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Hospital Wandering in Formosa 第3回 患者のモラル

台湾在住 眞武  薫

前回では医療スタッフのモラルについて述べたが、今回は患者サイドから見てみたいと思う。

台湾の病院で良いと思ったことに徹底した順番制度があると思う。たいていの病院は電話やインターネットで予約ができる。当日受付した患者さんもそんなに待たせないよう、番号はところどころ跳んでいる。だから日本の病院のように順番取りはしたものの、本当の自分の番がいつまわってくるのか良く分からないということは決してない。しかし、問題は遅れて来た場合である。病院によっては「遅れて来られた患者さんは今の番号から2番後に診察室にお入りください」と書かれている。でも何をもって2番後とするのか。やはり一度は診察室のドアを叩き、自分が何番かを看護婦さんに告げなければならない。

その時の患者側の接し方にはかなり問題があると思う。多くの患者さんはノックもせずズンズンと診察室に入ってくる。それでなくても診察室の中は他の患者さんでごった返しているのに。そして自分が何番かを告げた後、看護婦さんが「外でお待ちください」と言ったにもかかわらず、出て行かないのだ。少しでも早く見てもらおうという気持ちからそのような態度に出られるのかもしれないが、他の患者のことも考えて欲しい。

先日私は高血圧、浮腫のため循環器科を受診したが、もらった番号は159番だった。午前中の受診ではあったが、午前中で終わる筈がない。医師は部屋を換えて午後も続けて診ておられた。そこに、20番台の患者さんが来られたのだが、随分待たされると大きな声で文句を言っている。他の患者さんだって朝から待っている人もいるのだ。番号が分かってるが故時間の調節もできるが、ぴたりとその時間に来るというのはなかなか難しい。

また同伴者も問題である。日本の場合、患者一人で受診するというのが殆どであると思うが、台湾は違う。一人の患者に対して二、三人が付き添う。ひどいときには一族郎党を引き連れてという感じである。何か重大な疾患があって、医師が家族にムンテラをするというのなら話しは別だと思うが、普通の外来受診でである。

ただでさえ患者さんが多いのに、付き添いの家族のため待合室はいつもデパートの大売り出し状態。具合の悪い患者さんが座る椅子もないといった具合である。そういう患者さんに席を譲っている光景はあまり見かけたことがない。

私が行きつけの台北の新光病院というところは「一定の医療水準を保つため、同伴者は一人までにお願いします」とドアに書かれている。こういう張り紙があるということはいかに同伴者が多いかを物語っている。同伴者が多いとただでさえ患者さんは多いのに、ますます診る効率は悪くなる。長いこと待たされた経験のある人なら、あまり家族には付き添ってもらわなくていいと思わないのだろうか。

しかも、大人数で医師を取り囲んでいろいろお願いするというのも迫力がある。日本の医師だったらびびってしまうのではないか。台湾の医師はこれを日常茶飯としているのでかなり大胆だ。ただ、どこまで患者さんのことを考え、親切で分かり易い説明ができているかは疑問だが、、、。日本では患者さまとなっている今日、台湾ではまだ先生さまといった感じがする。

また、患者さんが本当に病院に来る必要があるのかといった問題もある。これは日本でもいささか似たようなことがあると思う。ある老人病院の外来待合室での一コマ。「○○さん、今日見ないね。どうしたんだろう?もしかしたら病気かも!」。

確かに心身の不調があれば病院へ行くのは当たり前だし、当然患者の権利もあると思う。でも本当に病院に行く必要があるのか。とにかく台湾の病院は患者さんが多い。人気のある医師になると午前中の外来で150人以上も診る。数年前に入院した時、主治医に訊ねたことがある。「台湾の病院ってすごく患者さんが多いけど、本当にそんなに病気の人が多いんですか」。答えはこうである。「うーん、本当に病気なのは30%ぐらいかな」。

国民皆保険になる前にはもっとひどいこともあった。労保(社会保険)、公保(公務員共済)といった保険があり、保険医療を受けられる人が限られていた。台湾に来たばかりの頃、私には労保があった。あるとき同僚とお喋りをしていると病院へ行かなければと言う。どこが悪いのかと心配して訊ねると、「別にどこも悪くないんだけど、毎月保険料とられているから病院に行かなければ勿体ないじゃない」という答えが帰って来て面食らったことがある。皆保険となって少しずつでも相互扶助の意識が高まっているといいのだが。

料金を支払って診てもらっているのだし、医療側とてサービス業。患者さまとなるのはある意味で当然だと思う。しかし問題にしたいのは対医師ではなく、他の患者さんに対してである。自分の権利ばかりを主張して、ほかの患者さんの迷惑を考えないのはどうかと思う。