権利法NEWS

世話人会報告

事務局長  小林  洋二

3月25日、東京の八重洲クラブにて、今期最初の世話人会が開催されました。

権利法要綱案改訂の件

「患者の権利法要綱案」は九五年に改訂されていますが、昨年の総会で「患者の権利」概念の定義、及び「患者の権利擁護システム」などの点で新たな改訂が必要ではないかという意見が出され、今年度、新たな改訂作業に着手することになっています。

まず「患者」概念の定義の点が議論になり、この点についてはWHO「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」の中の「患者」=「健康であるか病気であるかを問わず、保健医療サービスの利用者」という定義を援用する形でいいのではないかとの意見が出されました。

次に「患者の権利擁護システム」の件については、昨年スタートした「患者の権利オンブズマン」などの経験も踏まえ、現在の要綱案が提起しているシステムをさらに整理した形で改定案を作成することになりました。またこの関係では「医療過誤被害の救済を受ける権利」を条文上明確にするかどうかというもう一つの論点があります。この点に関しては、要綱案としては、患者の「安全な医療を受ける権利」、医療機関及び医療従事者の「医療事故を防止する義務」を明確にする方向を考えるべきではないか(個別の医療被害救済システムは、要綱案とは別建てで提案すべき)という意見もありましたが、この改訂作業の中でも引き続き検討していくことになりました。

そのほか、新たに出された改訂の論点としては、次のようなものがあります。

○ 要綱案では「検証権」という見出しで「セカンド・オピニオンを得る権利」が規定されているが、セカンド・オピニオンという言葉自体定着してきた観もあるので、そのまま「セカンド・オピニオン」という言葉を使用した方がむしろ明確ではないか。同じように「インフォームド・コンセント」という言葉もそのまま条文上使用すべきではないか。

○ 「不当な拘束を受けない権利」は、廃止された「らい予防法」や、新感染症法の問題点を踏まえて、内容を充実させるべきではないか。

それぞれの論点について、次回世話人会に担当者が改定案の叩き台を持ち寄ることになっています。会員のみなさまも、「このあたりは改訂の必要があるのではないか」というご意見を事務局宛お寄せください。

夏合宿の持ち方について

今年の夏合宿は、次の三つのテーマで行うことになりました。

○ カルテ開示請求運動の全国展開に向けて

カルテ開示法制化は先送りになったものの、既に日本医師会ガイドラインは実践に移され、国立大学付属病院の開示ガイドラインに沿ってカルテ開示を始めた病院もあります。また独自のカルテ開示ガイドラインを作成している医療機関も出てきています。しかしこれらのガイドラインは必ずしも患者側に周知されているわけではありません。そこで「権利法をつくる会」として、これらのガイドライン、特に日本医師会のガイドラインを市民に周知し、患者が自らカルテ開示を請求する運動を展開していこうという方針が出されています。二~三年後に再びカルテ開示法制化の気運を作るためにも、是非この運動を盛り上げる必要があります。

そのための一つの方法として、日本医師会ガイドラインなどの内容を紹介し、カルテ開示請求の意義を説明した簡単なリーフレットを作成し、普及していくことが、今回の世話人会で確認されました。合宿では、このリーフレットの活用なども含め、カルテ開示請求運動の全国展開の作戦を練ります。

○ 患者の権利擁護システムの構築に向けて

NPO「患者の権利オンブズマン」のこの一年間の活動を報告してもらった上で、日本において患者の権利擁護システムを構築していくために、今後どのような運動が必要であるかについて討議します。もちろん「患者の権利オンブズマン」以外にも、各地で患者側の苦情相談に当たっている会員の方々がおられます。是非、各地での経験を持ち寄っていただきたいと思います。

○ 「患者の権利法要綱案」改訂

はじめの部分に書いたとおり、改訂の論点はいろいろありますが、合宿では、「患者の権利擁護システム」部分の改訂について中心的に議論したいと思います。

「医療記録の開示を進める医師の会」の件について

現在の「医師の会」の状況について、当会及び「医師の会」の世話人である藤崎氏から報告を受け、討議しました。

報告によれば、「医師の会」がカルテ開示法制化に対して積極的な姿勢をとっていないことに対して、会の内外から批判が強まり、「医師の会」では、解散も含めて議論されているとのことです。

そもそも「医師の会」の構成員の一致点は「患者が請求すればカルテを開示する」というところにあり、法制化に関しては、消極的な意見の方も含めて活動してきました。従来カルテ開示自体に否定的であった日本医師会が、「法制化にはあくまでも反対だがガイドラインに沿って自主的なカルテ開示を行う」というスタンスに転換した現状において、「医師の会」存在意義に疑問が提起されることは理解できます。しかし日本医師会のガイドラインは、法制化を回避するためのいわば苦肉の策であり、決してカルテ開示の意義を評価し、積極的に推進しようというものではありません。その意味では、カルテ開示を積極的に行い、その意義を社会にアピールするという「医師の会」の意義は決して失われるものではないと考えられます。

以上のような議論を踏まえ、世話人会では、「医師の会」の存在意義を積極的に評価するとともに、今後もカルテ開示の推進、普及に向けて活動を継続するよう要請することを確認しました。