権利法NEWS

厚労省募集の個人情報保護ガイドライン(案)に対するパブリックコメント

2005年4月から「個人情報の保護に関する法律」が全面施行されます。これに伴い、医療情報も保護すべき個人情報として扱われることになり、カルテ開示は法律上の権利となります。

ところで、医療情報は、同法6条3項の定める「保護のための格別の措置が講じられるよう必要な法制上の措置その他の措置を講じる」べき分野とされており、これをめぐって、厚生労働省は「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」を設置し、医療及び介護サービスに関する個人情報の取り扱いのためのガイドラインの案を作成しています。

このガイドラインについて、亀岬さんのレポートでも報告されているように、厚生労働省から意見募集がありました。そこで、次のとおりのコメントを11月30日に提出しましたので、ここにご報告します。

なお、これまでの経過の詳細は、厚生労働省のHPからみることができます。

 

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2004年11月30日

厚生労働省医制局医事課企画法令係 御中

患者の権利法をつくる会

医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン(案)について

私たち「患者の権利法をつくる会」は、「医療における患者の諸権利を定める法律案」を起草し、その制定に向けて立法要請活動を行うとともに、医療の諸分野における患者の諸権利を確立することを目的として、1991年10月に結成された市民団体です。結成以来一貫して医療記録開示の法制化を主張し、1999年11月には「医療記録法要綱案」を起草・発表した他、様々な機会に意見表明をしてきました。

以上のような立場から、今回のガイドライン案の記録開示の部分について若干の意見を述べます。

1 法25条に関して

法25条1項は、個人情報取扱事業者が開示義務を負う場合の例外として、本人又は第三者の生命、身体、財産、その他の権利利益を害する恐れがある場合(1号)、当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合(2号)、他の法令に違反することとなる場合(3号)を挙げており、本ガイドラインが、法25条1項各号に該当する場合として挙げる具体的事例は以下のとおりです。

(事例1)

・患者・利用者の状況等について、家族や患者・利用者の関係者が医療・介護サービス従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者・利用者自身に当該情報を提供することにより、患者・利用者と家族や患者・利用者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

(事例2)

・症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療経過等に悪影響を及ぼす場合

ところで、「診療情報の提供等に関する指針の策定について」(平成15年9月12日医政発第0912001号)は、開示の例外として、(1)診療情報の提供が第三者の利益を害するおそれがあるとき、(2)診療情報の提供が患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき、の2つを挙げ、(1)の具体例として上記(事例1)の場合を、(2)の具体例として同(事例2)を挙げています。

そもそも、開示の例外は第三者のプライバシーを侵害する場合のみに限定されるべきであり、その観点からすれば、本ガイドラインも、「診療情報の提供等に関する指針の策定について」も、開示の例外が広汎に過ぎます。

また、「診療情報の提供等に関する指針の策定について」に照らして考えた場合、本ガイドラインが示す(事例1)及び(事例2)は、法25条1項1号の「本人又は第三者の生命、身体、財産、その他の権利利益を害する恐れがある場合」の例示であり、個人情報保護法上は、これらの場合に加えてさらに法25条1項2号「当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」という開示の例外があるように解釈される危険があります。即ち、業務上の都合を口実に開示を拒否する医療機関が現れかねません。

個人情報取扱事業者が医療機関である場合において、「業務の適正な実施」は、患者に対する良質かつ適切なサービスの提供です。医療記録を求められた場合には、それを開示すること自体が「業務の適正な実施」と考えられます。したがって、個人情報取扱事業者が医療機関である場合においては、法25条1項2号が適用される余地はないと考えるべきであり、その旨、ガイドライン上も明確にしておくべきです。

2 個別立法の必要性

私たちは、個人情報保護法の制定及び本ガイドラインによって医療記録にも他の個人情報同様開示の対象となることが明確化されたことにより、私たちが主張してきた医療記録開示法制化は基本的に実現したものと考えています。

但し、その法制化には、いくつかの点において欠ける部分があります。

その一つが、個人情報保護法上の医療記録開示義務を負う「個人情報取扱事業者」の範囲から、識別される特定の個人の数の合計が過去六ヶ月以内のいずれの日においても5000を超えない医療機関が除かれている点であり、もう一つが、患者死亡後の遺族に対する医療記録開示が個人情報保護法の範疇外になっている点です。

その点、本ガイドラインが、前者について、医療機関はその規模によらず良質かつ適切なサービスを患者から期待されていること、患者の立場からはどの医療機関が「個人情報取扱事業者」に該当するか分かりにくいことから、「個人情報取扱事業者」に該当しない医療機関にもガイドラインの遵守する努力を求め、また後者について「患者・利用者が死亡した場合の遺族に対する診療情報の提供については『診療情報の提供等に関する指針』(『診療情報の提供等に関する指針の策定について』平成15年9月12日医政発第〇九一二〇〇一号)の9において定められている取扱に従って、医療・介護関係事業者は、同指針の規定により遺族に対して診療情報・介護関係の記録の提供を行うものとする」としたことは、ガイドラインとしては極めて適切であると考えます。

しかし、医療記録開示制度全般を眺めた場合、医療記録開示一般が個人情報保護法上の義務と位置づけられているのに対し、上記2点についてのみ法的位置づけが曖昧になっている感が拭えません。上記2点を明確に法律上の義務として位置づけるため、医療機関における個人情報取扱に関する個別立法が行われるべきです。