権利法NEWS

書籍紹介 『HIV感染被害者の生存・生活・人生』

当事者参加型リサーチから

山崎喜比古  
瀬戸信一郎 編
有信堂 2,300円
ISBN4-8420-6559-1

「研究者まえがき」によれば、本書の目的はこうです。

「日本の薬害HIV感染被害者がライフ(生存・生活・人生)の各次元で直面している諸問題と、それをとらえる調査研究でわれわれがとった新しいスタイルと視点、用いた理論と方法を、記録として歴史に残し、 世紀に伝えるとともに、広く明らかにしアピールする」こと。

この研究スタイルの特徴は、「当事者参加型リサーチ」という言葉に端的に集約されています。薬害HIV訴訟を闘った原告らからのアプローチにより、本調査研究ははじまり、何よりも、当事者が生きている、生きていく、その視点から、ライフ全体を見る、その成り立ちがみごとです。

社会や家庭内、あるいは自分の中にもある差別、スティグマ、生活していくために必要なストレス対処能力と生きがい。どのテーマも、私たちに深く考えることを求めてきます。

たとえば「差別および差別不安とその影」という章におけるこんな記述。

「差別されるのではないかという不安や恐れとしてスティグマは内面化され、フェルトスティグマとなっていく。」(研究者)

「一度でも慄然とするような経験をさせられた者としては(中略)、そのときの恐怖はなかなか忘れられないものだ。それが自主規制行動の多さにつながっているのではないか。」(瀬戸)

どの章にも、調査研究結果に基づく研究者の分析と並んで、当事者である瀬戸さんのコメントがあります。
それが本書の厚みとなり、まさに当事者参加、いや当事者主体であることがより明らかになっています。

「サポートネットワークと病気開示」に寄せた瀬戸さんの次のメッセージを、HIVに限らず、医療機関は自らの課題として真摯に受け止めるべきでしょう。

「過剰防衛も過剰関与も感染者の心を開くことにはならない。『ああ、相談しに行って良かった』と思えるような応対の仕方。それは他の疾病患者・障害者についても同じである。HIV患者への応対の仕方でその組織の質が顕になる。ある意味でHIV患者への対応は試金石ではなかろうか。」

次頁以降に掲載している瀬戸さんの文章と共に是非通読してみて下さい。