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Hospital Wandering in Formosa 第5回 台湾大学という権威

台湾在住 眞武  薫

台湾大学は日本統治時代に「台北帝国大学」として日本によってつくられた。創立当初から医学部があった訳ではないが、台湾の人々にとっては計り知れない誇りがあるようだ。

以前の同僚がよく言っていた言葉が「腐っても台(鯛)」である。それほどまでに台湾大学には権威があるのだろうか。数日前のニュースであるが、あるハーバード出身の生理学の博士が、今年四七歳にして台湾大学昆虫学科に入学したという。夫婦ともに医師で、本人もガン研究の専門家だそうだ。それなのに、台大に対する強い憧憬があったのと、もうひとつは息子のためらしい。本人は昆虫学の研究の後には、さらに法律学も学びたいという意気込みだ。勿論これは学位取得を前提としてのことだと思う。

さて、台湾大学医学部附属病院(以下台大病院)はその誇りのためか、医師がとても威張っている。台湾の友人に「台大病院ってどんなとこ?」と聞いても、たいていは「医者がとても威張っているとこ」という返事が返ってくる。以前筆者は持病の糖尿病のため、台湾の知り合いの医師に代謝科の医師を紹介してくれとお願いしたことがある。そのとき二人の医師を紹介してくださった。後で分かったのだが、そのうちの一人は台大病院の医師だった。

かかりつけの新光病院ではその医師の外来は月曜日の午後で時間が合わなかった。たまたま台大病院に行ったときに、台大の時間表にその医師の名前を発見した。しかも筆者が台大病院に行く火曜日だ。「よかった!」と思ったのも束の間、直接その医師と交渉にかかったら、ぶっきらぼうに「ここでは診られない」とのたまふではないか。確かに台大病院には特約医師といって予約番号のない医師が多い。その医師もそのうちの一人だった。でも直接交渉して断られたのはそれが初めてだった。結局は新光病院の別の医師に診てもらうことにした。台湾はインスリンといってもペン型のを使っている医療機関はそう多くはない。自分のニーズにあった病院を探すとなると、やはり大規模な病院になってしまう。

また、ある友人にはこのような話しを聞いたことがある。「台大病院近辺では薬の闇取引がされているらしいよ」と。筆者は台大病院にもかかっていて、かなり長い間診てもらっているが、このような場面にはまだ遭遇したことがない。確かに国立の病院となると、使っている薬品もいわゆる「ゾロ」ではなく、開発メーカーのを扱っている。半信半疑に思いながらも、「そんなことがあっていいの?」と不安になる筆者であった。

また、大学となると多くの患者の中で「実験台にされるのでは?」という不安もつきまとうと思う。これは以前の筆者の日本の大学病院での経験であるが、同じ病棟には、なぜか同じ薬品を投与されている患者が多数いた。主治医からの説明は「この薬は慢性疼痛によく効きますよ」ということであった。同病相憐れむで、慢性疼痛に悩む人がこんなに多いのかと訊ねてみると、全然違う疾患である。今になって考えると「自分たちはラットかマウスになっていたのかなあ」という感じだ。ただ、大学の場合その機能からしてそういうことはままあり得ると患者の側でも少なからず心得ているようである。

台湾では医療機関は基層診療所、地区医院、区域医院、医学中心(メディカル・センター)と四つのランクに分かれている。大学の附属病院だからといって、必ず医学中心になれる訳ではない。またそれぞれの機関によって自己負担額も違ってくる。国民皆保険になってからは莫大な医療費をどうするかということが大きな問題である。これは日本や他の国々でも同じことだ。台湾は来年からは個人の自己負担が現在の約2倍になるようで、患者にとってはなかなか病院に行きにくい状況を作り出すと言ってよいだろう。

12月10日人権記念日に筆者は病院へ行った。掲示板に貼り出してあった新聞の切り抜きには、立法委員陳学聖と中華民国医療人権促進会との共同発表ということで、『二〇〇一台湾病患人権報告書』なるものが発表されたとあった。内容は五つの局面から総体的に評価したものだという。残念ながら筆者はまだその報告書が如何なるものかを知らないが、目にする機会があればお知らせしたいと思う。台湾では患者の人権はどのように保護されているのだろう。

先日筆者の勤務する大学で、英語の教師を公募し、ある卒業生が履歴書を提出していた。ところが同僚たちの反応は今一つであった。「この学生はよくサボっていた」とか「ニュージーランドの大学じゃねえ...」とかかなり辛辣な批判である。そういう過去だと後でどんなに努力したところで路は開けないのだろうか。

台湾には「アメリカは金メッキ、ヨーロッパは銀メッキ、日本は銅メッキ」という言葉があるそうだ。どこに留学したかでその人の価値が判断されるということである。前述のハーバード出身の博士は金メッキをも手にしているのに、更に台湾大学で学びたいという。台大病院の医師は何メッキなのだろう。