権利法NEWS

「医療に係る事故事例情報の取扱に関する検討部会」報告書案が出ました

事務局長  小林  洋二

3月11日、「医療に係る事故事例情報の取扱に関する検討部会」第九回が開催され、報告書起草委員会から報告書案が提出されました。

基本的には、先月号で報告した新聞報道のとおりですが、以下、概略をご報告します。

この報告書は、まず

「事故の発生予防・再発防止のためには事故を教訓として役立てることが大変重要であり、このためには、医療機関、医療関係団体のみならず、患者・家族などからも幅広く事故に関する情報を収集し、それらを総合的に分析・検討した上で、その結果を事故の発生予防・再発防止に役立てるため幅広く提供する仕組みを構築すべきである」とした上、

「事故事例情報等の収集・分析は、行政や直接の関係者から独立し、国民や医療関係者からも信頼される中立的な第三者機関により実施することが最も適切である。また、法曹界も含めた有識者の意見を踏まえた適切な運営を行う仕組みとすべきである」

との提言を行っています。

また事故事例情報収集の仕組みについては、

「特に重大な事例については、例えば、事故の分析体制が確立されている特定機能病院に対して報告を義務付け、その収集の促進を図るべきである。この場合、報告を求める重大な事例の範囲や、報告を義務付ける病院の範囲は、今後、専門家等の意見を聞きながら、早急に検討すべきである」としており、一定範囲での報告義務付けを提言しています。

報告を義務付ける重大な事例の範囲に関しては、報告書案とは別に、事務局から「報告を求める事例の範囲について(例示案)」というペーパーが出されています。そこで例示されているのは、次の二つです。一つは

「明らかに間違った医療行為により患者が死亡した、もしくは患者に永続的な高度な障害が発生した場合」

ここでいう「明らかに間違った医療行為」というのは、患者取り違え、手術部位の間違い、輸血製剤の取り違えといった、かなり初歩的なものが想定されているようです。もう一つは

「手術、検査、処置(麻酔を含む)が原因となって患者が死亡した、もしくは患者に高度な障害が発生した事例で、当該行為実施前に予期できなかったもの」

この場合は、手術などが「原因として疑われる場合も含める」とされています。

この報告書案でみる限り、「つくる会」が意見書で要望した制度と、かなり近いものがイメージされているように思われます。

しかし、もちろん問題は残っています。特に、この検討部会設置の際から指摘されている、いわゆる「免責」の問題は、議論が全く進展してないように思われます。報告書案でも

「事故の発生予防・再発防止を目的とする報告によって、報告者が不利益を被ることがあっては不合理であり、事故事例情報の積極的な報告も望むことが難しい。不利益を被らないための適切な対策を講じることが必要であり、早急に具体的な方法について検討すべきである」

と、報告者に対する一定の配慮がなされているのですが、どうも日本医師会や日本薬剤師会から出席している委員の認識は、そういったレベルのものではなさそうです。

医療問題弁護団の木下正一郎弁護士の傍聴報告によれば、日本薬剤師会常務理事の井上委員は、「目的のところで、『刑事・民事については免責する』とはっきり言った方がよい」、日本医師会常務理事の星委員も、「本制度のもとでは訴追は行わないと書いた方がよい」といった意見を述べています。これに対して弁護士の川端委員が「報告すれば免責というのは変だ」とごくあたりまえの反論をしていますが、もはや報告書をまとめようかという段階においても、なお、こういった低レベルの議論がなされているあたりに、日本の医療が抱えている問題の根深さが示されているようにも思えます。

一方では読売新聞解説委員の岸委員から、「故意・重過失と思しき事故事例の報告を受けた場合、第三者機関はどう対応するのか。放置するのは社会的正義に反する」との発言もなされています。問題意識としてはこちらの方が正当ですが、報告を義務付けた上、その報告を根拠に刑事告発を行うとすれば憲法38条1項との関係が問題になってきます(この点については先月号で紹介した「つくる会」の意見書を参照して下さい)。

いずれにせよ、この問題に関する医療提供者側の認識と市民側、患者側の認識の隔たりはまだまだ大きいと言わざるを得ません。

なお、この報告書案には、次のような記述も含まれています。

「近年の訴訟件数や紛争の長期化等を考えると、裁判外での紛争解決手段の充実が求められている。しかしながら、この場合、医療事故か否かの判定、責任の割合の判断、補償の仕組み等が整備されることが前提であり、これらをどのように構築していくかにつき、具体的な検討が必要と考えられる。したがって、これらの点については、自動車事故等の他分野での動向等を参考としつつ、別途、調査研究を行い、議論を重ねていくことが求められる」

医療被害救済システムの議論に繋がる、非常に重要な指摘です。事故報告制度に続いて、この問題についての検討部会を設置させることが当面の目標となりそうです。

意見書はここにあります。