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「医療記録の開示をすすめる医師の会」の現状報告とお願い

奈良  藤崎 和彦
医療記録の開示をすすめる医師の会暫定世話人・奈良県立医科大学衛生学教室

月28日に「医療記録の開示をすすめる医師の会」の臨時総会がありました。

昨年の総会以降、医師の会の社会的役割について会のあり方の根幹を問うような議論があり、医師の会の今後のあり方を会の解散も含めて議論するという非常に重要な位置づけの総会でした。
今回の臨時総会が呼びかけられることに至った背景には、大まかにいって以下のような諸事情がありました。

  1. 昨年、多くの市民団体の強い要望があったにもかかわらず、日本医師会の強硬な反対により、医療記録開示の法制化が見送られる事態に至った一方、日本医師会は独自のガイドラインのもとに本年一月より診療録開示をスタートさせるといった急激な情勢の変動があったこと。
  2. そのような情勢にもかかわらず、医師の会の「医療記録開示制度の確立」にむけた社会的取り組みは、自らの申し合わせに記載されているような役割を十分に果たせていないのではないかという批判の声が会の内外よりあがってきたこと。
  3. とりわけ、記録開示の法制化に対して明確な態度表明を示し得ていない会の現状に対する疑問や批判の声が強く寄せられてきたこと。
  4. こういった現状にもかかわらず、会を支える事務局体制が弱体なうえに、事務局スタッフの移動等に伴い、今後の活動継続が危惧される事態が生じていること。などでした。

こういった状況を受けて、医師の会としては、1月16日に拡大世話人会を開催して今後の会のあり方について検討しました。

拡大世話人会ではこれまでの会の社会的な役割について積極的に評価する意見も述べられたものの、一方で通信会員やオブザーバー参加の市民の側からは「法制化を明確に掲げない現在の会のありようは、会の発足当初ならいざ知らず、法制化が現実の問題となっている状況では、社会的に法制化を求める運動の足を引っ張ることにもなりかねない」と強く指摘する意見も出されました。また、会の申し合わせ事項にある「医療記録開示制度の確立を求める」ということについても、会の発足当初はイコール「法制化賛成」というコンセンサスは出来てなかったとしても、情勢の急変した現状においては、この申し合わせのもとに明確に「法制化賛成」を示すべきか、あるいはそれが出来ないのなら申し合わせを変更して経験交流団体として再出発すべきではないかという意見も出されました。

最終的には今後の医師の会の方向性として、

A:法制化を明確に掲げたうえで、医師の会として従来の経験交流や研究活動とともに、社会的活動にも明確に取り組んで行くべきではないか。

B:法制化を明確に掲げられないのなら、申し合わせの中から制度確立を求めるということを取り下げたうえで、経験交流研究団体として再出発するべきではないか。

C:法制化を明確に掲げられないならば、そういった状態で今後も活動を続けることは、法制化を求める社会的な流れの足を引っ張ることになりかねないので、これまでの活動で会としての社会的使命は果たせたということで、この際、会を解散するべきではないか。

の三つの方向を軸に全会員で議論を深めて、早い時期に臨時総会を開いて会の方向性を決定すべきだろうという結論になったのです。

このような論議を受けて医師の会世話人会では、今後の会のあり方について会の内外より意見を集約してニュースレター誌上に掲載したり、ホームページ上にアップしたりして総会での議論の下敷きにしたうえで、今回の臨時総会を迎えたのです。

5月28日の臨時総会は、20名の会員の参加と、32通の委任状のもとに開かれました。当日の議論は、主に(1)これまでの医師の会の活動をどう評価するか、(2)「法制化」をどのようにとらえ、どう論議していくか、・今後の医師の会のあり方について、の三つの論点に別れました。

  1. これまでの医師の会の活動をどう評価するか、という点については、一月の拡大世話人会での議論と同様に、前向きに評価する声と、法制化を明確に示せない会の現状を批判的にとらえる声がそれぞれ存在し、依然大きな隔たりが存在していることが示されました。
  2. 「法制化」をめぐっては、医師の会の中で法制化の具体的な中身を十分議論できていない現状で、それぞれの会員が持つばらばらなイメージで議論を重ねてみても実りが少なく、医師が無理なく開示ができるシステム作りを前提とした法制化の中身をつめる作業が不可欠であること、一方で、日常診療での感覚では法制化のニードは会員である医師にとっても切迫したものに感じられていないかもしれないが、医療被害者などの弱者救済のためには法制化が必要不可欠であるという視点をもって法制化の議論をぜひ進めてほしい等という意見が議論されました。
  3. 今後の医師の会のあり方については、医師の会は法制化の運動の先頭に立つべきであり、それに結集できない会員は排除するべきだという意見から、日本医師会の今の現状からしても医師の会が法制化を掲げて存在していること自体に社会的意味があるので、さまざまな会員の意見を法制化にまとめながら会として存続させ、現実に開示を進めている医師の立場から法制化をする上で必要となる具体的提言を積み重ねていくべきだという意見、今の医師の意識の現状からではとても法制化ということでは多くの医師の結集を得ることは難しいので、この際、申し合わせから「制度確立を求める」ということを抜いたうえで、経験交流研究団体として再出発すべきだという意見、この間の開示をめぐる社会情勢の変化からいっても、もう十分医師の会としては社会的役割を果たしたので、この際解散してもいいのではないかという意見まで、今回の最終的な議案を反映してそれぞれの立場から議論が展開されました。

残念ながら、最後まで全体の意見が収束するということには至らなかったのですが、最終的に全体の採決により、A案、つまり、法制化を掲げて会を存続させるという意見が過半数を占め、藤崎を含めた3人の会員を暫定世話人として選出して、今後の具体的な会の活動方針案を検討する作業に入ることが決められました。

その後、臨時総会での議論を受けて暫定世話人会で今後の会のあり方を議論し、会として医療記録開示の法制化を掲げて活動していくこと、そして法制化を実現化していくための現実的な内容、体制、問題点についての検討を今後進めていくこと、一方で会の運営をめぐる実務的な環境はますます非常に厳しいこと等が話し合われました。

特に、会の実務運営については、この間の会の運営方針をめぐる議論の過程で、世話人を担当していた医師も含めて少なくない会員から退会の申し出が出ていること(けして法制化に反対しての退会ではなく、議論の過程で疲れ果てたという趣旨の申し出ですが)、そのため財政的にも人的にも当面はかなり活動を縮小しての会の存続としかなり得ない非常に厳しい現状であることが議論されました。

以上、長々と書いてきましたが、医師の会としては大変厳しいこれまでの一年間でしたし、今後の活動も非常に厳しい状況での再出発になりました。しかし、この一年間の議論は会の成長のために必要な脱皮のための苦しみであったと前向きにとらえたいと思いますし、今後は医療記録開示の法制化を掲げたうえでの会の活動を一歩進めたレベルで展開していきたいと思っています。少なからぬ皆さんには医師の会のありようについて大変ご心配をおかけしましたが、ここに現状を報告させていただきたいと思います。どうか、困難の中で再出発する医師の会に対して今後も暖かいまなざしや励ましをおかけいただくようお願いしたいと思います。

最後に大変重要なお願いですが、ご存知のように日本医師会は独自のガイドラインのもとに本年1月1日より診療録開示制度をスタートさせています。

このことをめぐって当初は医師会側(特に上層部)も、かなりの厳しさも覚悟して緊張したうえでの取り組みだったように思いますが、ここにきて想像以上に開示申請が少ないこともあって、「なんだ心配することはなさそうだ。このまま法制化を回避しても世論からの追求はたいしたことないだろう」という雰囲気が広がってきているように思います。法制化をめぐる議論のなかでは、医師会がそんなに法制化に反対するなら、一度医師会のガイドラインに基づいて開示制度をスタートさせてみて、その出来を見て法制化の議論をもう一度見直しましょうということであったと思います。まあ「お手並拝見」という感じだったのですが、ここにきて日本医師会側は現状での逃げ切りに自信を深めつつあるように思われます。

こういった現状を打破するためにも、多くの皆さんがガイドラインに基づいて開示請求を行ったうえでの問題点追求を展開していただく必要があるように思います。

いまやサイコロをふる順番は国民の側に回ってきているのです。権利法をつくる会でも積極的な運動の展開をお願いしたいと思います。