東京 福地 直樹
医療問題に取り組む弁護団・研究会の交流集会が11月10日・11日の両日にわたって行われます。この全国交流集会は、患者側代理人として活動する全国の弁護士が年に一度集まり、医療過誤訴訟や様々な医療問題について議論する機会です。今年で22回目になります。本来、参加対象は患者側弁護士ですが、今回は二日目(11月11日)午後のプログラムとして、「医療事故の被害救済と弁護士の役割」と題して、市民公開講座を開催することにしました(13時~15時)。この市民講座は、全国交流集会の実行委員会が主催し、患者の権利法をつくる会の共催で行われるものです。
さて、ひと昔前は患者側で医療過誤訴訟を担当するのはごく限られた範囲内の弁護士でした。しかし、現在に措いては様相は一変し、特定の専門家グループだけが担当する事件ではなくなってきています。多くの弁護士が医療被害救済のために活動することはもちろん好ましいことではあります。
しかしその一方で、医療過誤訴訟を担当する弁護士の力量が問われていることも事実です。今年の三月に判例タイムスに掲載された東京地裁の裁判官グループの報告と提言では、医療過誤訴訟をはじめとする専門訴訟の審理が長期化し被害者の救済を遅らせている原因のひとつに、患者側弁護士の問題を挙げていました。十分な争点整理をできないままに提訴し、あるいは証拠調べ手続を行っている患者側弁護士の活動が医療過誤訴訟を長期化している原因の一端である、という問題提起です。
こうした実情を受けて、医療被害の救済に取り組む弁護士の役割を再認識することが迫られているのではないか、と思われます。そして医療被害者がその救済を弁護士に依頼するとき、弁護士に対してどのようなことを期待しているのか、弁護士はその期待に十分答え切れているのか、両者の間に認識の違いはないのか、そして被害救済に向けて両者が協同していくためには何が必要なのか、弁護士に何が求められているのか、を正面から議論し、医療被害者と弁護士との関係のあり方を再度検証してみようという試みです。
問題提起をするのは、市民団体に所属するお二人です。一人は医療事故市民オンブズマン(メディオ)の阿部康一さん、もう一人は医療消費者ネットワーク(メコン)の竹下勇子さんです。阿部さんは、弁護士に被害救済を依頼した方々に対して実施された弁護士に対する満足度調査の結果を報告し、その調査結果から弁護士と医療被害者との関係について「弁護士に対する依頼者の満足度調査結果から」と題して問題提起を行います。竹下さんは、現在も原告として被害救済を求めている当事者であり、前任の弁護士との間で信頼関係を築けなかった経験をお持ちです。そのような経験をとおして「依頼者と弁護士のよきパートナーシップを求めて」と題して問題提起をしてくれる予定です。お二人の問題提起を受けて、長年患者側代理人として被害救済に取り組んでこられ、現在患者の権利オンブズマンの理事長としてご活躍されている池永満弁護士が弁護士としてのコメントを加えます。その後参加者全体で議論をする、というプログラム内容です。
被害者(依頼者)と代理人弁護士とを対立構造として捉えるのではなく、両者が協同して被害救済に向けての取り組みができないか、そのために弁護士に何が求められているのか、を探っていきたいと思います。
二時間という限られた時間内で結論を出そうという企画ではありませんし、短時間で結論を出せる問題でもないと思います。今回の討論を契機として、今後さらに活発な議論が展開され、その中から被害救済に向けての弁護士の役割を見いだしていければ、と考えています。
是非参加して下さい。