事務局長 小 林 洋 二
2月10日付西日本新聞の朝刊は「『医療事故訴訟』実情は"要加療"」との見出しで、九州大学医学部医療システム学教室の調査を報じています。
この調査は、全国11ヶ所の地方裁判所で、1989年以降に提訴され、98年までに判決が言い渡された医療事故訴訟310例について、審理期間・賠償請求額・認容状況等72項目を調査したものです。
これによれば、平均審理期間は3年で、通常の民事訴訟の約2倍であり、原告勝訴率は29.6%、印紙代と弁護士に支払う着手金を請求額から算出するとその合計額は平均297万7000円となっています。
私のように実際に医療過誤訴訟の代理人になることが多い弁護士から見ると、請求額から算定した着手金は必ずしも実情を反映したものとは言えませんし、実際には約6割を占める和解解決例を含めない審理期間の統計や、単純な原告勝訴率の統計にどれほど意味があるのかやや疑問な点もあるのですが、実際に訴訟当事者の聞き取り調査をした研究者の
「被害者が求めているのは謝罪や真相究明、再発防止であり、金銭賠償に焦点を当てて法的視点からのみ争う訴訟では真の解決はできない。訴訟以外の公的な医事紛争処理システムを生み出す時期にきている。」
というコメントには共感を覚えました。私たちの医療被害防止・補償法要綱案の発想そのものです。医療被害防止・補償システムの必要性についての社会的コンセンサスを形成することが、「つくる会」の本年度の最大のテーマですが、その条件は私たちが考えている以上に熟しているのかもしれません。
今後はこういった研究グループとも連携をとり、議論を重ねながら、医療被害防止・補償システムの実現に向かっていくことが必要だと思いました。