医療事故市民オンブズマンメディオ事務局 伊東 醇
去る11月11日、「医療問題弁護団・研究会全国交流集会実行委員会」と「患者の権利法をつくる会」の共催で行われた表題の講座に参加してまいりました。
講座では、まず二つの市民団体「医療事故市民オンブズマンメディオ」の阿部康一氏と「医療消費者ネットワーク MECON」の竹下勇子氏が問題を提起し、それに対するコメントを「患者の権利オンブズマン」の池永満弁護士おこないました。その後は、鈴木利廣弁護士司会の下、会場の参加者とパネリストとの活発な質疑応答がなされました。
メディオは約400名の会員に向けて行った「弁護士に対する依頼者の満足度調査結果から」と題して阿部氏が発言。回答のあった六九通を分析したところ、相談した弁護士に対して「満足」「やや満足」が過半数を超えているものの、四人に一人が「とても不満」と回答していることや、実際に訴訟活動を依頼したクライアントの満足度は、相談時よりもはるかに下がり、四人に二人が「不満」と思っていることを訴えました。
とくに、弁護士に改善していただきたい事項として、「依頼人の話をよく聞いて欲しい、経過報告して欲しい」という弁護士―依頼者間のコミュニケーションの改善を望む声が多いという結果には、実際、メディオ事務局として被害者相談にあたっていても「弁護士から、ぜんぜん連絡がこない」というものが多いことから首肯し、自分はそれに対してもっとアドバイスできることはないだろうかと自問した次第です。
次に「依頼者と弁護士のよきパートナーシップを築くために」と題してMECONの竹下氏が自分の弁護被害体験談などを切々と語りました。
竹下氏は、「準備書面を期日当日弁護士から手渡された」ことや「弁護士を解任する手紙を送ったが、弁護士はその手紙を開封していなかった」などの耳を疑うようなことを話され、「仕事をしてくれない弁護士に当たった場合、弁護士を代えるのは勇気だけでなく、訴訟で高額の着手金を支払った場合などは金も必要」と依頼者側の苦悩を訴えました。一方で、控訴審に際して新たに依頼した弁護士については「私との打合せの前にその弁護士二名は私の事件について熱心に意見交換していて、そのことにとても感動した」と語り、「弁護士により質の差がありすぎることが問題」と苦言を呈しました。
このように、分析と実体験の両側面から被害者側が提起した問題について、池永氏は「メディオが実施した満足度調査が、医療問題を扱う弁護士に対するものであるとすると、不満がとても高いと言わざるを得ない」、「医者に対する苦情と同じ質のものが弁護士に対して寄せられる」とまとめ、弁護士会や弁護士グループで“集団として質を保証するしくみ”が必要だと答えました。また、裁判官についても「夫が妻に暴力を振るうのは当然」という驚くべき判決が書かれたこともあり、裁判官に対する人権教育も同時に必要だという見解を示しました。
最後に、会場との討議では「黙っている依頼者より、催促する依頼者を優先する傾向がある」という裏話や、「東京医弁では、相談結果に不満の場合、無料で再相談を実施している」、「依頼者に弁護士費用を項目別に紙に書いたものを提示している」、「着手金を払えない人は、月払いにしている」など、弁護士側が色々、試行錯誤されている姿も垣間見ることが出来ました。
この講座を通じて、結局、弁護士に(当然、医師にも)求められているのはCS(消費者満足)なのであろうとの思いを強くしました。電気通信業やコンビニエンスストアなど一般サービスの世界を見ても、生存競争が激しくCSを非常に意識しているし、また、消費者側も賢くなってきています。業務独占を認められていて絶対人数の不足している弁護士といえど、これからは、専門性の上にあぐらをかいていれば淘汰されていくでしょう。
また、医療被害者は、こころの被害まで抱えていることが多いので、専門業務とからんで、こころのケアまで行わなければCSには結びつかないという側面もあるでしょう。しかし、たとえば、臨床心理士やPSWと提携している弁護士等が出てくれば、法的な専門性と、こころ側の専門性を両立させることも出来るのではと考えたりします。患者側弁護士のこれからの工夫に大いに期待したいと思います。
わたしたち市民団体も、可能な限りCSを模索し、医療全体の改革と被害者支援の両立を目指していかなければならないと、自戒も含めて思いを新たにさせられました。