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『アメリカ医療の光と影』医療過誤防止からマネジドケアまで

李  啓 充 著 
医 学 書 院 
本体2,000円
ISBN4-260-13870-7

昨年10月に出版されたこの本を、ここにご紹介するのは、言うまでもありません。冒頭の記事でご案内している今年の総会記念シンポジウムの目玉として、著者である李啓充さんをお招きしているからです。

昨年のつくる会のアメリカ視察旅行の際、一番お世話になったのはこの李さんでした。マサチューセッツ総合病院への突撃訪問、病院内オンブズマンとの懇談、そしてジョージ・アナス教授とのあたたかい夕食会は、李さんなくしてはあり得なかったものです。

本来、書物を紹介するのにもっぱら後書きを引用するのは、礼を失した行為ですが、本書ではやはりあとがきに集約されているものがあると思い、一部をここに紹介させていただきます。

「誠に残念なことに、日本ではいまだに『インフォームド・コンセントとは訴訟を回避する目的で患者に同意の署名をしてもらう書式』と勘違いしている医者が多く、『インフォームド・コンセントとは患者と治療のゴールを共有し、そのゴールを達成するために患者と共同で治療プランを作成するプロセス』ということが理解されていないようである。」

李さんは、自らの母を医療事故で亡くされています。病院を訪ね怒りを持って事情を問おうとした際、主治医等が深々と頭を下げて謝罪する姿を目にした途端、怒りが嘘のように消えてしまったというエピソードで、『医療過誤事件事始メ』は締めくくられています。

この、医療被害者としての貴重な経験が、医療のあり方に対する彼の見方、医療に向かうまなざしを、さらに深いものにしたのではないでしょうか。

昨年の視察の折りには、李さんの案内でボストンのビーコンヒルを歩き、本書にも紹介されている、世界で初めて「過ちから学ぶ医療」の実践を目指してアーネスト・コドマンが設立した私立病院(エンド・リザルト病院)であった建物を見上げました。コドマンを語る李さんの声に、医療の明日をみたように思いました。

シンポジウムを契機に、日本の医療が、過ちに学び、そして患者にとって透明性を増したものとなるための一つのステップを、李さんと共に進めたいものです。