小林 洋二
10月17日、名古屋の伏見ライフプラザ内鯱城ホールで第14回総会が開催されました。
【患者の権利法要綱案第四次改訂】
要綱案本文については、以下の世話人会案どおり可決されました。
(要綱改定案)
「I 医療における基本権」の章に、以下の条文を新設する。
g 病気及び障害による差別を受けない権利
すべて人は、病気又は障害を理由として差別されない。
「II 国及び地方自治体の義務」の章に以下の条文を新設する
d 病気及び障害による差別を撤廃する義務
病気又は障害を理由とするあらゆる差別は禁止され、撤廃されねばならない。
但し、解説文については、世話人会案(けんりほうニュース156号に全文が掲載されていますのでご参照下さい)の、心神喪失者医療観察法及び医療法における人員配置基準を「憲法及び人権規約の平等規定に反する合理性のない差別であり、即時に撤廃されなければならない」と断定的に評価する部分について、「様々な評価があり得るところであり、断定的な評価は団結を阻害する危険性がある」との意見が出され、討議の結果、その部分は削除することになりました。
【患者の権利を巡る情勢について】
そのほか、採択された内容は議案書のとおりですが、患者の権利を巡る情勢の部分で、医療関連死を調査する第三者機関設立の動きについて補足的な指摘がありました。
厚労省は、手術や治療で起きた事故死などを含む不審な医療関連死の原因究明を行い、患者側と病院に報告する第三者機関を設置する方向で、まずは東京・大阪など五つの地域でモデル事業を始める方針を固めました。このモデル事業について、来年度の概算要求に一億200万円が予算が盛り込まれています。第三者機関のメンバーは、本年4月に共同声明「診療行為に関連した患者死亡の届出について~中立的専門機関の創設に向けて~」を発表した日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本法医学会の四学会を中心に、関係学会や医師会の協力を得ることが予定されているようです。
患者の遺族が第三者機関に調査を依頼し、第三者機関が必要と判断した場合には、法医学あるいは病理学の専門家が解剖を実施、それと並行して疾患に関連する学会の専門医が死亡した患者のカルテを見たり、主治医からヒアリングをしたりして死因を調査し、最終的には第三者機関内部の評価委員会が死因に関する調査報告書をまとめ、遺族と病院とに提出します。病院側に責任が認められると賠償問題が発生することも想定されますが、第三者機関は賠償問題には関わらないとされています。
とはいえ、このような第三者機関が病院側に責任を認める報告を出せば、訴訟前の示談による紛争解決が進むことになるでしょう。10月1日に発足した財団法人日本医療機能評価機構による医療事故情報収集等事業は、個別の医療関連死について専門家が調査することまでは予定されていないことに比較すれば、今回の第三者機関構想は、医療事故紛争解決、医療被害補償の方向にかなり踏み込んだものとも言えます。しかし、それだけにこの第三者機関を医療の専門家に委ねてしまうことの危険性も懸念されます。最終的に報告書をまとめる評価委員会には、市民や患者側の委員の参加も必要ではないでしょうか。
近年、高度医療機関の医療事故について、「つくる会」の会員でもある弁護士が院内の事故調査委員会に参加している例もあります。こういった事故調査の経験を踏まえ、来年度から開始されるモデル事業を監視し意見を述べていく活動が重要になると思われます。
【ドイツの医療事故調停所視察報告】
患者の権利オンブズマン等主催のヨーロッパ視察に参加した久保井摂世話人から、視察対象の一つであるドイツの医療事故調停所についての報告がなされました。内容は本号掲載の記事をご参照下さい。
なお、総会にひきつづいて、記念企画「患者の権利宣言から20年-この20年を振り返り、未来を展望する-」が開催されました。この集会については、次号に報告が掲載される予定ですのでお楽しみに。