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会に寄せられた本 『ぼくの「星の王子さま」へ』

勝村久司 著 メディアワークス発行
ISBN8402-1809-9-9
定価 一、四〇〇円

サンテグジュペリの寓話『星の王子さま』と、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は、どちらも人生のはじまりのころに、命の尊さと、きらり斬りつけるような痛みを教えてくれた物語でした。

勝村久司さんという少年の眸をしたひとと、そのパートナーに初めてお会いしたのは、かれらが大切な「星の王子さま」を失って間もない頃です。それから今までの間、いくどとなくお話を聞いたり、原稿を寄せていただいたり、そうした時々の彼の姿を思い起こしながら頁を繰り、この、長い闘いの物語に、いえ、10年間の家族の物語に引き込まれていきました。

初めての子どもの誕生を心待ちにしていた若い夫婦から、「星の王子さま」を奪ったのは、患者に無断で陣痛促進剤を使い、その訴えに耳を傾けようともしない「病院」という組織でした。この本は、直接には、突然医療被害者になったひとりの市民が、実際に経験した者にとってはあまりに明白な医療の過ちを、医療過誤訴訟という方法により、法的に明らかにするまでのとても困難な過程を、ていねいに描いています。
どうして?
この家族が何故こんな悲しみを負わされなければならないのか。最初の事故のみならず、これを遠因とする二男の誕生の際の出産事故、重い障害と死。良識からは信じがたい敗訴を言い渡す一審判決...。
どうして?
「この病院はどこかが狂っている・」
けれど、医療事故は、とんでもない一部の医者や、悪質な医療機関のもとだけで起こっているのではなく、私たちがやり過ごしている日常医療の中で発生し続けているのです。いくら患者が自覚的に医療に接しようとしても、古い枠組みの中で患者として扱われる限り、医療者と対等な立場で自分に対する医療を選び、避けうる事故を避けることは難しい。

陣痛促進剤という、お母さんにも赤ちゃんにも大きな負担を強いる薬物が、長い間、当の本人に何の説明もなく投与され続けてきた(恐ろしいことに今も被害は発生し続けています)ことを思うと、この枠組みを覆さなければならないのだとの思いを強くします。

勝村さんも、裁判という闘いの中で、その枠組みを変えさせる運動にとりくんでいきます。亡くなった長女の子育てに費やしたはずの時間を市民運動に使おうという発想。

そう、この本は、事故の傷みを、怒りを、持ち続けながら、常に前を向き、家族や友達と手を結び合って毎日を生きる、理科の高校教師勝村さんのポジティブな生き方が確かな柱となっている、いのちの物語でもあるのです。

どんな事故においても、そこにはまず人がいる。それぞれのかけがえのない家族と、仕事と、友達と。裁判を闘う人も、医療の枠組みを変えるために駆け回る人も、みんな確かに生きていて、毎日を笑い、泣き、語り、歩いている。
医療を提供する人も、司法に携わる人も、すべて、そこを忘れてはならないことを、改めて思いました。あらゆる人に、手に取り、読んでほしい本です。