事務局長 小 林 洋 二
八月四日~五日、長野県の飯綱高原ホテルアルカディアにて、世話人合宿が開催されました。
患者の権利法制化の動きに関して
これまでのニュースでもお伝えしたとおり、民主党は「医療の信頼性確保向上のための情報提供の推進、医療に係る体制の整備等に関する法律案」を策定しています。この法案は前回の国会に上程されて廃案になってしまいましたが、民主党からは「つくる会の意見を聞いて再検討した上、次期国会に再度提出する」との連絡をいただいています。
合宿初日は、鈴木世話人及び小林のレジュメに沿って、この法案をどう評価し、どのような意見で臨むべきかという議論が行われました。
この法案の基本的な問題意識は、カルテ開示を含む情報提供及び医療事故防止対策の二点です。この二つの問題を解決するために必要な事項を定めることによって「医療を受ける者の権利利益の擁護に資する」ことがこの法律の目的とされています。
本来であれば、情報提供にしても医療事故防止にしても、その根底にあるのは患者の権利の問題です。そこで「患者にはいかなる権利があるのか」を明確にし、その患者の権利を全ての医療制度・医療政策の根幹に据えるというのが、私たち「つくる会」の発想です。
その意味では、法律の目的を情報提供及び医療事故防止の問題に限定してしまうこと自体、「患者の権利法」としては不徹底な面があり、実際に権利性が曖昧になりかねない条文が多々含まれています。合宿の参加者からは、その点に関連して批判的な意見がかなり出ました。例えば医療従事者の義務として規定されていても努力義務の体裁になっている部分が多いこと、カルテ開示も非開示事由が広範でしかも非開示に対する不服申立方法が明確になっていないこと等です。特に第六条(医療を受ける者の責務)「医療を受ける者は、医療がその理解と選択に基づいて行われるべきものであることを自覚して、医療従事者に協力しつつ、それにできる限り主体的に取り組むよう努めるものとする」という部分に対しては、「医療従事者と患者が対等な立場に置かれていないという実情が軽視されている」「権利が確立していない状況で責務を規定することはできない」「患者の権利があることを前提として、それを行使するも放棄するも患者の選択であるという考え方が本筋」という厳しい指摘が相次ぎました。
その一方で、情報提供と医療事故防止が喫緊かつ重大な課題であることは確かです。この視点から制度を整備することによって、私たちが主張している患者の権利のかなり多くの部分がカバーされることにもなります。また現在の医療法一条の四で「医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」とされているところ、この民主党案の第三条(基本理念)では「医療は、医療を受ける者の人格と権利利益が尊重され、医療を受ける者と医療従事者との信頼関係の下に医療を受ける者の理解と選択に基づいて行われることを基本とする」とされており、「選択」が明記されたことは、基本理念の大きな前進であると評価する意見も出ました。
不充分なところは多々あるにしろ、現実にこのような法案が国会に上程されるところまできたことは私たちの運動の大きな前進と評価すべきでしょう。このチャンスを最大限に活用して、私たちの求める「患者の権利法」を実現に近づけていくべきだと思います。
以上のような議論を踏まえて、小林の方で民主党に対する意見書案を作成し、世話人の皆様におはかりした上、民主党との意見交換会を企画することになっています。
医療事故被害救済・再発防止制度について
鈴木世話人の方から、これまでの世話人会の議論についての報告、続いてかなり早い時期からこの問題に取り組み、「医療被害防止・救済センター」構想を打ち出している名古屋の加藤良夫会員の方からコメントを受けた後に議論に入りました。
議論の内容は非常に多岐にわたるため、全部をお伝えすることは到底無理ですが、最も大きな議論になったのは、対象となる「医療事故」の範囲です。
この「医療事故」については、参加者から様々なケースが挙げられましたが、結局のところ「医療事故」の定義が非常に難しく、強いて定義付けると救済の範囲を狭めてしまう危険があるとの意見が多数を占めたため、「医療事故」ではなく、むしろ「医療被害」という概念で対象を区切ることとなりました。
これに関連して、民主党が策定している、医療事故防止方針の作成を医療機関に義務付ける内容の医療法改正案(前述の「医療の信頼性確保向上のための情報提供の推進、医療に係る体制の整備等に関する法律案」とは別建ての案)が、「医療事故」を「医療の実施の過程において医療を受ける者を誤認すること、医薬品等の種類等を誤用することその他の診察、治療又は看護上の誤りにより、医療を受ける者の生命又は身体に被害が生じることをいう」として、「医療過誤」に限定していることが指摘され、その点の批判も、民主党に対する意見の中に盛り込むことになりました。
その他、救済機構の拠出金として、政府の補助金・医療産業及び医療機関からの拠出金の他、患者負担金を考えるべきか否かという問題、また、審査手続を最初から市民による陪審制的なものにするか、あるいは一次的には審査会の内部審査的なものにして患者側からの不服申立について陪審制を取り入れるべきかといった問題についても白熱した議論が展開されました。
世話人合宿の議論では、要綱案として文言を確定するに至りませんでしたが、以上のような議論を踏まえて鈴木世話人及び加藤会員の方で整理したものを、九月三〇日の総会に世話人会案として提起することになりました。総会でも、世話人合宿の続きのような熱のこもった議論が展開されることが予測されます。
私の個人的な感想としては、このように日本に未だ存在したことのない制度を創設しようという場合に、問題となり得る全ての事態を想定することは無理であり、とにかくおおまかな要綱を作った後に内容を豊富にしていくことを考えるべきだと思います。その意味では、あまり細かいところに拘ることは得策ではなく、一歩でも二歩でも実現に近づくような建設的な議論が有益ではないでしょうか。
最後に、素晴らしい合宿を準備して下さった世話人の近藤さんに心から感謝したいと思います。爽やかな空気の中で思いっきり議論ができました(初日は「会議室の冷房が効きすぎている」という声があったくらいですが、なんと冷房は入っていませんでした!)し、オプションの飯縄高原散策では、長野の素晴らしい自然を満喫することが出来ました。
「来年の合宿も長野にしようね」という意見もありますが、とりあえずは皆さん、九月三〇日の総会でお会いしましょう。