神奈川県 渡 辺 優 子
平成一〇厚生省の「カルテ等の診療情報の提供のあり方」雑感
神奈川県 渡辺 優子
厚生省が医療審議会に提出したという「医療供給体制の改革について」の「カルテ等の診療情報の提供のあり方」を読みました。
しかし、何ですって!?
「開示の対象になるのは法律施行後のもののみ」で、「当面は、カルテそのものでなく別文書でもよい」ですと!?
まあ後者は聞き及んではいたものの、前者については完全に「聞いてないよー!」です。
しかも、「三年の準備期間の後で施行」、のそのまた後の話、ということじゃないですか。「過去」のカルテも「現在」のカルテも、当然、私たちの個人情報なのですから、同じ扱いにすべきです。法制度化するということは、今まで公にしていなかった「カルテへのアクセス権」を正式に認める、ということなのですし、他の公文書などに関する情報公開では、さかのぼっての請求も当然とされているわけですから、カルテだけ特別扱いはおかしいです。まして、「カルテ開示」というのは、ほかの情報公開と違って「本人開示」であり、ということは「本人に帰属するもの」と公に認める、ということなのですから、「施行前」のものと「施行後のもの」を差別化することが、そもそもおかしいと思います。
それから、「当面・・・別文書でもよい」というなら、私は、この法律を「カルテ開示法」と呼んではいけない、これは「カルテ開示法」ではない、と思います。「別文書」は「カルテ」ではありません。「ウソ」を書かれても確かめるすべのない文書など、「カルテに代わるもの」ですら、ありません。
しかも、それさえ三年後以降の話ということは、そこからさらにある程度の長期間、カルテは出ない、ということとイコールですから、どこが「カルテ開示法」なのか!という怒りのほうが涌いてきます。
また、「第三者から得た情報は開示を留保できる」とのことですが、これはたとえば前医からの紹介状なども含まれるということでしょうか? とすれば、これもやはりおかしいと思います。 たとえば教育情報に関して情報開示している自治体では、前校からの情報もあわせて開示しているんですね。個人の権利だと認めている自治体がそれを行なうことに矛盾はないわけだから、それでよいはずです。たとえば首都圏でいうと、川崎市では指導要録の開示が進んでいるので、情報開示しようとしない横浜市民などは、中にはわざわざ住民票を移して川崎市を通じて、横浜市立の学校で記された情報を手に入れる人もいるんですね。そうした情報開示の現状からすると、「第三者」云々というのは、とてもおかしいと思います。
折しも、一月一三日~一四日のTV・新聞などの報道で、横浜市大で患者を取り違えて手術した、というとんでもない事件があったことを知りました。これに関し、「まずふつうはありえない」などのコメントを流していたTV局もありましたが、私はそうは思いません。密室性の高い病院という場では、この程度のことは、もみ消そうと思えばまったくできないことではなかったはずです。被害者に事実が知らされず、或いは知らされたとしても本人なり家族なりが丸め込まれれば、表ざたにならないですんでしまうこともありうるでしょう。むしろこれは氷山の一角で、たまたま明るみに出た、と想像するほうが現実的な解釈だと思われます。そのように考えていくと、個人の権利が保証される法律は一刻も早く、いま現在の患者を保護する立場で運用されるべきです。本物の運用が一〇年先になるか二〇年先になるかわからないような法律を認めるわけには、絶対にいきません。
この厚生省文書は、「法制度化」という甘言で市民を惑わせ、実際には国に「ザル法」を進言する、悪質なものだと考えます。私は、個人の権利を保証する考え方に立った、本物の「カルテ開示法」を強く望みます。 (了)
※「遺族の取り扱い」に関しては、私が思うには「自己決定権」と「故人の権利を代行する遺族の権利」には矛盾する部分も感じられ、総括した意見をいうのは難しいので、法律専門家のご意見と言葉づかいでアピールしていただければ、それでよいと思います。