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遺族へのカルテ開示更に前進

事務局長  小林 洋二

医療事故防止のための安全管理体制の確立について」

前号で、国立大学医学部附属病院長会議の「医療事故防止方策の策定に関する作業部会」中間報告についてお伝えしましたが、その後、この中間報告を正式な文書として入手しました。

カルテ開示との関係で重要なのは、「8 事故発生時の対応」の部分です。ここにまず「(1)患者や家族・遺族への対応」という項目があり、その「3 心情に対する適切な配慮」で、「患者・家族などは、隠し立てのない事実の説明と率直な謝罪、事故の再発防止への真摯な取り組みを求めており、こうした思いに誠実に対応することは極めて重要である。求めがあれば、診療録等も開示すべきであると考える。」と述べられています。この文章が、「患者や家族・遺族への対応」という項目に含まれていることからすれば、遺族へのカルテ開示も射程に入れていることは明らかです。

但し、医療事故の場合でなければ遺族へのカルテ開示が行われないとすれば、それは極めて不十分なものになります。現実的に想定されるのは、遺族が医療過誤を疑い、医療機関がそれを否定する場合なのですから、医療機関側が医療過誤を認めた場合のみカルテ開示を行うということであれば、カルテ開示を拒否される遺族が相次ぐことになるでしょう。

その点を考慮したのか、同じ部分に「医療行為の過誤の存在について、病院と、患者・家族等とで見解が相違している場合であっても、過度に防御的な態度は厳に慎むべきであり、相手の心情を思いやる節度ある対応が望まれる」と述べられています。

カルテ開示について明確には述べていませんが、この考え方を敷衍すれば、遺族が医療過誤を疑って確認したいと望む場合にはカルテを開示すべきであるという結論になることは当然でしょう。さらに言えば、医療過誤を疑わない遺族には開示しないという理由もとりたてて見あたりませんし、最終的には遺族もカルテ開示の請求権者に含めるという方向になっていくのが自然です。

昨年まで行われたカルテ開示法制化の議論の中では、遺族は蚊帳の外におかれた感がありましたが、今後のカルテ開示の議論の中では、この中間報告で示された考え方を無視することはできなくなるでしょう。

 

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「国立病院等における診療情報の提供に関する指針について」

と、思っていたら、6月27日、遺族へのカルテ開示を明確に認めたガイドラインが発表されました。それも厚生省のお膝元である国立病院のガイドラインです。

これまで既に日本医師会と国立大学医学部附属病院院長会議がガイドラインを発表していますが、国立病院に関しては何もガイドラインがありませんでした。因みに国立大学医学部附属病院も広い意味では国立病院にあたりますが、大学を管轄しているのは文部省であり、医学部附属病院も文部省管轄の病院になるのに対し、普通に国立病院と言われているのは厚生省医務局国立病院課が直接に管轄している病院です。カルテ開示が実践される範囲がまた広がりました。

このガイドラインの特色は「9 患者が死亡した場合の特例」という項目があることです。そこには以下のように述べられています。

「診療録の開示は、原則として患者本人に対して行うべきものであるが、患者が入院中に急死した場合など、患者本人が意思表示できなかった場合で、遺族からの請求があり、遺族との信頼関係確保の観点から、主治医が必要と認める場合には、施設長は、診療記録開示委員会に諮り、診療記録等の開示の対象者、開示の範囲及び内容、開示方法等を審議した上、診療記録等の開示を行うことができる。」

この場合の開示請求は、患者の死亡日の翌日から起算して60日以内に限って可能とされています。

期間を限っている点や、「主治医が必要と認める場合」という形で主治医の裁量の余地を残しているように読める点など、問題点はいろいろあります。しかし医療行政を司る厚生省そのものが開設している国立病院で、遺族へのカルテ開示の途が開かれた意味は大きいと思います。

以上、二つの報告に関し、「遺族へのカルテ開示」の問題に絞ってお伝えしました。しかしこの問題はこれらの報告の意義のほんの一部に過ぎません。それぞれ全体を評価し、批判していく必要があります。特に「医療事故防止のための安全管理体制の確立について」は、本筋の医療事故防止の観点から、なかなかに興味深い報告になってます。これらの文書をご希望の方は全体事務局までご連絡下さい。