大島青松園に住まう詩人塔和子さんに『甲羅』という作品があります。「生きていることを忘れるほどの静寂に出会いたい」という一行ではじまる詩(『見えてくる』所収)。
赤ん坊のように無心に、何も思わずにいたいのに、静かなほどに心は騒ぎ、穏やかではいられない。それは「あまりにもたくさんのことを重ねすぎている」から。
静寂を強く恋いながら、静寂を取り戻したなら、重くなってしまった自分の六十六年の甲羅を、あきるほどさすってやりたいという詩。
ひとりひとりの人生が刻まれている、それぞれの「愛とけない」甲羅を、医療をする人は、正面から見なければならないと思います。どの患者も、自分と同じく、人生を背負ったひとりの人であることが、忙しい医療の中で、ときに忘れられてしまうことがあるかのようです。
私たちは、ものを「見ている」ようでいて、見ていない。あるいは、まやかしを見ているときがあります。ハンセン病医療の過ちに学び、ひとりひとりの命から、考えをはじめる姿勢を、自分の中ではぐくまなければならないのだと、そんなふうに思います。