事務局長 小林 洋二
11月16日、東京の弘済会館で第12回総会が開催されました。採択された内容は議案書のとおりですが、患者の権利を巡る情勢に関し、補足して指摘された点がありましたので、ご報告いたします。
平成13年11月27日最高裁判決の意義について
この最高裁判決に関し、鈴木世話人から、最高裁が初めてインフォームド・コンセントの法理を認めたものとして評価すべきであるとの指摘がありました。
これは、平成三年に、乳がんに対する乳房切除術を受けた患者が、医師には乳房温存療法について説明する義務があったとして損害賠償を求めた事件です。平成8年の大阪地裁判決は、患者の訴えを認めて250万円の慰謝料を認めましたが、翌9年の大阪高裁判決は、平成三年当時の日本では乳房温存療法の実施例は少なく、安全性が確立したとまでは得ない状況だったことを理由に、医師の説明義務を否定、患者側逆転敗訴となりました。これに対し最高裁は、乳がんに対する乳房温存療法は、問題の手術が実施された平成3年当時の医療水準としては未確立であったとしながらも、その患者が乳房温存療法について強い関心を持っており、医師もそれを知っていたことを理由に、一定の範囲で説明義務を肯定し、高裁判決を破棄差し戻したものです。
確かに平成4年の東大AVM事件判決以来、下級審レベルではインフォームド・コンセントの法理を認めた判決が相次いで、物珍しさが失せてしまいましたが、実は最高裁判決としては、この乳房温存療法事件が初めてのようです。
なお、自己決定権を認めた最高裁判決としては、平成12年のエホバの証人に対する輸血事件があります。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構法案について
この法案についても鈴木世話人から問題提起がなされました。
これはいわゆる特殊法人の改革の一つとして、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構を解散し、それに伴い独立行政法人としての医薬品医療機器総合機構を設立することをないようとする法案です。この機構の業務としては、医薬品副作用被害救済、医薬品・医療機器の審査及び安全対策、研究開発の振興等が予定されていますが、実は、独立行政法人というのは、「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」を行う目的で設置されるものです。つまりこの法案は、医薬品・医療機器の安全対策を「国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」と位置づけて、この機構に任せてしまうわけですから、HIVやヤコブ病のような薬害が発生しても国が責任を免れることになりかねません。
鈴木世話人が代表を務める薬害オンブズパースン会議など五団体は、14日に、この法案の白紙撤回を求める緊急要請書を小泉首相宛に提出したとのことです。
なお、総会後の19日、この法案は衆議院本会議で可決され、参議院での審議に入りました。
勿論、法律が通ればそれで決着がつくわけではありません。少なくとも、坂口厚労大臣は、社民党の中川智子議員の質問に答えて、薬害に対する国の責任は何ら変わらない旨答弁しています。こういった答弁を空手形に終わらせないよう、引き続き厳しく監視する活動が必要になってくるものと思われます。
さて、議案書でも強調していますが、本年度末に向けて、2つの検討会への働きかけが重要になってきました。
「医療に係る事故事例情報の取扱いに関する検討部会」は、月一回のペースで精力的な検討が重ねられているかのように見えますが、傍聴報告によれば、議論の方向性が全く定まらないままヒアリングのみ重ねられているという状況のようです。一方、「診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会」の方は、七月に第一回が開催されたまま、未だに第二回の開催日程が立っていません。しかし、どういう経過であれ、この2つの検討会が本年度末に出す意見書は、私たちの課題に大きな影響を与えるはずです。
私たちの声を反映した意見書になるよう、年度末まで、ベストを尽くしたいと思います。