世話人 久保井 摂
去る6月29日、福岡市において、九州・山口医療問題研究会主催、患者の権利法をつくる会・患者の権利オンブズマン・薬害オンブズパースンタイアップ福岡の共催で、表記のシンポジウムが開催されました。
準備期間は短く、急ぎ足に用意した催しでしたが、当日、140名ほどが会場を埋め、熱心にパネリストの発言や討議に耳を傾け、充実したシンポジウムになったと思います。
まずは、九州・山口医療問題研究会の谷川誠弁護士が、医療事故多発の現状と現存するほぼ唯一の被害回復手段である医療過誤訴訟の限界と問題点について触れた後、患者の権利法をつくる会が提案している医療被害予防・補償制度について基調報告しました。
続いて、5名のパネリストが発言しました。
最初の発言者久能恒子さんは、福岡県内で開業している医師であると共に、娘さんを医療事故で亡くされ、長年に渡り裁判を続けておられる医療被害者でもあります。被害者は「事実を知った上で現実を受け容れたい」と願って説明を求め、誠意ある謝罪の言葉を待っているのに、望めば望むほど遠くなってしまう現状について述べ、アメリカで行われているような、医療事故のデータを集積・分析し、結果を医療現場が共有するような制度の構築を強く望むと訴えました。
二人目は毎日新聞の記者、江刺正嘉さん。医療問題取材班を組み、医療事故を多角的に報じてきました。とりわけ東京女子医大事件について、首都圏では連日の特集を組み、隠蔽された事実を掘り起こした功績には大きなものがあります。この数年間に報じてきた医療事故の記事を資料に、医道審議会では医療過誤がほとんど問題とされず、事故報告制度がないために、事故のリピーターが放置される現状について、警告を発しました。
続いて吉原幸子さん。長年九大医学部附属病院の看護師として勤め、職を辞した今はNPO患者の権利オンブズマンのメンバーとして患者の自立支援活動に携わっています。吉原さんは、臨床現場での経験と、現在のオンブズマン活動の経験とを踏まえ、新たな紛争解決方法の必要性について発言しました。
鷺坂英輝さんは、風光明媚な無医地区に開業して13年になる医師(福岡県保険医協会理事)。予防接種の薬液取り違えという現実に体験したミスに学んだ体験などを踏まえて、現制度の問題点を指摘しました。
最後に、小林洋二事務局長が、患者の権利法をつくる会の活動を踏まえ、医療被害予防・補償制度構築の必要性について、改めて発言しました。
休憩をはさんでのディスカッションでは、休憩中に寄せられた質問票の中から、各発言者への質問を抽出し、これに答えるという形での討議がなされました。この中で、事故報告した場合免責特権が与えられるべきではないかという問題提起があり、フロアのアメリカのアーカンソー大学教授ロバート・レフラーさんから、アメリカでの事故報告の現状、また民事免責制度はないことなどの発言がありました。
当日のアンケート回収は50通に上り、改めて参加者の関心の高さを知りました。アンケートを見て、思いの外、医師、看護士、臨床検査技師など、医療関係者が多数参加されていたことを知り、フロアからの発言を求める時間がなかったことが惜しまれました。
アンケートからいくつかをご紹介します。
・市民社会にふさわしい医療をつくるために、私も力を使いたいと思いました。(30代男性)
・医療事故に対して、院内での「ヒヤリハット」の記入や自己反省することのみで、それ以上に、ではどうしていけばいいか等具体的に考えることをしていませんでした。今回の講演をきっかけに、では自分自身、病院スタッフチーム全体でどう行動に移していくかを考えていこうと思いました。(20代女性・看護師)
・医療社会の中に長い間いながら、医療被害に対する病院の対応など、いろいろ疑問に残ることが多くあります。現在マスコミ等で公開されている多くは、内部からの情報提供が発端になっているのではないかな、と、いつも思っています。(40代女性・臨床検査技師)
・今日は本当に教育していただきました。安全な医療を提供できるよう努力していこうと思います。医学部の学生の時にこういうお話を聞けたらよかったなあと思いました。(30代女性・医師)
・私は医療・福祉系学生サークルを主催しておりますが、根本的に教育のシステムにも問題があるように思うのです。もっと医学生が参加しやすい企画になるといいと思うのですが。(20代男性・医学生)
・医療過誤に出会ったら、患者は救済されない、医療側は反省しない、システムや技術は改善されない…、いつまでもこんな状態に改めて呆れ、闘い続けていらっしゃる方に深い敬意を感じます。これは医療界だけのことでなく、「ミスをオープンにして今後に生かす」ということができない日本と日本人の問題でもあり、根は深いですが、「つくる会」に期待します。(50代女性・プログラマー)
なお、このシンポジウムについては、九州・山口医療問題研究会で報告集を作成予定とのことです。参加できなかった方は、その報告をお待ち下さい。