権利法NEWS

「徹底討論!カルテ開示」のご報告

患者の権利法をつくる会事務局長  小林 洋二

月号でこの報告について予告した際には、出席者の誰かに原稿依頼をするつもりだったのですが、忙しさにかまけて依頼するのを忘れたため、結局自分で報告する羽目になってしまいました。

最近の総会企画では久々に満員御礼の会場で始まった討論会は、積極派vs消極派のエキサイティングな討論で始まりました。なにせ消極派は渡辺優子さん(たんぽぽ)、井上一夫さん(医療と福祉を考える会)、近藤誠さん(慶応大学麻酔科)、辻本育子さん(当会)といったメンバー。いつもは本当の消極派相手にカルテ開示推進を主張している論客ですから、議論のつぼを心得ているばかりか、理屈のこねかたも堂に入っています。しかし積極派の勝村久司さん(医療情報の公開・開示を求める市民の会)、中村道子さん(ソレイユ)、市村公正さん(メディオ)、福地直樹さん(医療問題弁護団)も負けじと反論、コーディネイター(私ですが)はなかなか口を挟むチャンスを与えてもらえず、「時間に限りがありますのでこの論点はこれくらいで」と、単なるタイムキーパーに成り下がる始末でした。

それにしても、福地さんがオランダの制度を挙げて非開示事由を第三者のプライバシー保護に限定すべきと主張するのを、近藤さんが「問題は合理的かどうかであって外国でどうなっているかなんて関係ない」とかわしたり、患者が亡くなった後遺族がカルテを見たいのは当然だという市村さんに対して、辻本さんが「死んでも夫にはカルテを見られたくない」と抵抗するあたりはロールプレイのディベイトならではの味わいですね。おかげで会場は大いに盛り上がりました。

論の後は、ゲストとして招待した「医療記録の開示を進める医師の会」の前納宏章先生、埼玉県保険医協会政策部長の秋元純先生のコメント。お二人ともカルテ開示に決して消極的ではないものの、条件整備がなされない現状での法制化には反対という立場を表明されました。

そのあといよいよ会場発言となったわけですが、これがまた出るわ出るわ。

「現実には法制化に消極的な市民はほとんど存在しない。消極派は医者だけだ。」

「まず開示を法制化しなければ条件整備もできない、介護保険と同じでとにかくやることが先決。」

「条件整備が必要だというのが一〇年前の議論なら理解できるが、いよいよ法制化という時にそれを持ち出すとはどういうことか。」

「現在の条件でもカルテ開示を実践している医療機関はある。」

「そもそも健康保険上、カルテがきちんとしていなければ診療報酬を返還させられる場合もある。開示が法制化されるからカルテを整備しなければならないという話ではない。」

「現状のままのカルテを見せることで、医療の現状を患者に理解してもらうことも大切。その上で患者と一緒に医療改善に取り組むというのがあるべき姿ではないか。」等々

手を挙げて下さったのに時間の都合で発言できなかった参加者の方に、紙面を借りてお詫びいたします。

最後はディベイターのロールプレイを解除して本音を語ってもらいました。私が「では積極派から」とマイクを渡そうとしたら、近藤さんが「まず消極派からだ!」と立ち上がり、渡辺さんが堰を切ったように喋り始めました。やっぱり消極派のふりをするのはストレスが溜まるんでしょうね。

最後の発言を一言づつ引用させていただきます。

渡辺
「カルテ開示法制化は、人権の問題であり、正しい要求を社会が認知していくということ。これを実現していくことは社会教育的な側面もある。」

井上
「消極意見の背景にはがん告知後の精神的ケアをどうするかという不安があるのではないか。しかしそれは避けて通れない。むしろそこをどう考えるかが医療の出発点だ。」

近藤
「自分も再診の時には五分間診療でカルテは二行程度。しかし患者が要求しているのはもっとカルテを書いてくれとことではなく二行でもいいから見せてくれ、ということ。見たい患者には見せればいい。」

辻本
「条件整備がないと法制化できないという話と、任意に開示するから法制化の必要はないという話は矛盾している。任意に開示できるのであれば法制化できない理由はない。」

市村
「私も本当は見せたくないなあという気持ちはあるし、開業医にはそういう人が多い。条件整備がないまま法制化されると不都合なことを書かなくなるのではと心配。」

福地
「俺のプライバシーはどうなるんだ?という医者が結構いる。カルテは自分のメモだと思っている医者はまだまだ多い。この意識を変えないとダメ。法制化なしでは一〇年待っても変わらない。」

勝村
「医療の現状は教育現場の学級崩壊の状態と似ている。こんな状態では授業参観なんてさせられないという教師もいたが、結局のところ積極的に参観させて、大変な状況を親に理解してもらったところから立ち直っていく。」

中村
「自分は二〇年前に手術を受けたが、その頃は全然情報をもらえなかった。この二〇年間でずいぶん変わってきたと思う。」

カルテ開示法制化こそ先送りになったものの、日本医師会のガイドラインを初めとする各種の指針で、カルテ開示は実践されつつあります。中村さんの言われるとおり、医療は確かに変わってきました。それはこの討論会に集まった方々を初めとする市民の熱い思いがあればこそです。そしてこの思いがあれば、医療はまだまだ変えていくことができるはずです。「徹底討論!カルテ開示」の熱気の中で、私はそのことが確信できたように思います。