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Hospital Wandering in Formosa 第7回 示して欲しかったのは誠意

台湾在住 眞武  薫

旧正月の休みで1ヶ月ほど日本に帰国した。今年こそ平和な1年を過ごしたいと思いつつも、その思いはどこへやら。短い休暇の中で何と多くのことが起こったことか。その中でもどうしても納得がいかないことがある。あえて皆さんに聞いていただきたく思い、文章にすることにした。

それは「医療事故」とも言えないくらいの小さなことだったかもしれない。でも、筆者の心に刻み込まれた傷は深い。今まで信頼して診ていただいていた主治医との間に亀裂が入ってしまった。1週間も経つと少しずつ記憶も薄れていくようだが、「苦しい」思いは変わらない。

2月13日、筆者は糖尿病等の再診のために、日本のかかりつけの病院へ行った。自分のコントロールが悪いと言われればそれまでだが、ここ1ヶ月の血糖コントロールはけしていいとは言えなかった。色んな因子もあったと思うが、とにかく身体がだるい、フラフラするので、その旨を主治医に伝えた。

医師からのコメントは「入院するか?」だった。その他にも四つ程の案はあったが、その場で病棟医長に「ベッド空いてる?」と聞かれた。返事は「満床ですが、他の病棟へ一時入ることならできるでしょう」ということだった。そこまで言われると「やはり観念して入院かな」とも思ったが、仕事は20日には始まるのだ。

台湾への出国前で、色々チェックも必要で、他科も受診した。その日のうちに検査できることになり、X線とエコーの検査を受けて、何とか会計まではしたが、何とも身体がいうことを聞いてくれない。内科の外来まで戻り具合が悪いと言い、処置室で休ませてもらった。

暫くしてやって来られたのは当直の医師だった。「検査データ上は特に問題ないので帰ってください」ということだった。でも、私は動けない。休むこと自体は朝の主治医からのコメントにもあったが、ちょっと対応が違いすぎる。

起こった疑問はただ「どうして?」だけである。主治医の連絡先はいただいており、電話はできたが生憎会議中だった。5時ぐらいまでは続くらしい。

五時が近づいてきた。外来は5時15分で閉まる。普通要経過観察ならそのまま救急外来へ行くのだが、その日は何故か帰れコール。納得がいかないので、納得のいく説明を求めていた。検査値があまり問題にならないことは自分でも分かっていた。でも動けない。結局は当直医と口論になったかならないかよく分からないままに、筆者は倒れてしまった。

「娘さんが意識不明です。迎えに来てください」と母に電話が入ったそうだ。

家族が意識不明という連絡を受ければ、驚きもするだろう。今回の件では。年老いた母に迷惑をかけてしまい、本当に母には申し訳ない思いでいっぱいだ。

母が病院に着いても意識は戻らなかった。でもバイタルは正常だということで、病院側は私の精神面に問題があると考えたようだ。母が病院へ着くと、「精神病院へ入院させたいから電話をかけてくれ」となっていた。

幸運にも?「医療保護入院」させられる寸前に意識が戻った。筆者は自己の意思で入院を拒否した。その時は内科外来から救急外来へ移っていた。最初母に話しをしていた方は精神科の当直医だったようだが、母はそのことさえ知らなかったようだ。いつごろどこでどのように倒れたのかについての説明はいっさいなかったという。筆者が覚えているのは内科の医師の説明に納得がいかなかったというところまでだ。

説明を求めると当直医ともう一人医師が来られた。後で分かったのだがその方は外来医長だった。知らない医師でもなかったし、説明を求めたが、向こうはもう完全に守りの体制である。「眞武さん、僕にいったい何をしろって言うんですか。ここに僕が土下座して謝れば気が済むんですか!」。そこまで言われるとは思ってもみなかった。

帰れなかった理由は簡単である。しんどくて動けない。十分な説明を受けていないの二つだけだ。なぜ朝の主治医と意見が異なるのか。主治医が教授だと医学部では主治医の意見も聞けないのだろうか。当直医は一言も喋らない。最後に教授が来られた(どうも主治医としてではなく)。「僕は気が短いほうでね、入院するか帰宅するかどちらかにしてください。病院を紹介します」。

その主治医とは1994年からの付き合いだ。色んなことがあったが、根本的には心から尊敬し、信頼していた。その医師にその言葉だけは言われたくなかった。タクシーに乗り込むまで見届けられたのは、「もう来ないでくれ」という意味だったのだろうか。でも、とにかく悔しかった。どうしてここまで言われなければならないのだろう。私に悪いところがあるのなら言ってくれ。という気持ちだった。

1週間経って台湾に戻ると、大学は大学で大変なことが起きていた。それを通して「責任の所在はどこにあるのか」ということも改めて考えた。確かに当直医ひとりには重すぎたのかもしれない。当直医を巻き込み、外来医長を巻き込み、教授を巻き込んだのは確かだ。でも総スカンを食らってしまった私はこれからどうすればいいのだろう。かかっているのは内科だけではない。病院を換えることも考えたが、あまり現実的ではない。

患者の立場はそんなに弱いのだろうか。インフォームド・コンセントと言う言葉が使われて久しい。でも現実はこうだ。意識不明になる前、もし筆者が本当に心身喪失状態だったたなら、なぜその前に精神科コンサルトしてくれなかったのだろう。患者は医師の一挙一動を見ているのだ。誰を責めようというのではない。自分が信頼して通っている病院。こんな思いを別の患者さんにはして欲しくない。欲しかったのは相手の誠意だけだ。どうか私が信じている病院であって欲しい。