確実に動いていきます。
しかし、森さんご自身は、息子さんの死が「労災」であることを認める最高裁判決を耳にすることなく、たたかいに燃え尽きたかのように亡くなってしまうのです。
この本は、森さんのたたかいを、ライターの立場でずっと追っていた著者が、森さんに捧げたとも言えるものです。研修医の置かれた悲惨な状況を訴え、現場に分け入っていく森さんは、日本の医療制度そのものの問題に向き合わざるを得ません。したがって、研修医の問題は当然に先輩であり研修医を指導する立場にある「勤務医」の問題へ、さらには医療が「聖域」とされ、労働現場ではないとされたことによって生じている数々の問題へと発展していくのです。
本書は三部構成になっています。第一部は森大量さんのたたかいと志半ばでの死を、第二部は森さんのたたかいが引き起こした波紋を、第三部には勤務医の加重労働として、医師不足の問題をはじめとして勤務医に加重労働を強いる医療現場の問題とそれを変えるために何が必要であり、今何が起きているかを、それぞれ描いています。
医師の加重労働は、ただちに患者の安全を脅かすものとなりうるものです。格安の値段で良質の医療提供ができているという国際的な評価を得ている日本の医療。ほんらい、医療とは最も志が高く、人への、とりわけ病み苦しむ人たちへの愛に満ちた人が取り組むべきしごとです。医療がそういうものであり続けられるようにするために、私たちは「医療」について、あるいは「医療に向けるべき財源」について、そして医師の労働現場の実際について、根本的に発想を転換すべきなのではないか。そう思いました。
久保井摂