イギリスの記事のご紹介
池永満さんの、エセックス留学時代の友人から、1999年4月20日付の「ガーディアン」紙のコピーが送られてきました。
イギリスの医療事故紛争処理手続が大きく変容することを伝えるものです。患者の権利オンブズマンや、日本での紛争処理手続の改革を考える上で、トピックで有用な資料かと思い、ここにご紹介することにしました。
例によって誤訳もあるかと思いますが、そこはご容赦を。
(翻訳 久保井 摂)
NHSネグリジェンス「革命」
劇的な変化によって、病院は過失を認め、医療記録を交付しなければならなくなるだろう。
サラ・ボズリー
医療過誤の苦情申立手続を劇的に変革し、その結果、病院が過失を認め、申立から一、二ヶ月内に医療記録を患者に渡さなければならないようにする制度が動きはじめた。
NHSは、医師の過失を訴えている患者本人やその家族に、年間30億ポンドを支払っており、それに要する経費は毎年10億ポンドの割合で増大している。医療過誤訴訟は、ほかの民事訴訟がほぼ三年で解決するのに対し、解決までに平均で五年を要し、最も困難なケースでは10年あるいはそれ以上を要している。
その人的なコストも甚大なもので、しばしば死亡や後遺症を伴っている。また、もともと患者や家族は主治医を信頼していたのであるから、その精神的苦痛はいっそう大きく、したがって、誤った結果が起こり、しかも病院や開業医が事実を知ろうとしない場合に彼らが感じる幻滅も、より大きなものである。
あらゆる病院、トラスト、患者、代理人弁護士が遵守すべきことになる、この新たな訴訟前の紛争解決手続は、両当事者にタイムテーブルを課し、苦情を速やかに調査し、患者にその結果を伝えることによって、医療過誤事件の在り方を劇的に変えることになるだろう。
医療記録は、従来は、入手に数ヶ月もしくは数年を要し、しばしば患者は既に記録を紛失してしまったと告げられていた。今後は、医療記録は、患者やその弁護士から要求を受けたときから四〇日以内に交付されなければならず、裁判所を通じたディスクロージャーの手続によっても入手することができる。
苦情を申し立てる場合、患者は、まず、その病院や開業医に対し、苦情の詳細を正確に記載した文書を送付しなければならない。これに対しては、一四日以内に概要を伝える回答がなされなければならず、苦情申立の対象となっている事実を認めるか否かを明らかにする詳細な回答は、三ヶ月以内になされなければならない。
この改革は、一九九四年から一九九六年にかけて行われた、ウルフ卿によるJustice inquiryへのアクセスに端を発する。
その手続において、ウルフ卿は、裁判所でしばしば顔を合わせるが、お互いに会話することなど夢にも思わなかった人々、すなわち裁判官と看護婦、医師と原告代理人を同席させた。
その結果、医療過誤事件に関係する当事者すべてを代表する臨床的議論の場(フォーラム)がつくられることになった。このフォーラムは大法官局の後援を受けている。この手続を経ていない訴えは裁判所から排斥され、関わった弁護士は懲戒にかけられる可能性がある。
チェルシー・ウェストミンスター病院の医療研修及び研究のディレクターであり、このフォーラムの議長であるアラスター・スコットランドは、次のように述べた。
「中心的な前進のひとつは、これがクライアントや患者や医師を、これまでより長く運転席に座らせるものであることです。
これによって、病院は速やかに、しかし十分な調査を行い、すべてのスタッフから明確な陳述を得ることが期待できます。」
レイ・ディ法律事務所の医療過誤訴訟専門弁護士であり、このフォーラムの秘書であるサラ・レイはこう述べる。「問題は、トラストのひとつが、莫大な数の不服のどれを調査するかを、決定してしまうことです。」
彼らは苦情を訴える手紙に返事を書かないことにより、患者と代理人の両方の怒りを買っている。「私たちは、何年も、彼らに我々に回答を提出させる努力してきました。私たちは、それは弁解の余地もないことだと言い続けてきましたが、彼らはそのことを私たちと共に受け入れようとはしないのです。」
新しいシステムの下では、トラストが、その限られた資料をフォーカスすることが可能になるので、どれが説得力のあるケースで、どれが事件としてなりたたないケースかは、速やかに明らかになると信じられている。
「1994年に、私はいずれも約100万ポンドほどの大きな事件を四件と、もっと大きな事件を二件担当しました。」レイ弁護士は言う。「これらの事件はすべて審理(trial)に入る一週間前に(一件は審理の当日に)解決しました。私は最後には、非常な非常な怒りを覚えました。」
そのとき、彼女は、ウルフ卿と共に、あらゆる者の人生を悲惨なものにしてしまう手続を変えるための事業に取り組む決心をした。
スコットランド医師は、この改革は、新たなる公開性の傾向をもたらすだろうと信じている。「今日はじめて、我々は、病院が過ちの発生を自ら認め、直ちに情報を共有させるるようにするため、トップの弁護士及び患者グループと共に作業してくれる、医療専門家及びNHSの指導者を持つにいたったのです。」
「私たちは、遅延と秘密の文化を我々の背後に追いやりたいのです。それが、患者に、混乱、不安、怒りをもたらしてきました。公開性は、前進するための最良の手段なのです。」
彼は、更に、苦情は速やかにかつ公正に解決されることが重要である、と付言した。