権利法NEWS

世話人会の報告-要綱案改訂・総会・プロジェクト

事務局長 小林 洋二

6月22日、東京の弘済会館で本年度第一回の世話人会が開催されました。

権利法要綱案第四次改訂について

この案件に関する全体事務局案は、けんりほうニュース一五三号に掲載したとおりです。世話人会では、権利法要綱案における「患者」の定義、「患者の権利法」という名称の意義なども含めて、かなり突っ込んだ意見交換が行われました。私なりに要約すると、以下のような議論です。

「患者」の定義について、権利法要綱案そのものは明確にしていませんが、前文の解説で、「健康であるか病気であるかを問わず、保健医療サービスの利用者」=「患者」というWHOヨーロッパ会議の患者の権利宣言を挙げ、「わが国における患者の権利運動においても、WHO宣言における定義を共通認識とする方向で議論の集約が進んでいる」と指摘しています。

しかし、権利法要綱案の第一章の主語が「すべて人は~」となっていることからも明らかなとおり、「患者の権利法」は現に保健医療サービスを利用している人だけの権利擁護を目的としたものではありません。特に、「医療における参加権」の権利主体は、明らかに「すべての人」です。つまり「患者の権利法」が想定する権利主体は、「保健医療サービスの利用者」に限られないことになります。

こう考えた場合、この要綱案に「患者の権利法」と冠する意味はどこにあるのか。

それは「すべての人」の、保健医療サービスにおける権利、あるいは保健医療サービスに関する権利を定めたところにあるのではないでしょうか。第一章の権利主体が「すべての人」になっているのは、「すべての人」は、常に「患者」=「保健医療サービスの利用者」となり得るからであり、現に患者ではなくても、自らの問題として医療政策立案に参加する権利が保障されるべきだという考え方に基づいているはずです。

ところで、いま問題になっている「病気及び障害による差別を受けない権利」は、前号の提案でも指摘したとおり、保健医療サービスとの関わりを超えて、あらゆる場面での差別を防止するところに意味があります(保健医療サービスとの関わりだけであれば第一章(e)の「平等な医療を受ける権利」に既に謳われています)。前述のとおり、「患者の権利法」が、すべての人の保健医療サービスにおける、あるいは保健医療サービスに関する権利を定めるものと考えると、今回の「病気及び障害による差別を受けない権利」は「患者の権利法」の射程を超えているのではないか、という疑問が生じてきます。

一方で、これまで歴史的に発生してきた「病気及び障害による差別」、特にHIVやハンセン病に対する差別の歴史を考えてみると、その差別は自然発生的に起こったものというよりは、やはり、その時代の医療関係者が持っていた疾病観や、それに基づく医療政策、公衆衛生政策によって生み出され、かつ再生産されてきたものと言わざるを得ません。その意味では、HIV、ハンセンのような問題の再発を防止する観点から、保健医療サービスに関する権利を定めるところの「患者の権利法」において、「病気及び障害による差別を受けない権利」を謳う意義は大きいと考えられます。要綱案の形式的な整合性よりも、重要なことをいかにアピールするかを優先すべきであり、位置づけの難しさは解説で指摘すれば済むとも言えます。

以上が、今回の世話人会での議論の概要です。なお、「すべて人は、病気又は障害を理由として差別されない」という第一文は第一章におくにしても、「病気又は障害を理由とするあらゆる差別は禁止され、撤廃されねばならない」という第二文は、第二章の「国及び地方自治体の義務」に位置づけるべきではないかとの意見も出されました。

今回の議論を踏まえて、9月7日午後6時(場所などを含め改めてご案内します)の次回世話人会までに、解説まで含めた事務局案を作成することになっています。

なお、今年の総会で権利法要綱案が改訂された場合、年内を目処に「与えられる医療から参加する医療へ」パンフレット改訂を行うことになります。解説部分は基本的に事務局の文責ですが、現在の五訂版で「ここが気になる」という部分があれば、是非お早めにご指摘下さい。

総会等の日程について

名古屋の加藤良夫会員から、「『患者の権利宣言』から20年~この20年間を振り返り、未来を展望する~」というシンポジウムの企画が提出されました。実行委員会方式の開催を予定しているということなので、「つくる会」として実行委員会に参加することを決定しました

このシンポジウムは、「患者の権利宣言案」が発表された1984年10月14日から20年経過後の直近の日曜日である10月17日午後、名古屋で開催されます。

「つくる会」の総会は、このシンポに併せ、10月17日午前中に、名古屋で開催することにいたします。詳しい場所・時間などはおって案内しますが、会員の皆様は、是非、10月17日の日程を確保していただくようお願いいたします。

なお、毎年恒例の世話人合宿は、この夏は開催しません。全体事務局に、準備する時間と能力がないためです。申し訳ありません。

「患者の権利法をつくるプロジェクト」の件

NPO法人日本がん患者団体協議会(JCPC)理事長の山崎文昭さんが出席され、これまでのJCPCの活動や、患者の権利法に注目するに至った経緯などについて説明されました。けんりほうニュース一四九号に「癌治療薬早期認可を求める会」三浦捷一さんの「患者の権利法について-進行期癌患者の立場から」という論稿が掲載されていますが、山崎さんの説明された問題意識は概ね三浦さんの原稿の内容とほぼ同様だと思います。政党へのレクチャー、日本医師会への申し入れ等、かなり活発に活動されています。また、山崎さんからは、「みなさんの予定としては、患者の権利法はいつごろ制定される予定でしょうか」という率直な質問も出されました。

これに対して、「つくる会」のメンバーからは、この会の目的は、単に「患者の権利法」という名前の法律をつくるというだけではなくて、日本の医療に患者の権利を定着させていくことであること、これまで医療法にインフォームド・コンセントが位置づけられ、カルテ開示が制度化されるなど、権利法要綱案が提示している患者の権利の内容は徐々に実現しつつあることなどが説明されました。

これは私見ですが、患者の権利宣言案、患者の権利法のそもそもの問題意識は医療被害・薬害被害の再発防止が中心であり、世話人の多くもその問題意識を共有しています。そこに、JCPCのような「未承認薬の自己責任による服用」という要求が出てくると、考え込まざるを得ない。また、経済的負担能力に関わりなく最善の治療を受ける権利を謳い(第一章)、国及び地方公共団代の義務として、医療保障制度を充実させる義務(第二章)を規定する要綱案をもつ私たちにとって、JCPCの「癌治療の混合診療の解禁」という要求をどう扱うべきか、これもまた難しい問題です。別に山崎さんとの意見交換でこのようなことが議論されたわけではないのですが、やはり「患者の権利法」に対する双方のイメージには隔たりがあるように思います。

しかし、「患者の権利」に関する基本法が必要であるという認識は、山崎さんも私たちも一致しています。また、現にがんと闘っている患者のみなさんの理解が得られないような権利法、あるいは権利法運動では意味がありません。今後とも、積極的に意見交換を続けていく必要があると感じました。