事務局長 小林 洋二
七月二二日~二三日、東京のゆうぽうとカルチャープラザで世話人合宿が開催されました
カルテ開示請求運動について
まずは小沢世話人からほぼ完成したかのような色鮮やかなリーフレットが配布され(前回の世話人会で提出されたものはまだチラシの形でした)、「やった、これでできた」という感じがしたのもつかのま、説明文の内容に議論百出。「○○の説明も入れた方がいい」という意見も出れば、「説明が多すぎるのでもっと絞るべき」という意見もあり、「ああでもない、こうでもない」とみんなで知恵を絞った結果、「合宿で出た意見を参考にしてさらに小沢世話人の方で検討し、九月一五日の世話人会までに完成させる、ということになりました。限られたスペースの中で必要不可欠な情報を伝えるというのは本当に難しいですね。小沢さん、引き続きよろしくお願いします。
さてリーフレットはなんとか完成の目処がつきましたが、問題はその活用法です。いくら苦労してリーフレットを作成しても、活用できなければ何にもなりません。まずは一万部印刷して、権利法の会員に一部ずつ無償交付、それから先は会の外への普及です。いろいろな市民運動団体、特に消費者団体をリストアップして、見本を送り、注文をとろうということになりました。
しかしなんといってもこのカルテ開示運動をマスコミに取り上げてもらう必要があります。ここで鈴木世話人から、カルテ開示全国一斉行動の提起があり、議論の結果、一〇月一六日からの一週間を「カルテ開示週間」と位置づけて、全国各地でカルテ開示一一〇番を行うことになりました。その一一〇番の宣伝活動として一〇月一四日あたりに記者レクを行い、一一〇番の前には街頭で宣伝を行うというものです。複数の世話人が出席していた東京・神奈川・福岡では実施することが確認されましたが(前号でお伝えしたとおり、神奈川では既に実施した経験があります)、勿論この三カ所だけではなく、可能な限りたくさんの地域で実施しなければインパクトがありません。全国各地の世話人、特に各地連絡事務局を担当している世話人の方に協力を呼びかけることになりました。
次回九月一五日の世話人会までに、事務局で110番のマニュアルを作成する予定です。自分の地域でも是非110番を実施したいという世話人、会員の方は是非九月一五日の世話人会にご出席下さい。
患者の権利擁護システムの構築に関して
福岡で昨年結成され、活発な活動を展開しているNPO患者の権利オンブズマン理事長の池永世話人から、オンブズマンの活動方針、活動実績について報告を受けました。
問題は、このようなオンブズマン活動をどのようにして全国に広げていくか、またそれについて権利法をつくる会がどのような役割を果たすのか、ということです。この議論には十分な時間が割けなかったのですが、今回実施することになった「カルテ開示110番」は、基本的には市民相談員による自立支援活動であり、オンブズマン活動を全国展開していく上でも、この「カルテ開示110番」を成功させることが必要であるということになりました。
患者の権利法要綱案改訂について
合宿では、患者の権利擁護システム及び医療被害の救済を求める権利について、現在の要綱案にどのような改訂を加えるべきかが議論されました。
議論が沸騰したのは、医療被害の救済を求める権利に関してです。
最初に鈴木世話人から、「最初に要綱案を作成する段階では、まず日常的な医療における権利を確立することを目指したために、医療被害者の権利の議論を敢えて省いてきた。しかしアメリカなどでは医療被害の救済という問題が日常的な問題として注目されており、日本でもそのような状況が生まれつつある。人間は過ちを犯すものであることを前提としたシステムの構築を目指さねばならない。具体的な被害救済制度自体は別途法案を作成するにしても、『医療被害救済を受ける権利』は要綱案の基本権の一つとして位置づけるべきではないか」との問題提起がありました。
鈴木案は、要綱案の基本権の一つとして「すべて人は、医療提供の現場において医療被害を受けたときは、その救済を求めることができる」という条項を設け、その「救済」の内容には、単に補償・賠償だけでなく、原因究明と責任の明確化・医療記録の開示と報告及び説明・救済医療・再発防止へのフィードバックを含むことを解説で明らかにするというものです。
これに対して、藤井世話人は、現在の日本の医療の中で医療従事者がおかれている立場について述べ、知識も経験もないまま仕事をさせられ、疲れ切った中で医療事故が発生しているという問題を指摘しました。また緒方世話人は、「人間は過ちを犯すものであると言っても、現実問題として『うちの病院は医療過誤が発生することを前提に患者の権利を考えている』ということはなかなか言いにくい。現在の日本の患者と医療との関係においては衝撃的に過ぎる」という意見を述べました。
こういった意見を受けた池永世話人は、患者の権利運動は患者だけではなく医療従事者の共感を得られるものでなければ前進しないという問題を指摘し、基本権に謳うべきは「安全な医療を受ける権利」であり、国・地方公共団体の責務の章に「安全な医療を追求するための整備をする義務」を掲げ、患者の権利各則の章に「医療被害救済を受ける権利」を掲げる、という対案を示しました。
この後、出席者の多くから鈴木案あるいは池永案に対する意見が述べられましたが、コンセンサスができるには至りませんでした。要綱案とは別建ての「医療被害救済制度」法案とともに、引き続き鈴木世話人の方で検討することになっています。
報告者の漠然とした感想ですが、鈴木世話人の主張する、人間は過ちを犯すものであることを前提としたシステムを構築していくという発想は非常に重要だと思います。前号のニュースでお伝えしたように「医療事故防止のための安全管理体制の確立について」(国立大学医学部付属病院長会議)も、単に医療事故をどう防止するかではなく、医療事故が起こった際にどう対処するかということを含んでいますが、医療従事者側にも発想の転換が起こりつつあることを示しているのではないでしょうか。その意味では、「医療被害の救済を求める権利」を基本権に掲げるべきだという鈴木案に魅力を感じます。
しかし私としては「医療被害の救済」という言葉の意味内容として、「再発防止へのフィードバック」まで含むのはどうしても無理があるように感じます。多くの医療被害者の願いに再発防止が含まれていることは確かだと思いますし、要綱案としては、その願いが達成できるような制度を目指すべきことになんら異論はないのですが、それは「救済」という言葉で表現できるものではないような気がします。「医療被害を再発防止へフィードバックすべきである」という考え方を要綱案のどこに位置づけるべきかについてはもう少し議論の余地があるのではないでしょうか。
鈴木世話人の問題提起は非常に重要な問題を含んでおり、会員全体で議論する必要を感じます。私の報告でその問題提起の趣旨や、それを巡る合宿の議論を十分にお伝えできる自信は全くありませんので、近いうちに、「けんりほうニュース」の中で、鈴木世話人に自説を展開していただけたらと思っています。