事務局長 小林 洋二
昨年12月24日付で厚労大臣より「医療事故対策緊急アピール」が発表されました。内容は、市村世話人の投稿のとおりです。
具体策は、これまで医療安全対策会議などで議論されてきた内容がほとんどです。一つ一つの内容よりも、厚労大臣が医療事故をめぐる状況を極めて深刻に認識している点を評価すべきでしょう。
一点だけ内容について触れれば、「人に関する対策」の一つとして「刑事事件とならなかった医療過誤等にかかる医師法等上の処分の強化を図るとともに、刑事上、民事上の理由を問わず、処分を受けた医師・歯科医師に対する再教育制度について検討する」という項目があることが注目されます。
従来、医師に対する医師免許取消あるいは医業停止の行政処分は、刑事処罰が確定した場合のみに行われてきましたが、医道審議会医道分科会は平成14年12月13日「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」を発表し、「国民の医療に対する信頼確保に資するため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うものとし、具体的な運用方法やその改善方策について、今後早急に検討を加えることとする」との考え方を示しました。但し、その後に開催された昨年7月30日の医道審議会医道分科会で処分の答申がなされた医師29名、歯科医師9名は刑事事件や診療報酬不正請求によるもので、刑事事件以外の医療過誤を理由とする処分は実際にはまだ行われていません(刑事事件も、詐欺・贈収賄・麻薬取締法違反・医師法違反など、医療過誤とは無関係な部分で処分されている医師・歯科医師が大半を占めているようです)。
実際に刑事事件以外の医療過誤を処分対象にするとなれば、医療過誤をどう把握するか、「明白な注意義務違反」か否かをどう判断するかといった運用について、かなり突っ込んだ議論が必要になると思われます。「刑事事件とならなかった医療過誤等にかかる医師法等上の処分の強化を図る」との緊急アピールは、この議論を加速することになるかもしれません。
また、処分の強化だけではなく、再教育制度に触れていることも注目されます。医療過誤被害者が「加害者には二度と医療に携わってほしくない」という気持ちを持つことも十分理解できますが、医療過誤を犯した医師が、被害者の痛みを知った上で、その経験を生かして医療に携わることも、安全な医療を実現する上では重要ではないでしょうか。
けんりほうニュースでも、医師の処分に関する谷田さん、近藤さんの論稿が続いています。会員の皆様のさらなるご意見をお待ちしています。