編 集 部
メアリー・オーヘイガン 著
長 野 英 子 訳
解放出版社 一八〇〇円
一見不思議な本です。
著者は精神医療サバイバー(精神病・精神医療からの生還者)で、ニュージーランドで初のセルフヘルプ(自助)組織を創設した人。
本書は、彼女がオランダ、イギリス、アメリカの精神医療ユーザーのセルフヘルプ活動を回った旅の報告書ですが、各地で活動するサバイバー(この言葉は本書で初めて知りました)の生の声を記録しながら、精神医療ユーザー運動について論じています。
その中で「狂気の意味」が何度となく問い直されます。「狂気」「精神病」というレッテルの下に否定されてきた「文化」を再評価すること、そしてサバイバーをはじめとする精神医療ユーザーが、「人間」として活動できる市民社会であるためには、精神医療ユーザーにはいかなる運動が必要となるのかが問われていきます。
また、その場合、現存する精神保健体制との関わり方としては、その廃絶を求めるのか、あるいは改良を求めるのか、という問題提起がなされる中、彼女は第三の方法であるセルフヘルプ運動を提言し、展開してきたのです。
私たちは、これまで、精神医療ユーザーの視点から、精神医療に何が求められているのか考えることをしてこなかった・。そういう問題意識から、新しい「視座」を教えてくれる本として、私はこの本を手に取りました。
この本をどう読むか、感じるか、それは個人によって大きく異なるのではないでしょうか。
(編集委員 久保井摂)