権利法NEWS

「医療記録の開示をすすめる医師の会」への要請について

神戸市 香川 直子

んりほうニュース104号で、3月25日の世話人会において「医療記録の開示をすすめる医師の会」(以下、医師の会)にたいし、存在意義を積極的に評価し、活動を継続するよう要請することが確認されたことを知った。どのような経緯でこの問題が世話人会の議題に上げられ、どのような報告と議論の後にこの要請が決議されたものなのか、いささかの疑問を抱かずにはおれない。

医師の会は、けんりほうニュースの報告にあるように今大きな岐路に立たされている。会発足以来、事務局をサポートするためにニュース(会報)の作成を担当してきた者として、若干の補足説明と権利法を作る会への要望を述べさせて頂きたいと思う。

「医師の会」が設立されたとき、その会則(申し合わせ事項)にある目的の「患者の知る権利を尊重し、インフォームド・コンセントに基づく医療を前進させる。そのために医療記録の開示をめざす医師のネットワークを拡大する。又、国および地方自治体に対し、医療記録開示制度の確立を求めるとともに、必要な研究および提案等の諸活動を行なう」という文章に、大きな感動を憶えた市民は少なくなかったことと思う。それは、医師・医療職以外の多くの市民が通信会員として会費を納めていることからも明らかであろう。

しかし、会の内部では、設立時のシンポジウムから既に、カルテ開示にたいする慎重論や条件論、「明るい開示推進論」が出るなど、会則の実行には危惧を抱かせる雰囲気があった。

それから4年の間に、情報開示にたいする社会情勢は大きく変化し、厚生省検討会をきっかけにカルテ開示法制化が現実問題として積極的に議論されることになったのは周知のとおりである。

しかし、こうした市民の大きな要請にたいしても、会の一部の世話人は「法制化絶対反対」をとなえてはばからなかった。「情報は積極的に開示しているのだから法制化などは必要ない」という意見が少なくないことを知った。医師の会の少なからぬ医師が、「医療記録の開示」を医師の側からのサービスとしての“恩恵的な”情報提供と捉えているのが実状であった。しかし、それでは医療過誤の被害者など、もっとも開示を必要としている人への開示を実現することはできないのだ。「医師の側からの恩恵的な情報提供」という概念は、患者の権利の確立には何の貢献もしない。この問題については、けんりほうニュース104号の池永さんの「カルテ開示の幕開けに際し医師の会に期待する」に詳しく書かれているのでこれ以上は触れない。

こうした状況に疑問と危機感を抱いた世話人の訴えにより、「カルテ開示法制化」の問題がようやく正面から議論されることになった。カルテ開示の法制化は、医師会の反対により先送りになったが、それが避けられない現実であることは誰の目にも明らかである。医師の会は、今こそ情報の独占という既得権にしがみつくことなく、患者の権利にたいする認識を深め、医療の質の向上のために勇気のある賢明な決断をしなければならない。「医療記録の開示をすすめる医師の会」と銘打たれたこの会が、医師会でさえカルテ開示に取り組まざるを得なくなったこの時代に、尚、患者の権利の問題に正面から向き合うことをせず、「情報提供の方法論」にのみ固執することにどれだけの意味があるのだろうか。患者の思いを置き去りにして、どのような実りある方法論や実践論が検討され得るのか。そして、患者や被害者の“患者の権利法制定”への切実な願いとは無縁の“情報提供”にだけ価値を認める会に、権利法の会が継続を要請することの意味がわからない。

「医師の会の存在意義を積極的に評価する」ことができるとするなら、それは医師の会が「患者の権利を尊重し、カルテ開示の要求に応えていく」という設立時のコンセンサスに立ち戻り、法制化に正面から向き合うことを決意した時ではないだろうか。

以上