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医療事故の時こそカルテ開示

事務局長  小林 洋二

月16日付読売新聞によると、国立大学医学部附属病院長会議の「医療事故防止方策の策定に関する作業部会」が、医療事故防止のための改善案の中間報告案をまとめました。

この中間報告案には全国の国立大学医学部附属病院に、病院長を責任者とする事故防止委員会を設置し、各診療科や病棟毎にリスクマネージャーを配置すること、医学部の教育においても「安全な医療の提供が責務」との認識をもたせるカリキュラムを組み込むことなどが提言されています。

注目されるのは、医療事故が発生した場合の対応として、事故原因の調査を徹底的に行う必要を強調しているほか、患者や家族の求めがあれば、カルテを示して状況を説明し、社会に対しても迅速に事実を公表すべきであるとしている点です。

国立大学付属病院長会議は、昨年二月にカルテ開示のガイドラインを発表しており、患者の求めに応じてカルテを開示すべきことを原則としています。その意味では、今回の改善案にある、医療事故の時にカルテを開示するというのは、言わずもがなのことかもしれません。しかし日本医師会のガイドラインが、カルテ開示を原則としつつも、その目的を「医師・患者間の信頼関係の醸成」に限定し、「訴訟準備目的のカルテ開示請求はこのガイドラインの範疇外」という態度をとっていることを考えれば、この国立大学付属病院長会議の中間報告案の意義は非常に大きいと言えます。

現在の段階ではまだ中間報告案そのものを入手できていませんが、読売新聞の報道を見る限り、この中間報告案の意義として次の二点が指摘できると思います。

まず第一に、ここではカルテ開示の意義が、個別の医師・患者間における信頼関係の醸成だけではなく、医療の透明性を高めることによって、医療全体に対する社会的信頼を担保するものと位置づけられているということです。

第二に、この改善案は遺族からのカルテ開示請求に途を開くものです。重大な事故の場合、患者が死亡してしまうことは当然想定されますから、論理的にそうなるはずです。

昨年二月の、国立大学付属病院長会議のカルテ開示ガイドラインは、遺族のカルテ開示請求に関し次のように述べていました。

「患者の遺族に対する診療情報の提供は、開かれた医療を推進していくために重要であるとの認識を持っている。しかし、本ガイドラインによる診療情報の提供は、患者と医療提供者間での診療情報の共有と患者の医療への積極的参加による医療の質の向上を目的としているのでここでは扱わないこととする。今後、遺族に対する診療情報提供に関しては、何らかの方策を講じていくべきであろう。」

この認識が、今回のカルテ開示の問題に繋がっていったのではないでしょうか。早く中間報告案を読んでみたいものです。

もちろんこれはまだ中間報告案に過ぎませんし、改善案として最終的にまとまったとしても、カルテ開示のガイドラインを実践する大学病院もまだ少数であるような現状で、このような改善案がどこまで実践されるかは余談を許しません。しかしこのような考え方を積極的に評価し、私たちのカルテ開示法制化運動の武器として活用していくことが大切だと思います。

なおこの改善案を一面で報じた読売新聞の見識には敬意を表したいのですが、見出しが「事故時、カルテ公表」となっているのはいただけません。おそらく見出しをつけた整理部としては、患者・家族に対するカルテ開示と、社会に対する事実の公表を一つの見出しで表現したつもりかもしれませんが、とんでもないプライバシー侵害が起こるのではないかという危惧を抱かせかねません。マスコミはプライバシーの問題に関して、もっともっと敏感になってほしいと思います。