事務局長 小 林 洋 二
4月20日、東京の中央大学駿河台記念館で、今期第二回の世話人会が開催されました。レジュメを15部用意していたのですが、なんと20名以上の世話人が集まるという近来稀な盛況でした。
患者の権利オンブズマン東京準備会(仮称)結成の呼びかけについて
関東地区の世話人が大勢参加されていたのは、やはりこの案件があったからですね。
池永世話人の報告によれば、福岡のNPO患者の権利オンブズマンの東京相談室は、今年1月から毎月1回公共施設を借りて面談相談を実施していますが、2月の段階で既に5月まで予約が一杯になり現在予約を制限している状況とのこと。そこで福岡のオンブズマンとは別組織のものとして東京での患者の権利オンブズマン結成に向けて、「つくる会」から各団体に準備会結成の呼びかけをしてほしいというのが要請の趣旨です。
福岡のオンブズマンも「つくる会」の呼びかけで始まったものですし、オンブズマンの全国展開も「つくる会」の方針ですから、この要請に応えることは出席していた世話人一同全く異論はありません。
具体的には、NPO患者の権利オンブズマンと「つくる会」だけではなく、現在、東京地区で医療関係の相談活動を行っているメコン・メディオ・医療問題弁護団・医療事故研究会の四団体を加えた合計六団体による連名の準備会結成の呼びかけを目指すということになりました。この事務的な作業は、池永世話人と「つくる会」東京連絡事務局である福地世話人(医療問題弁護団事務局長でもあります)が担当することになりました。
なお準備会立ち上げのための財政的援助として、「つくる会」から50万円を拠出することも決定されました。
医療事故報告の制度化に関する要請について
前号の権利法ニュースで、厚労省医療安全対策検討会議が医療安全推進総合対策の報告書案をまとめたという報道を紹介しましたが、4月17日、この報告書案が発表されました。
内容的には、前号でご紹介した (1) 医療事故防止指針を病院ごとに作成する、(2) 事故やニアミス事例を集めて原因を分析し、再発防止に活かすための「院内報告制度」を設ける、(3) 診療科を超えて組織する安全対策委員会を設置する、(4) 事故防止のため継続的に職員研修を実施するといったもののほか、(5) 都道府県に、患者の苦情や相談に迅速に対応するための「医療安全相談センター(仮称)」を設置する、(6) 厚労省が現在実施しているヒヤリ・ハット事例の収集範囲を拡大する等があります。なお、朝日新聞の報道では、このような防止策を満たしていない医療機関に対しては入院患者一人あたり一日約8000ないし1万2000円支払われている診療報酬から100円程度減額する罰則を設けて実効性を高めるという内容は、この報告書案には含まれていません。
この報告書案には、「効果的な安全対策を講じるためには全職員を対象とした事故事例やヒヤリ・ハット事例などの報告体制を構築し、その結果得られた知見を組織全体で学び続けることが重要である」といった指摘も見られ、「実際に発生した事故から防止対策を学ぶ」という視点がないわけではありません。しかしヒヤリ・ハット事例については厚労省医療安全対策ネットワーク整備事業として収集する体制をとりながら、医療事故となると院内報告制度に止める等、どう考えても不徹底です。この点について、この報告書案は「当事者の免責を行うことなく報告を求めることは、法的責任の面で当事者の一方に著しい不利益を生じさせる恐れがあり、かえって事故の隠蔽につながりかねないとする意見や、係争中の当事者間の関係にも配慮すべきとの意見もあり、今後法的な問題も含めてさらに検討することとした」と述べています。
そこで「つくる会」では、今回、医療事故報告・調査の制度化に絞って、厚労省に対する要請書を提出することにしました。
なお、この問題に関しては名古屋から参加された堤世話人から「報告すべき事案かどうか現場では判断が付かないことが多い、報告義務を課す範囲について検討が必要ではないか」、池永世話人から「事故が発生した場合にまず必要なことは本人や遺族に対する誠実な説明であり、それを抜きに報告だけを求めることは情報コントロール権の関係で問題が生じるのではないか」といった貴重な問題提起をいただきました。それぞれ重要な論点だと思われますが、厚労省が「今後法的な問題も含めてさらに検討」としている現状を考慮して、とにかく報告・調査の制度化に向けて厚労省の背中を押すという方針で、要請書を起案することになりました。
なお、この要請書は、カルテ開示制度化の要請書を提出した際のように、医療関係の市民団体連名での要請を目指して呼びかけを行うことにしています。
夏合宿及び総会について
夏合宿は8月3~4日、岐阜県犬山市で行うことになりました(次号で詳しく案内します)。テーマは、(1) 医療被害補償・再発防止システム設計上の論点整理、(2) 触法精神障害者の人権の二つです。
(1)のテーマは、今回要請書提出を予定している医療事故報告・調査制度との関係でも重要な意義があります。例えば、「当事者の免責なしに報告のみ義務づけることは事故の隠蔽に繋がる」という反対意見がありますが、もっと極端な意見としては「医療事故報告は自白の強要であり憲法違反」といったものまであります。その一方では「医療過誤を民事賠償責任だけでは済ませては再発防止に繋がらない、刑事責任の追及も行われるべきだし、医師資格停止といった行政罰も必要だ」という医療被害者の根強い意見もあります。「つくる会」としては、現在、このような様々な意見の違いがあることを前提に、とにかく医療被害補償・再発のための公的なシステムが必要であるという社会的コンセンサスを形成することを目指しているわけですが、今回の世話人合宿では、その先にある制度の具体化をイメージしながら突っ込んだ議論を行いたいと考えています。
(2)のテーマは、昨年行われた権利法要綱案第二次改訂の議論において、IV.j「不当な拘束や虐待を受けない権利」の関係で議論すべきテーマに挙げられていたのですが、議論が間に合わずにいわば積み残しになってしまった課題です。合宿ではこの問題に詳しい八尋光秀世話人を講師として、第3次改訂も睨んだ議論を開始したいと考えています。
なお11月6日の総会は東京で行うことにしました。この頃までには東京にも患者の権利オンブズマンが結成されている予定です。
医療被害救済・再発防止システムの構築に向けて
福岡での6月29日シンポジウム準備状況についての報告がなされました。内容は本号折り込みのチラシを参照してください。また小笠世話人から、広島で8~9月頃にシンポジウムを開催したいとの連絡が届いています。
次回の世話人会は、6月23日午後1時から東京で開催いたします。場所はおってご連絡いたします。