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改訂された日本医師会ガイドライン

事務局長  小林  洋二

総会議案書でも触れましたが、日本医師会のカルテ開示ガイドライン「診療情報の提供に関する指針」が本年10月22日付けで改訂されています。総会後、改訂されたガイドライン全文が届きましたので、内容をご紹介します。

最も重要な改訂の一つは、やはり「診療記録等の開示」の定義から要約書の交付を削除し、「患者など特定の者に対して、診療記録の閲覧、謄写の求めに応ずること」という世間一般に通用する定義にしたことです。従来のガイドラインでは、要約書による「記録開示」が無制限に認められていたため、患者がカルテ開示を請求しても、診断書程度の「要約書」程度でお茶を濁す医療機関が珍しくありませんでした。この改訂ガイドラインの許ではそのような取り扱いは許されないことになります。

もう一つの重要な改訂は、「遺族に対する診療情報の提供」という項目を新設し、患者の法定相続人に開示請求権を認めたところだと思われます。

従来、日本医師会は、遺族からのカルテ開示請求を認めることには強い抵抗を示しており、従来のガイドラインには何も触れられていませんでした。しかし、昨年6月には国立大学附属病院長会議「医療事故防止のための安全管理体制の確立に向けて」が、事故発生時の対応として遺族へのカルテ開示を認めるべきとの見解を発表し、その後も相次ぐ医療事故報道の中で医療事故防止の公的対策が議論されるに及び、日本医師会としても遺族のカルテ開示請求を無視するわけにはいかない状況になってしまったということでしょうか。

しかし、この指針には非常に重要な問題点が解決されないまま残されています。「指針の実施にあたって留意すべき点」の冒頭で、「裁判問題を前提とする場合は、この指針の範囲外であり指針は働かない」としているところです。

一方では、この指針は、「患者の自由な申し立てを阻害しないために、申し立て理由の記載を要求することは不適切である」と述べています。「裁判問題を前提とする開示請求なのかどうか」を患者に尋ねることは不適切なのです。

しかし実際には、「裁判問題を前提とした開示請求には応じられない」という理由で多くの患者が開示を拒まれています。いわば「裁判問題が予想される」という医療機関側の一方的な判断で、開示拒否が行われているわけです。勝手に裁判問題を予想するくらいなら、よほど後ろめたいのだろうと勘ぐりたくなるところですが、医療機関から「どうぞ勘ぐってください、よろしければ裁判してください」と開き直られればどうしようもありません。

そもそもこのような医療機関の開き直りを許すことこそ、この指針の基本理念たる「医師、患者間のより良い信頼関係」に反するものであることは明らかです。このような問題点を放置したままでは、要約書交付を記録開示から削除しようと、遺族の開示請求権を認めようと、患者のためのカルテ開示制度は実現しません。

やはりカルテ開示法制化は必要です。

さて、国会では12月に入ってバタバタと、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法案、医療観察法案などが野党の反対を押し切って可決されてしまい、患者の権利にとっては寒い冬になりました。11日の衆議院厚生労働委員会では、坂口大臣が、「カルテ開示はあくまでも自主的に」という法制化に極めて後ろ向きの発言をしています。

なかなか楽ではありませんが、来年も患者の権利の確立に向けて、頑張りましょう。

よいお年を。